Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2023.04.27

墓石メーカーがジェンダーレスコスメ 「BOTCHAN」を作った理由

落ち着いた色合いでシンプルなデザインが多くみられるメンズコスメの中で、そのカラフルなパッケージデザインから突出した存在感を放つコスメブランド「BOTCHAN(ボッチャン)」。

このブランドを手掛ける、株式会社アンド・コスメの加登兄妹の家業は墓石メーカーだという。まったくの異業種であるメンズコスメ業界にチャレンジした理由や、コスメを通して伝えたい想いを専務取締役 加登愛子さんに伺った。

墓石メーカーがコスメ業界に参入したワケ

7~8年前の日本のコスメ業界におけるメンズコスメ市場は今ほどの規模はなく、カテゴリとしてはおもにシャンプーやトリートメントなどの毛髪・頭皮ケアや、ワックスやスプレーなどのスタイリング剤が多くを占める状況だった。しかし、こうした市場に異業種として参入し、メンズの素肌を意識したスキンケアコスメを提供するというのが、アンド・コスメの手掛けるBOTCHANのコンセプトだ。

「BOTCHANは2016年に兄と共に立ち上げたプロジェクトです。家業は古くからの風習や慣習が今も色濃く残る霊園や墓石などを扱う業界でしたので、そういった慣習にとらわれず、自分たちのやりたいことが前面に出せる新規事業を始めたいと思い立ったのがスタートのきっかけでした。

どんな事業にするかで悩んでいたときに、化粧品の原料会社をしている知人から話を聞く機会があり、そこでコスメ業界に興味が湧きました。

さらに当時の市場には、兄の感性に合うメンズコスメがなかったことも動機のひとつです。メンズコスメといえば、モノクロのパッケージで中身はメントールといったものがほとんどでしたので、それとは違う、自分たちが本当に使いたいものを作りたいと考えました。

また、女性向けのスキンケアコスメがたくさん出回るなかで、まだまだ選択肢の少ないメンズコスメ市場に可能性も感じました」

使う人の生活をクリエイティブにするプロダクト

一度見聞きれば忘れないであろうキャッチ―なブランド名 BOTCHAN。すぐに夏目漱石の小説タイトル「坊っちゃん」とリンクする人も多いはずだ。

BOTCHAN ブランドロゴ
BOTCHAN ブランドロゴ

「今までにないメンズコスメを作るというコンセプトのもと、ネーミングについてはコピーライターやアートディレクターも含めて数十通りの案を出し合いました。それらを全部、1枚ずつA4用紙にプリントアウトして会議室に並べて、その場にいたスタッフが『全員一致でこれ!』と選んだのがBOTCHANでした。

坊ちゃん=男性に伝わりやすいという点と、夏目漱石の小説『坊っちゃん』の、風習や慣習に抗いながら、自分の個性を探し成長していく主人公の姿と、BOTCHANを使っていただきたい方の姿とがぴったり重なったことで迷いなくこのネーミングとなりました」

遊び心に溢れたカラフルで人目をひくパッケージデザインもこのブランドの特徴だ。インテリアとしても映え、部屋にあるだけで気分が上がるプロダクトは、スキンケアを始めたばかりの人が習慣化していく上でのモチベーションにもなるだろう。

製品一覧。左から洗顔、化粧水、美容乳液、メンズ肌補正クリーム、コロンスティック、リップバーム、アイブロウマスカラ(2色展開)、1dayネイル 、フェイスマスク、CBD配合ミントタブレット
製品一覧。左から洗顔、化粧水、美容乳液、メンズ肌補正クリーム、コロンスティック、リップバーム、アイブロウマスカラ(2色展開)、1dayネイル 、フェイスマスク、CBD配合ミントタブレット

「アートディレクター飯高氏にお会いして打ち合わせをしたとき、既成概念に囚われないようなものを作りたいという想いを伝えました。そして、軽やかな気分でスキンケアを楽しんでもらうイメージもデザインに反映いただいています。

また、すべてのアイテムを異なるカラーにしているので、並べると自然と虹色を連想させてくれるデザインにもなっています。この虹色にはLGBTQ[1]をはじめとする多様性をサポートしていくというブランドの想いも込められています。

クリエイティブという意味では、ファッションや雑貨とのコラボレーションも行っています。デザインや価格帯からギフト需要が高いのですが、コラボアイテムとBOTCHANを組み合わせてギフトを彩ることで、贈ることを楽しい習慣にしていただきたいとも思っています」

左:BOTCHAN×TAITAI×tk.TAKEO KIKUCHI夜ふかしクーラーサコッシュ / 右:オリジナル風呂敷
左:BOTCHAN×TAITAI×tk.TAKEO KIKUCHI夜ふかしクーラーサコッシュ / 右:オリジナル風呂敷

