伝統の技法を受け継ぐ職人たちの誇り:池田絣工房
2023.08.30
伝統の技法を受け継ぐ職人たちの誇り:池田絣工房
純正の天然藍で染め上げられた、独特な風合いが魅力の久留米絣(くるめかすり)。括り藍染によって描かれる緻密な模様は、素朴で温かみも感じられるうえに、使えば使うほど美しく映える。
久留米絣は、国の重要無形文化財にも指定されており、200年以上の歴史と伝統がある。およそ100年にわたってその伝統を守り続けているのが、福岡県筑後市にある「池田絣工房」だ。
池田絣工房は、藍染⼿織りの伝統的な製法を用いて久留米絣を作っている一方で、時代の変化に合わせたものづくりにも注力している。
今回は、池田絣工房の4代目である池田大悟さんにインタビューを実施。池田絣工房が行っている久留米絣の製造工程や課題、次世代へとつなぐための取り組みについて、話を伺った。
PROFILE|プロフィール
池田 大悟
池田 大悟

久留米絣 池田絣工房の4代目。明太子のやまやで営業、タオルメーカーの伊澤タオル株式会社で商品開発や品質・工場管理を経験した後に、池田絣工房へ入社。伝統を大切にしながら新しい取り組みにも積極的に挑戦し、久留米絣を次世代へとつなげている。

多くの工程を経て、職人の手で作り上げられる久留米絣

池田絣工房の事業が始まったきっかけと、生産している織物について教えてください。
池田絣工房の創業は、1919年(大正8年)です。もともとは私の曽祖父が城島町の造り酒屋に丁稚奉公に行ったことがきっかけで筑後地域にやってきました。当時は絣業が盛んだったので、造り酒屋から絣業へと奉公先を変え、手に職をつけて独立、当工房が誕生しました。

当工房は、主に藍染めと手織りで生産しています。久留米絣には手織りと機械織りがあり、それぞれ織る工程が少し違うのです。そのため、模様の均一性や繊維の密度、生地自体の強度(引き裂き)にも違いが生じます。

手織りの良さは、曲線や細い線、緻密な模様を表現できる点ですね。模様は少し不揃いになるのですが、そこに手織りならではの味わいが出るのです。実際に使っていくと、「強度が保たれていて、均一性がなく、いい意味で遊びがあるから良い」という手織りの魅力が、よく現れてきますよ。

手織り機には、投げ杼(なげひ)と足踏みの2種類あるのですが、当工房ではどちらも扱っています。

また、手織りの織元(織物の製造元)は、基本的に藍染めしかやらないところが多いです。しかし、当工房は一般的な反応染料や、色が長持ちしやすい染料なども使用します。もちろん、藍染めはこだわって行うのですが、そこに固執してはいません。最近は洋服需要がほとんどですから、需要に合わせたもの作りをしているところが、当工房の特徴です。
糸や藍染めに使用する染料の蒅(すくも)の選定基準やこだわりはありますか。
糸の基準は特に設けていませんが、基本的に国内で作られた紡績糸を使っています。糸の番手(太さ)は、作ろうとしてる模様や仕立てるものによって変えています。柄が細かくなればなるほど、細い糸を使った方が再現性が高くなるためです。

蒅(すくも)は、徳島から取り寄せています。量や品質はどうしてもその年によって変わってしまうので、良い状態のものをしっかり仕入れておき、2〜3年分を備蓄しています。
筑後地方で手織りをされている織元は、どのくらいあるのでしょうか。
織元自体は産地全体で20軒ほどあるのですが、手織りをしているのはその中で8軒くらいだと思います。ただ、その中でも常時生産している織元は少ないですね。流通させることを目的として数を作っているのは、当工房くらいです。

池田絣工房は貴重な存在なのですね。久留米絣は、どのような工程を経てできあがるのでしょうか。
久留米絣の製造工程は30工程ほどあると言われており、本当に細かく挙げていくとそれ以上になります。なかでも重要な工程を挙げると、デザイン、整経、括り(糸で縛り防染すること)、染め、織りですね。

久留米絣は国の重要無形文化財に指定されているのですが、「手括りによる絣糸を使用すること」「純正天然藍で染めること」「投げ杼の手織り織機で織ること」の3つが認定条件とされています。

これらの条件を満たしたうえで検査に合格したものが、重要無形文化財の証紙を貼られて市場に出るので、括り、染め、織りは特に重視される工程です。
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