Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2022.04.22

毛髪を素材にニットウェアをつくる:Human Material Loop

Human Material Loop(ヒューマン・マテリアル・ループ)は「テキスタイル産業に革命を起こすこと」を使命に、2021年に設立されたアムステルダムのスタートアップだ。
同社は提携先の美容室から廃棄された人の髪の毛を回収、加工し、高性能な糸とテキスタイルを開発する。毛髪は産業革命以前は靴下や靴などの繊維製品やロープなどに活用されていたものの、それ以後は素材として使われなくなった歴史を持つ。
しかし、毛髪は動物性のウールと似通った性質を持つことから、創業者のZsofia Kollar(ゾフィア・コラー)は、毛髪がテキスタイル産業を取り巻く問題に取り組むポジティブな可能性を持っていると考えているそうだ。今回、創業者のゾフィアに同社の設立背景と毛髪のイノベーションについてインタビューを行った。

歴史の中で拒絶された素材を使うこと

Human Material Loopを始めたきっかけは何でしたか?
私はコンセプチュアル・デザインの背景を持っており、特定素材に対する視点や認識を変えることを目的にデザイン活動を行っています。リサーチをしているうちに、毛髪にとても魅了され、毛髪がいかに世界のあらゆる地域の文化の一部であるかを認識しました。しかし、私たちは素材としての毛髪を拒絶してきました。

そこで、この認識を改め、繊維産業に素材として利用してもらうためにはどうしたらいいかを考えるようになりました。毛髪について調べれば調べるほど、繊維産業の汚染に取り組む毛髪の活用に焦点をあてた会社を創ることはとても理に適っていると考え始めたのです。
髪の毛に魅了された最初のきっかけは何でしたか?
人間の髪の毛が持つ文化的な影響力、そして私たちがいかに髪の毛を大切に扱っているかということに魅力を感じたことがきっかけです。しかし、美容院で髪を切った途端に、髪の毛は床に落ちている廃材になります。ですから、一度切った髪の毛の価値観をどう変えられるのかを考えるようになりました。
さらに、私は旧ソ連の国、ハンガリーで育ちました。そこでは、女性は美しさやかわいらしさを基準に扱われます。そして、髪は常に美しくなければならず、女性として認識されるためには長い髪を持たなければならない。そこで、その常識を覆すにはどうしたらいいかと考え、取り組み始めたのです。
昨年、ニット製品のコンセプトモデルが発表されましたね。その製造プロセスについて教えてください。
基本的にはウールに近いです。まず素材を洗い、それを紡いで糸にし、デザイナーがそれを編んでセーターにするといった流れです。
そして今年、2つ目となるプロトタイプが発表されましたが、具体的にどの点が改善されたのでしょう?
アイスランドウールのようなざっくりとした感触があった昨年のモデルに比べ、今回はソフトな印象になりました。また、そもそも目的としてはいませんでしたが、色がより均一となっており、今回は違う表情が出ています。
左から コンセプトモデル(2021)、アップデートモデル(2022)
左から コンセプトモデル(2021)、アップデートモデル(2022)
コロナ渦中に創業したとのことですが、その中で大変と感じたことはありましたか?
多くのヘアサロンが閉店していたため、髪の毛を集めて実験を行うことが叶いませんでした。しかし、その一方で、研究に多くの時間をかけ、しっかりとした基盤を作ることができたのも事実です。
ですから、パンデミックの規制が緩和されてから、研究結果を踏まえた実験に取り掛かることができたのです。どんな状況でもプラスとマイナスがあるとは思いますが、私たちはパンデミックによって、より膨大なリサーチをすることができました。

大事にお手入れされている毛髪を活用

人の髪の毛は他の既存素材とどう異なりますか?
既存のウールと人間の髪の毛は、どちらもケラチンタンパク質の繊維であり、その性質に違いはほとんどありません。髪の毛は、紡ぎ方次第で細くしたり太くしたりすることができます。
例えば髪の毛は、ウールよりも直径が太く、小さな毛が飛び出しているような感じで、柔らかいアルパカよりも少し荒い印象があり、現在毛髪を柔らかくするよう開発を進めています。考えられるウールと毛髪の主な違いは、ウールにはウール生産の発展を支えた何世紀にもわたる伝統と産業の蓄積があり、髪の毛にはまだ無いということです。
1 / 4 ページ
#Sustainability
この記事をシェアする