自分らしくいることを応援、性別にとらわれないコスメを

LOOK BEYOND.「男らしく」を脱け出そう。というブランドのキャッチコピーと独創的なデザインからは、ジェンダーの壁を超えていくことへの心意気を感じる。

メンズコスメは一般的に「このアイテムを使ったら女性からモテる!」といった訴求が多いが、BOTCHANはそういったアプローチを一切していない。コスメを使って身だしなみを整えることで、男らしくでも女らしくでもなく、また無理に我慢したり、こうならなければならないと思い込んだり、他人の影響を受けすぎたりするのではなく、あくまでも自分らしくいることを応援しているという。

ニュートラルな感覚を持った繊細な男子の味方といわれたり、パートナーや家族と共有できるシェアドコスメや、性別にとらわれないジェンダーレスコスメとして愛されたりしている理由もそこにあるのだろう。

「固定的な観念に縛られて、本来の個性を発揮できずに押し殺されて生きている方々の心を解放するお手伝いを、BOTCHANでできたらと考えています。自分らしくないと、人は本来の能力を十分に発揮できないと思いますし、何よりも自分らしく生きることがその人の美しさにも繋がると信じています」

BOTCHAN FLOWER MOISTURIZER
BOTCHAN FLOWER MOISTURIZER

「成分や使用感については、女性向けのコスメと同じように肌を愛でるという点を大切にしています。天然由来成分やフリー条件などにこだわり、できるだけ肌に負担となりにくい配合を心掛けています。たとえば、美容乳液『BOTCHAN FLOWER MOISTURIZER』は、油分の多いクリームではなく水分の多いジェルクリームにすることで、べたつきを軽減し、スキンケア初心者の方にも使いやすい使用感を実現しています。

ひと塗りで毛穴を目立たなくし、オイルコントロールしてくれるスキンパーフェクターマット(肌補正クリーム)は、性転換の手術などでホルモンバランスが変わり、皮脂の分泌量が増加したというトランスジェンダーの方々からもご愛用いただいているとの声をいただいています」

コスメを通して多様性と向き合う

ローンチから約5年、BOTCHANがメンズコスメの枠を出たジェンダーレスコスメとして認知されるようになったのには、女性のお客様が約半数という事実の他にLGBTQに関する知識啓発を推進してきたことがあげられるだろう。

「東京レインボープライドに出展したり、公式SNSでセクシュアリティに関する素朴な疑問に答えるライブを実施したりなどで、多様性が認められる寛容な社会を実現するためのサポートを行ってきました」

見た目問題解決NPO法人マイフェイス・マイスタイルとBOTCHANのコラボ企画
見た目問題解決NPO法人マイフェイス・マイスタイルとBOTCHANのコラボ企画

「直近ではLGBTQだけではなく、見た目問題[2]を解決し、誰もが自分らしい顔で自分らしい生き方を楽しめる社会をめざすNPO法人マイフェイス・マイスタイルとコラボしたInstagram写真展を2023年2月に開催して反響をいただき、現在はリアルな写真展が開催できないか模索しているところです。

今後も、BOTCHANと親和性があり、共感できる活動や、自分らしくいることを大切にされている団体などがあれば一緒に活動していきたいと考えています」

社会課題を入り口にBOTCHANを知る人は、根強いファンになってくれる印象があるという。またBOTCHANを通じて知る社会課題は、スキンケアのように身近に感じることができ、明るくポジティブな感覚を持って向き合えるのではないだろうか。

5月に発売される待望の新商品は、顔や体だけでなく髪にも使用できる日焼け止めスプレーだ。どんな色やデザインで発信されていくのか、今後が楽しみだ。

[1]LGBTQ
Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング、性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称のひとつ

[2]見た目問題
顔や体に生まれつきアザや、事故や病気によるキズ、ヤケド、脱毛など、先天的や後天的な「見た目(外見)」の症状がある人たちが、「見た目」を理由とする差別や偏見のせいでぶつかるさまざまな困難。「見た目に問題がある」ということではなく、「見た目を理由とする差別や偏見などによって生じる問題」のこと

PROFILE|プロフィール
加登 愛子(かとう あいこ)
加登 愛子(かとう あいこ)

株式会社アンド・コスメ 専務取締役
NY州、パーソンズ・スクール・オブ・デザインにてファッションマーケティング科を修了後、ニューヨークを拠点とするファッションブランドでマーケティングを担当。ニューヨークの他、カリフォルニア、ハワイでの生活を経て、兄である加登隆太と共に株式会社アンド・コスメを設立。海外生活で得た経験を生かし、枠にとらわれないユニークな発想でBOTCHANを創案。

LINEでシェアする