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山口壮大「スタイルと言葉、感覚の共有可能性」

ファッション研究者、京都精華大学デザイン学部准教授・蘆田裕史氏とお送りする特集企画「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」。今回は、ファッションディレクターの山口壮大氏をお迎えし、スタイリングと言葉の関係について、蘆田氏自らインタビューを行いました。
スタイリングとして要素を組み合わせていくときの考え方、またそういった感覚を共有するための論理化の可能性をめぐる対話をお届けします。
PROFILE|プロフィール
山口壮大

1982年愛知県常滑市生まれ。文化服装学院卒(第22期学院長賞受賞)
2006年よりスタイリスト、またミキリハッシンディレクターとして活動開始。2012年渋谷PARCOに次世代型セレクトショップ"ぴゃるこ"をオープン。2015年KANSAI YAMAMOTOのクリエイティブディレクションを担当。2021年高田賢三回顧展のディレクション及びキュレーションを担当。ファッションディレクターとして様々なブランドと共に、展示・イベントの企画を行う。

スタイリストの服の捉え方

思想と表層を切り分ける
蘆田僕はプロダクトデザインや建築と同じように、ファッションデザインでも制作をロジカルに行うことが必要だと思っているのですが、そのためには言語化や、衣服/服装の要素への分解が必要です。
今回、「山口さんが服をどのように認識しているのか」を聞いてみたいと考えています。山口さんはスタイリストでもあり、商品企画を行うディレクターでもあります。スタイリングを組むとき、あるいはディレクターとして商品企画をするときに、どんな風に服を見ているのかを聞いていきたいと思います。
山口完全に僕の個人的な意見ですが、まず、服そのものに対しては、どういった哲学や思想の下で生み出されたのか、深層に潜むコンセプトの部分を大切に視ています。その上で、素材やカラー、ディテールといった表層的な部分に、哲学や思想がどう落とし込まれているのかを見逃さないようにしています。一方で、スタイリングを組む際は服に潜む思想の部分と、表層の部分を一旦切り離して捉えます。着用いただく被写体の方も、同じようにその方がどういう生き方をされているのか、どういう物語があるのか、という内在的な側面と、その方の外見は切り離して考えていて。それをパズルのように組み合わせていく感覚で視ています。
蘆田その組み合わせには、セオリーのようなものはあるのでしょうか?例えば、○○な性格の人には、××を着せる、みたいなことです。その人が自分をどう見せたいのか、その目的によって変わるかもしれませんが。
山口難しいですね。最終的な出口はやはり、表現するメディアによって変わっていくじゃないですか。例えばファッションマガジンで流行にフォーカスする媒体であれば、流行が最も外側のフィルターとして目に映るので、そこを際立たせるように導きます。もう少し人間にフォーカスが出来るときは、その人自身が現れる要素を最も外側のフィルターとして映す。そこから、表現したい軸をぶらさないように、深さを出していく感覚かもしれません。
かっこよさ、かわいさをめぐる判断
蘆田スタイリングって諸要素の組み合わせとして捉えることができると思います。トップスとボトムスといったアイテムの組み合わせ、色や柄の組み合わせ、シルエットの組み合わせのように。つまり、スタイリストは衣服や服装を——意識的であれ無意識的であれ——要素に分解しているのだと思いますが、山口さんは衣服/服装がどんな要素から構成されていると考えているのでしょうか。
山口まず冒頭でお話ししたような、目には見えない、そのモノに内在する情報から捉えています。要素で挙げていくと、そのモノが生まれた背景。ここにはブランドやデザイナーの名前、年代なども含んでいます。次に洋服のルーツ。例えばミリタリーが起源など、どのような文脈から来ているものなのか捉えます。
その次に目に見えている情報である、カテゴリーやデザイン、素材、パターン、ディテールといった、細部の表現を視ていきます。こんな感覚で、ざっと一通り眺めて。その後に、それぞれの要素を自分で組み立てて、勝手に解釈します。例えばルーツがミリタリーであっても、色柄や素材がすごく優しく作られていたら、真実は分からないですけど、そこに何らかの批評性を感じるじゃないですか。そういった感覚を大切にしながら、総体的に捉えていきます。
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