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2024.05.08

モルドバから世界へ 日本未上陸の新進ブランド「OK KINO」の繊細なものづくりの背景を探る

「モルドバ共和国」と聞いて、何をイメージするだろうか?
モルドバは東欧に位置し、ルーマニアとウクライナに隣接する旧ソビエト連邦を構成していた国家のひとつ。国土は九州よりやや小さく、ワイン程度しか特段の産業もないため、経済規模では“ヨーロッパ最貧国”として知られている。
ファッションの素晴らしい側面は、資源不足による制限が創造性を刺激する要素になり得ることで、拠点とする国の経済規模が必ずしもネガティブにならないことである。モルドバの首都キシナウ現地を訪れ、デビューから2シーズン目を迎えた「OK KINO(オーケーキノ)」に出合って、改めてそう感じられた。
共同創立者のダリア・ゴルノヴァ(Darya Golneva)とデニス・カウノフ(Denis Caunov)は共にモルドバ出身で、キシナウを拠点に主にモルドバ生産のウィメンズウエアを展開する。
その魅力は、自然素材を使った多彩な質感の生地に、丁寧に仕立てられたテーラリング、体のラインを美しく見せるカットとシルエット。洗練された都会的なデイリーウエアに、モルドバの伝統的な手法で編まれたクロシェを装飾として施したり、祖父母が着用していた古い洋服から踏襲したディテールのデザインを織り交ぜたりと、独自性を探究している。
注目すべき有望株である「OK KINO」。クリエイティブのプロセスやモルドバのファッション事情など、ダリアにブランドの背景を聞いた。
PROFILE|プロフィール
(右)ダリア・ゴルノヴァ Darya Golneva
(右)ダリア・ゴルノヴァ Darya Golneva

モルドバの首都キシナウ出身。ファッションデザインを学んだ後に、ライフパートナーであるデニス・カウノフと共にファッションブランド「OK KINO」を創立。工業デザインや芸術、写真から着想を得た現代性と、母国モルドバの職人技と文化を融合させて、新しいミニマリズムを探究している。

もっとも創造的な表現の手段

まずは、2人の出会いから教えてもらえますか?
私たちの出会いは大学です。デニスは建築を、私はファッションデザインを専攻していました。異なる分野とはいえ、共にファッションを含むデザインに対する共通の情熱を持っていたため、常にアイディアを交換することができました。
大学卒業後、デニスは建築事務所で働き、私はテキスタイルデザインの経験を積むためにイタリアへ行きました。それでも、私たちのファッションへの情熱が冷めることはなく、しばらくしてから一緒に洋服を作るために協力することを決めました。
シェイプやテクスチャーに無限の可能性のある洋服づくりは、私たちにとってもっとも創造的な表現の手段だと感じたからです。
既存ブランドに従事するのではなく、自分たちで創立するに至った動機とは?
最大の動機は、子どもの頃から自らの手で物を作ることに魅了されてきたからです。何かをゼロから作り上げるというプロセスに、ずっと夢中ですし、生涯にわたってそうだろうと思います。
学芸会で使用する衣装を縫ったり、絵を描いたり、布地を選んだり、古い洋服をアップサイクルしたりして、数え切れないほどの時間を祖母と過ごしたことを思い出します。
アイディアを思いついてからそれを実現するまでのプロセス全体は、私たちにとって紛れもない魅力を秘めています。やがてその想いは洋服という形で具現化されるようになりました。

文化的要素を現代の洋服と組み合わせる

繊細なカラーやカット、シルエットに「OK KINO」の美学を感じます。ブランドのコンセプトを教えてもらえますか?
「OK KINO」 のコンセプトと美学は、見慣れたアイテムを解体したり、個々のディテールを分離したりすることを中心とした変革的なアプローチと言えます。既存のオブジェクトを再考し、ユニークで個人的なものにするというプロセスに興味をそそられるのです。
散歩中に人間観察をしたり、建築や自然風景など、この世界の観察を楽しむオブザーバーというのが私たちの本質です。 都市生活を探索する場合でも、古い村の建築を探索する場合でも、ディテールにまで目を凝らします。
私たちのコレクションは、地元のモルドバ文化への言及を特徴としており、文化的要素を現代の洋服と組み合わせることが魅力的であるという美学がブランドの骨幹になっています。
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