厚底シューズの登場により、格段に進化を遂げたランニングシューズだが、その裏でランニングタイツもまた大きな進化を遂げている。
事実、ランニングパンツがおなじみだったエリートレースでも、ランニングタイツを選ぶ選手が増加しているのだ。
今、ランニングタイツにどんなイノベーションが起こっているのか。
アシックスジャパンの小林優史さんに話を聞いた。
PROFILE|プロフィール
小林 優史(こばやし まさし)
アシックスジャパン株式会社 カテゴリー統括部APEQ部MDチーム所属
ランニングタイツを着用する人が増えている理由
最近、マラソンなどを見ていると、選手やエリートランナーのランニングタイツ着用率が増えていると感じています。これにはどのような背景があると思われますか?
まずランニングタイツは大きく2つに分かれます。エリート向けのレーシング用のハーフタイツと、初心者や中級者向けのマラソンの完走などをサポートするロングタイツです。
お話しされたのはハーフタイツのことだと思うのですが、おっしゃる通り、この5年ほどでハーフタイツの着用率は増えていて、その理由には2つの背景が絡み合っていると考えています。
1つめは速さを求めるマインドを持った方々の感度が非常に上がっているということです。2017年に厚底シューズが発売されて以降、アイテムのスペックによってタイムが変わることが明確に感じられるようになりました。
速さを求める方は、元々ランニングアイテムに対しての感度がとても高いので、シューズだけでなく、いろいろなア イテムによって結果が変わるのだというマインドチェンジが起きたと考えています。また箱根駅伝に代表されるように、日本はアスリートの影響力がとても大きいため、一般のランナーにまで加速度的に広まったのだと思っています。
2つめは技術的進歩です。厚底シューズと同じようなタイミングでランニングタイツ界に「着圧」というキーワードが出てきました。これまで実現できなかった着圧感を作り出すことで、先ほどお話した速さを求めるマインドを持ったランナーが効果を感じられるタイツを技術的に作り出 すことができました。
結果が変わるタイツを求めていたランナーと、技術の進歩による商品がマッチしたことが、シェア拡大の背景になっていると思います。
一方、ロングタイツは少し事情が異なります。日焼けを気にする女性の方や、フルマラソンの完走を目指す方などは、ロングタイツを購入されることが多く、初心者から中級者における着用率は元々とても高いんですね。なので、着用率が大きく変わったということはありません。
ただ、ハーフタイツにおいても、ロング タイツにおいても、技術は昔よりも大きく進歩しています。
縫製、生地、プリントの進化により、機能性が格段に進歩
実際にどのように進化をしているのでしょうか?
まずは縫製技術の進歩で、「シームレス」がひとつのトレンドキーワードになっています。生地を縫い付けるのは変わらないのですが、継ぎ目がわかりにくくなっていて、穿いたときの快適性につながっています。次に生地の進化です。ランニングタイツの役割として、筋肉や関節のブレを抑えるというものがあります。これまでは違う素材を縫い合わせて、強度を出すというのが一般的でした。たとえばサポートがいらないところは生地を1枚にして、強度が必要なところは2枚にするというイメージです。これは今も主流ではあるのですが、我々は穿き心地が損なわれたり、重さが出たりしてしまうのが難点だと考えていました。
そこで登場したのが生地を溶かす技術です。溶かした部分は伸びやすくなり、溶かしていない部分は伸びにくい。生地を加工することで、1枚の生地の中で強度差を出すことができるので、シームレスな縫製にもつながります。
さらにプリントの技術も進化しています。サポートが必要なところにプリントを施すことによって、生地の伸縮を抑え、強度を出すことができます。アシックスの最新のMOTION MUSCLE SUPPORTシリーズにはこのプリント加工を採用しています。
さらに同モデルのスピードタイツには、最新技術が施されています。実は前面の模様はプリントが生地に染み込んでいるんです。プリントを染み込ませると、生地はゴムのような素材になります。イメージとしては、脚の動きに追従して、伸びた前面がゴムのようにパチンと戻るという感じです。この技術により、脚の引き上げや、回転するような足運びをサポートし、エネルギーロスを低減させることが可能になりました。