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なぜ軽くて膨らむ? 浅野撚糸「SUPER ZERO®」の秘密は“溶ける糸”

2026.10.16
糸の中に空洞をつくり、空気を抱き込ませることで、驚くほどの膨らみと軽さを生み出す浅野撚糸の独自素材「SUPER ZERO®」。タオル「エアーかおる」をはじめ、現在ではデニムやニット、ダウンジャケットの側地などにも採用されている。
その特徴を生み出す鍵が、天然繊維と撚り合わせた水溶性糸を、加工工程であとから“溶かす”という方法だ。なぜ糸を溶かすことで軽さや膨らみが生まれるのか。その仕組みと技術を、浅野撚糸専務取締役の浅野宏介さんに伺った。

PROFILE

浅野 宏介(あさの こうすけ)

浅野撚糸株式会社 専務取締役

水溶性糸をあとから溶かし、「空洞」をつくる

上:SUPER ZERO加工を施した糸、下:同じ重さの一般の綿糸。
空洞が生まれることで糸一本一本が大きく膨らむ
「SUPER ZERO®」の原理は、水溶性の糸を使うことにある。
クラレが開発した水溶性糸と、綿やウール、リネンといった天然繊維を、逆方向に強く撚り合わせる。染色や加工の工程で水溶性糸だけが溶けると、そこに空洞が生まれる。糸の内部にばね状の構造が残り、空気を大量に抱き込むという仕組みだ。
もともと「SUPER ZERO®」で狙っていたのは、空洞によってもたらされる伸縮性だった。同社が得意としていたポリウレタンと綿糸を撚り合わせるストレッチ糸の技術を応用し、ゴムを使わないナチュラルストレッチの実現を目指して開発が始まった。
「水溶性糸が溶けると、その部分が空洞になってばね状の構造が残ります。ポリウレタンを使わなくてもストレッチ性を持たせられる弊社の既存技術を応用するかたちで、ナチュラルストレッチの特性を持つ糸の開発がスタートしました」
ところが、この糸の別の特性が偶然見つかる。三重県のタオルメーカーにストレッチタオルの試作を依頼した際、本来は地の横糸に入れるよう指示していた「SUPER ZERO®」が、タオル業界の慣習からパイル部分に使われていたのだ。
完成したタオルに伸縮性はなかった。しかし、糸にボリュームがあり、吸水性が高く、柔らかいうえに軽いという、想定していなかった特徴が見て取れた。
「こんなタオルは見たことがありませんでした。糸にはボリュームがあり、吸水性も通常よりはるかに高い。柔らかいのにけば落ちも少なく、空気をたくさん含んでいるため非常に軽く感じる。まさにタオルのいいとこ取りだったのです」
伸縮性を生み出すためにつくった空洞が、膨らみや軽さ、吸水性にもつながる。この糸が持つ新たな可能性に気づいた瞬間だった。

スチームセットという矛盾

浅野撚糸の工場。撚糸機がずらりと並ぶ
浅野撚糸の技術の結晶であるスチームセッター
ただし性質が分かっても、量産できるとは限らない。開発の最大の壁は、撚糸工程の最終段階にあった。
強い撚りをかけた糸は、そのままでは撚りが戻ってしまい織ることも編むこともできない。そこで蒸気を当てて形を固定する「スチームセット」をかける。細い糸を扱ってきた同社には、撚糸工場としては珍しくその設備があった。
ところが、「SUPER ZERO®」の相手は水に溶ける糸なのだ。
「本来スチームセットをかけると、水溶性糸はその段階で溶けてしまうんです。しかしここで溶けてしまったら糸の強度がなくなってしまうので、織ることも編むこともできない。水溶性の糸を溶かすことなくセットをかける。ここが一番大変でした」
溶かさずに、しかし確実に固定する。さらに難しかったのは、熱が糸の内部まで均一に届かないことだった。
「外側にはセットがかかっていても、内側にはかかっていないという中途半端な状態に対処するのには非常に苦労しました」
スチームセット機に改造を重ね、温度とタイミングを詰めていく。糸の開発だけで3年、タオルの製品化まで含めると5年を要した。製品化のあとも、スチームセットの段階で中途半端に溶けた糸が接着してしまう問題は残ったという。
常識で考えれば矛盾した難解な課題である。「当時の社長が『常識の中に宝は埋まっていない。非常識なことをやらないともうダメなんだ』と言いましてね」と、浅野さんは懐かしそうに当時を振り返ってくれた。

