Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2021.10.29

ケイン樹里安「メディア・日常に埋没する人種秩序とファッションを考える」

ファッションにおいても人種差別は大きな問題であり、BLM(Black Lives Matter)との関連や文化の盗用をめぐって、特に2020年代に入ってから次々と問題化されている。
もちろん、人種差別はいけない。だが、私たちはなにに目を向けて、なにを行うべきなのだろうか?日常や産業構造に巧妙に隠れている差別の問題にたいして、私たちはどのように立ち向かうべきなのだろうか?今回は、“ハーフ”の人びとの日常的な実践に着目し研究を行っている社会学者のケイン樹里安さんにお話を伺った。
社会学者のケイン樹里安さんが2022年5月13日、逝去されました。ご生前のご功績を偲び、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
PROFILE|プロフィール
ケイン樹里安
ケイン樹里安

専門は社会学/文化研究。主たる研究テーマ「ハーフ」や外国にもルーツのある人々の日常的実践。コーラと唐揚げが燃料。主著は『ふれる社会学』(共編著、北樹出版2019年)など多数。HAFU TALK ハーフトーク共同代表。

潜む「人種秩序」と行われない「反差別」

まずはケインさんのご関心やご研究について教えてください。
僕の研究は、いわゆる「ハーフ」や「ダブル」「ミックスルーツ」外国に(も)ルーツを持つ人々が日常生活で直面するしんどいことに対して、どのような対処をしているのか、というものです。
そのような対処を経て、人々がどうやってサバイヴしているのか、サバイヴがなぜ困難なのか、という点に関心があります。自分の修士論文が2014年3月で、同時期に『〈ハーフ〉とは誰か 人種混淆・メディア表象・交渉実践』というハーフを主題にした本が日本で出版されました。
逆に、それくらいまで研究がなかったということです。2019年に仲間と刊行した『ふれる社会学』はだいぶ変わっていて、外国につながる子どもの章と「ハーフ」の章が独立しています。それが珍しいよね、と言われるのはありがたいことで、本書の特色の1つではあるのですが、特色になってしまうほどスルーされてきた、つまり社会問題としてみなされにくい領域のままであることに、強い危機感を感じています。
ファッション業界ではBLM、文化の盗用など、人種をめぐるさまざまな問題提起がされています。ケインさんご自身、ファッション業界についての印象やご関心を持った出来事があれば教えてください。
ファッション業界・美容業界は、「容姿端麗で白人身体性をもつハーフ」という、この社会に深く埋め込まれた「理想の身体性」をもつ、イメージとしての「ハーフ」像の構築・維持に深くかかわってきた業界という印象が強いです。
イメージとしての「ハーフ」像にみられる理想の身体性と比較され、そのような身体を持っていないとみなされてきた人々はもちろん、そうした身体性と合致しうると周囲から判断されてしまう人々も、日常の生き苦しさと直面してきました。ファッション業界で働かれているみなさんが意図的に差別しようとされてきたわけではないと思いますが、善意や熱意と差別は残念ながら両立してしまうものです。日々の懸命な仕事が、結果として抑圧につながってきた、ということは否定できないと考えています。
BLMへのリアクションとして、いろいろな企業がステートメントを出していることは、ある意味褒められるべきことというよりは、ある種当然のリアクションなのではないかという冷めた目線と、ないよりはある方が良いという目線で注視すべき、というスタンスです。
ですが、これらのステートメントが「共感」を示すだけのものなのか、「偏った経営陣やプロジェクトの変革」を示すものなのか、注視が必要だと思います。具体的な中身、実質的な改革や今までのプロジェクトを振り返りが重要だと思います。
このような問題にはどのような背景があるのでしょうか?
「人種秩序」と呼ばれる人種によるピラミッド構造が歴史的に作られてきました。暴力的に作られてきたヒエラルキーがある意味、ファッション業界にも持ち込まれてきてしまった。というより、人種の秩序と共にファッション産業が成り立ってきたといった方が正確かもしれません。
1 / 6 ページ
#Recommendation
この記事をシェアする