

Articles
ヴィンテージだけが正解じゃない! 原宿「ジャンピン ジャックス」が伝える1950年代のファッション
1950年代のアメリカで一大ブームを巻き起こしたロカビリー。その音楽とファッションに魅せられ、40年以上にわたって情熱を注ぎ続けてきたのが、原宿の「JUMPIN' JACK'S(ジャンピン ジャックス)」のオーナー、エロヴィス佐藤さんだ。
店内には希少なヴィンテージから当時のスタイルを忠実に再現した復刻アイテムまでが並び、世代を超えたファンが訪れる。高額なヴィンテージだけにこだわらず、1950年代のファッションや音楽の魅力を独自の感性で伝え続ける佐藤さんに、その原点と今も色褪せないロカビリーカルチャーについて聞いた。

ストレイ・キャッツとの出会いが人生を変えた
福島県白河市で生まれ育った佐藤さん。1950年代のアメリカ文化に魅せられたのは、15歳の頃だった。「もともとクールスやキャロルといった日本のロックンロールが好きだったんです。中学3年生くらいのときにストレイ・キャッツのレコードを買って、ロカビリーに興味を持つようになりました。まあ、そんなヤツ、学校で自分ひとりでしたが」
1980年代初頭、1950年代のロカビリーを現代によみがえらせたストレイ・キャッツが人気を集め、日本でもフィフティーズブームが巻き起こっていた。

映画や雑誌を通じてファッションやインテリアにも興味を広げた佐藤さん。なかでも憧れたのが、ロカビリーカルチャーの発信地、東京・原宿だった。
「当時、原宿には『クリームソーダ』という名店があって、ブラック・キャッツのメンバーが働いていたんです。彼らに会いたくて原宿へ足を運びました。1950年代の洋服を扱う古着屋もあって、もう夢中でしたね」
やがて憧れは本場アメリカへと向かう。20代初め、アルバイトで貯めたお金で渡米し、エルヴィス・プレスリーの邸宅・グレイスランドがあるテネシー州メンフィスを訪れた。
「8月16日はエルヴィスの命日で、ファンがキャンドルを持ってグレイスランドに集まるんです。ちょうどその日に訪れ目にした光景は一生忘れられません」

なぜ、ロカビリーにはウエスタンウエアが似合うのか
1950年代のアメリカでは、経済成長を背景に新しい音楽やファッションが次々と生まれた。その象徴の一つがロカビリーだった。「僕が一番好きなのは1950年代半ば、いわゆるミッドフィフティーズのカルチャーです。ロカビリーがものすごい勢いで盛り上がった時代です。特に1956年はエルヴィス・プレスリーが大ブレイクして、世界中で注目されるようになったんです」
ロカビリーとは、アメリカ南部のヒルビリーと呼ばれるカントリーミュージックと、黒人音楽のリズム&ブルースなどが融合して生まれた音楽ジャンルだ。エルヴィスやカール・パーキンスらが、1950年代半ばに一大ブームを巻き起こした。

では、なぜロカビリーファッションには、ウエスタンシャツなどのカウボーイスタイルが多いのか。
「もともとカントリーやウエスタンの歌手たちがロカビリーを歌い始めたからです。彼らの衣装は当然ウエスタンウエアだった。だからロカビリーにも、そのスタイルが受け継がれているんです」
華やかなシャツや個性的なブルゾンは、一般的な日常着というより、ミュージシャンたちのステージ衣装として発展したものだという。
「ロカビリーファッションは、やっぱり音楽ありきなんです。普通の人たちというより、ロカビリーのスターたちが着ていた服。僕が好きなのも、まさにそういうスタイルなんです」

本物を知るからこそ作れる、現代のロカビリーファッション
佐藤さんはやがてヴィンテージ古着の買い付けに携わり、渡米するたびに自分好みの1950年代のアイテムを探し集めるようになる。「当時の買い付けはTシャツを200枚、リーバイスを何本、というように、仕入れるものがある程度決まっていたんです。でも、自分の好きなものも買ってよかったので、他の店が注目していなかった1950年代の服を集めていました」
1994年には原宿で「ジャックス」をスタート。既存店舗の一角を間借りする形で始まり、徐々に売り場を広げていった。

