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2022.08.05

メイクは枷だが武器にもなるーー美容によるエンパワーメントの可能性(栗田宣義)

PROFILE|プロフィール
栗田宣義(くりた のぶよし)
栗田宣義(くりた のぶよし)

甲南大学文学部教授、学術誌『新社会学研究』編集同人。文化社会学、社会理論が主たる研究領域。博士(社会学)。島田一男賞(社会心理学会)受賞。国際基督教大学を卒業後、上智大学大学院へ進学。国際基督教大学助手、カリフォルニア大学客員研究員、武蔵大学教授・社会学部長・武蔵学園理事、関西国際大学副学長・濱名学院理事を経て現職。『メイクとファッション』(晃洋書房)、『マンガでわかる社会学』(オーム社)など著書多数。『anan』『SPA!』『日本経済新聞』『毎日新聞』『読売新聞』『Japan Times』、AP、AFP、NHK(テレビ総合、ラジオ第一、BS、World-Japan)、フジテレビ、日本テレビ、東京FMなど雑誌/新聞/通信/放送を通じて夥しい数のインタビュー記事提供・連載記事掲載・番組出演。

「ガングロ」は最初で最大の“女子の運動”

栗田先生のご研究内容を簡単に教えてください
私は、博士論文までは社会運動の計量社会学的な研究を行っていました。60年代70年代は若年層の異議申し立て運動が行われ、政治とサブカルチャーが密接に関連していた時代です。「時代の空気の中でなぜ人々は抗議するのか」を、計量的に研究していました。
その後、主たる研究領域をメディア論へと移しました。事実そのものを扱うのではなく、メディアが作る環境がどのように私たちの意識を決定しているのかに、興味を持つようになったからです。
90年代の終わりからその研究はスタートしたのですが、注目したのは雑誌です。毎日新聞社のデータで、読書調査という形で青年層、少年少女から大学生世代ぐらいまでの人たちがどんな雑誌を読んでるかという調査が積み上がっていることを知りました。たとえば小学生だと、昔は学年誌でしたが、90年代ぐらいになると『コロコロコミック』や『週刊少年ジャンプ』が親しまれるようになったというデータがあります。そこで雑誌の影響や内容そのものを分析しました。
その分析を行っていくなかで、メディアのテクノロジーの進歩、つまりインターネットの普及によって雑誌媒体の持っている意味が薄れていったことがわかりました。その一方で、90年代から2000年頃にかけては女性向けの雑誌、いわゆる女性ファッション誌などが隆盛してきました。そこで、日本の若年層女性の価値を分析するのであれば、ファッション誌を研究をしなきゃいけないと考え、メイクとファッションの研究を開始しました。
社会学におけるメイクの価値に関する研究の動向を教えてください
私がメイクに関する論文を社会学の文脈で初めて書いたのは2000年代中頃でした。その頃は、社会心理学などからのアプローチによる研究は行われていましたが、社会学ではあまり行われていませんでした。関西大学の谷本奈穂先生が、美容整形の研究を始められていたのが先駆的な研究でした。
つまり日本の社会学の歴史の中では、ごく最近になって研究がスタートしたと言えます。それは社会学という学問自体が「男性優位」であり、そのなかでメイクを扱うのが主に女性の媒体であったことが研究が進展しなかった背景にあったと思います。
また、女性側からの研究が少なかった理由としては、フェミニストの人たちの中でも、メイクに対して否定的な意見を持つ人が少なくなかったからではないでしょうか。メイクは、男性中心社会の中で女性を従属させる枷として位置付けられていたと思います。
その中で、栗田先生はメイクをどのように位置付けているのでしょうか?
すでに申し上げたように美容化粧服飾は長い間人々を、特に女性を拘束するための枷、しがらみとして捉えられてきました。しかし、現場にいる女性たちは枷であることを自覚しつつ、自己を高める武器として使っている部分もあります。
たとえば、日本のギャルブームに関する研究を行っていくなかでわかったことですが、日本のギャルたちは、男性に媚びないカルチャーを内発的に生み出した人たちなんですよね。象徴的なのが、90年代から2000年代初頭にかけて流行した「ガングロ」です。あのメイクで用いられる黒や茶色は、男性に従属するために行うわけではなく、自分や仲間のためにします。つまり、「女子ウケ」のためです。
フェミニズム、女性の解放運動はもちろん昔からあるわけですけれども、ある意味ではごく普通の女性たちにとっては内発的ではなかったとも言えます。強い運動/強い活動家の思想や存在を前提としていました。
その一方で、ガングロギャルはフェミニズムだとか女性解放なんて言葉を使ってはいないのですが、自分たちの言葉と行動で内発的に男性からの解放を実現させている面もあったという意味では、日本における最初で最大のオリジナルな「女子の運動」としても捉えられるのではないでしょうか。
このように、近年メイクなどの美容が、人を解放するための武器としても使われているという認識が、社会学の世界でも芽生え始めてきていますし、私としてはそれを強く後押ししたいと考えています。
栗田先生のご著書
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