「ミントバール」と「425」、ふたつのアプローチ

「SUPER ZERO®」には、水溶性糸「ミントバール」を使うタイプと、糊でコーティングした糸を使う「425」がある。425は、水溶性糸では難しかった先染めに対応するために開発されたものだ。その後、ミントバールでも先染めできる技術が確立され、現在はそちらを使うタイプの開発に注力している。
「425のほうが、通常のミントバールを使った『SUPER ZERO®』よりも膨らみが出ます。ただ、コストが高くなってしまうため、現在はミントの開発に力を入れています」

空気を抱き込む構造が生む、吸水性と保温性

吸水力の比較。一般のタオルが水を残すのに対し、「SUPER ZERO®」を使った「エアーかおる」は吸い上げている
同じ重さでの厚みの比較。空気を多く含むため、同重量でも嵩が出る
数値の裏づけもある。岐阜県産業技術センターの発汗シミュレーターを用いた試験では、まとった際の皮膚温度が未加工品と比べて0.7度低いという結果が出た。模擬の汗を発生させ、蒸発までを含めて測定したものだ。
仕組みとしては、吸水性の高さが起点になる。水を多く吸えばそれだけ蒸発も速く、気化熱によって皮膚温度が下がりやすくなる。
気化熱の差と保温効果の高さは、しっかりとデータで裏付け
だが浅野さんは、夏における機能性については慎重だった。汗をかき続ける状況では、綿の場合ほかの要因も関与してくる。むしろ効果がより分かりやすいのは冬だという。
「冬場は空洞部分に体温で温まった空気が蓄えられるので、保温がものすごく効くんです」
いま注目が集まっているのが、ウールとの組み合わせだ。インナーやTシャツなどに使われる防縮ウールは、加工によって風合いが硬くなることがある。そこに「SUPER ZERO®」加工を施すことで、柔らかさが生まれ、チクチクとした肌触りも抑えられるという。

タオルからデニム、ダウンへ。広がる「SUPER ZERO®」

「SUPER ZERO®」を使ったタオル「エアーかおる」。同社の経営を立て直す柱となった
「SUPER ZERO®」の用途は、タオルだけにとどまらない。アパレルへの展開を後押ししたのが、テキスタイル商社のスタイレム瀧定大阪との協業だった。
糸メーカーである浅野撚糸にとって、糸の特徴を生地として提案することや、量産に必要な生地在庫を抱えることは大きなハードルだった。そこで、浅野撚糸が糸を供給し、スタイレムが生地の企画開発や在庫管理を担うことで、アパレルブランドが採用しやすい環境を整えた。
なかでも展開が進んでいるのがデニムだ。「SUPER ZERO®」を使うことで、デニムらしい表情を持ちながら、柔らかさと着心地の軽さを実現できるという。国内の著名デニムブランドでも採用されている。
「デニムでありながら、圧倒的に柔らかく、軽い。いまの市場ではデニムにも柔らかさが求められていて、そのニーズに合致したのでしょう」
さらに、世界的なラグジュアリーブランドでは、デニムシャツ地の横糸に使われた「SUPER ZERO®」が目に留まり、ダウンジャケットの側地にも採用された。今季はニット製品にも展開されるという。
水溶性糸を天然繊維と強く撚り合わせ、後工程でその糸だけを溶かす。そこで生まれる空洞が糸に膨らみと軽さを与え、吸水性や保温性といった機能にもつながっている。タオルで見いだされたその特徴は、現在ではデニムやダウン、ニットへと活用の場を広げている。
その構造を実現するまでには、水溶性糸を溶かさずに強い撚りを固定する「スチームセット」という難題もあった。糸を“足す”のではなく、撚り込んだ糸をあとから“なくす”ことで空洞をつくり、機能を生み出す。それが浅野撚糸のものづくりへの執念が結実した、「SUPER ZERO®」という革新技術なのだ。

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