現在、特に力を入れているのが復刻アイテムだ。
代表例が、1950年代のアメリカンスタイルを得意とする日本のブランド「The Groovin High(ザ グルービン ハイ)」と手掛けたブルゾンだ。1950年代のヴィンテージのなかでも希少なデビルドッグと呼ばれる幾何学模様を配した一着で、佐藤さん所有のオリジナルをもとに復刻した。レーヨンギャバジン特有の風合いから柄、細部のディテールまで忠実に再現している。
「このブランドは本当にすごいです。ギャバジンの質感が当時のものとほとんど変わらない。プリントも昔の機械を使っていて、オリジナルと見分けがつかないくらいの仕上がりになっています」

通称・「エルヴィスドット」と呼ばれるオーバル柄のコーデュロイシャツは、東洋エンタープライズの「STYLE EYES(スタイル アイズ)」のもの。
モチーフは、エルヴィスのデビューアルバムのジャケット裏に写っていたシャツである。2010年頃に東洋エンタープライズの社長に直談判して実現させ、以来、繰り返し復刻してきたロングセラーだ。

「本物のヴィンテージは、今では簡単に手が出せない値段になっています。若い人が無理してそんなシャツを買う必要はないでしょう。オリジナルを持っている自分が、できるだけ忠実に復刻すればいいんです」
高額なヴィンテージだけが正解ではない
博物館級のヴィンテージを数多く所有する佐藤さんだが、普段の愛用品は必ずしもヴィンテージばかりではない。たとえば、東洋エンタープライズのデニムブランド「SUGAR CANE(シュガーケーン)」のジーンズ。ヴィンテージデニムの生地や縫製、ディテールを再現するもの作りに定評があり、佐藤さんも1950年代のリーバイスをモチーフにしたモデルを愛用している。
「シュガーケーンがずっと好き。色落ち、品質、どれをとっても一級品。このモデルは、細すぎず、太すぎず、シルエットのバランスも絶妙で、流行に関係なくはけるんです」

取材当日はいていた一本も、半年以上かけて育てた「1955 MODEL」だ。太腿にはくっきりとしたヒゲが刻まれていた。
「リジッドの状態からはき始めて、自分だけのシワを作っていくんです。洗濯はほとんどしません」

「ヴィンテージのジーンズは今では何十万円、何百万円もするでしょう。でも、本来ジーンズって気負いなくガシガシはくものじゃないですか。普段はくなら品質の高いレプリカで十分。自分流に育てるのがカッコいい」
希少性や価格を気にせず、気に入った服を日々着続ける。これが佐藤さんのスタイルだ。


一着の服から、ロカビリーの世界へ
1980年代の原宿には、1950年代のアメリカンカルチャーを扱うショップが数多く存在したという。現在では、ロカビリーを知らない若者がふらりと店に立ち寄ることもあるという。「音楽のことを知らなくても、服を見て、『これ、かわいい』『カッコいい』と言ってくれる若い子がいるんです。最初の入り口はファッションだけでもいいと思っています」
佐藤さんはライブやダンスイベントなどを通じて、服以外の魅力に触れる機会も設けている。
「服をきっかけにイベントに来てもらって、バンドの演奏を聴いて、当時の音楽を好きになってもらう。ダンスから入って、ファッションに目覚めた子もいます」

音楽からファッションへ、あるいはファッションから音楽へ。入り口は違っても、その先には豊饒な1950年代のアメリカ文化が広がっている。
「せっかくなら一緒に楽しんでもらいたい。ファッションも音楽も、食事もお酒も、全部つながっているから」

音楽や雑誌を通じて1950年代のアメリカに憧れ、40年以上にわたってロカビリーに情熱を注いできた佐藤さん。今も原宿の店には、当時のファッションや音楽に惹かれた若い世代が訪れる。
ヴィンテージの魅力を復刻アイテムやイベントを通じて伝える取り組みが、ロカビリーカルチャーを次の世代へとつないでいる。
PROFILE

エロヴィス佐藤(えろゔぃすさとう)
福島県白河市出身。飲食店勤務やヴィンテージ古着のバイヤーなどを経て、1994年に原宿でロカビリー専門店をオープン。愛称はエルヴィス・プレスリーに由来する。










