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洗濯100回後も撥水! 朝倉染布「dewelry®0」は非フッ素の弱点をどう克服した?
撥水加工をした生地の検査では、検査員が手袋をはめて作業することは非常に重要な手順である。素手で触れるとわずかな皮脂が生地に付着してしまい、そこだけ水を弾かなくさせ、シミのような跡を残してしまうからだ。PFAS(有機フッ素化合物)の規制を受けて広がる非フッ素の撥水加工は、この「皮脂に弱い」という課題を抱えてきた。
群馬県桐生市の染色整理加工メーカー、朝倉染布が開発した「dewelry®0(デュエリーゼロ)」は、PFASフリーでありながら、触れても性能が落ちにくく、洗濯100回後でも撥水度4級を保つ加工技術だ。自社で薬剤を作ることができない加工メーカーは、どのようにしてそこにたどり着いたのか。代表取締役社長の朝倉剛太郎さんと、開発を担当した同社技術顧問の木暮保夫さんに話を聞いた。
PROFILE

朝倉 剛太郎(あさくら ごうたろう)
朝倉染布株式会社 代表取締役社長
群馬県桐生市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2007年より現職。
PROFILE
木暮保夫(こぐれ やすお)
朝倉染布株式会社
神奈川県平塚市生まれ。関東学院大学工学部卒業。2024年より技術部門顧問。
おむつカバーから競泳水着へ。「防水」ではなく「撥水」を磨いてきた歴史

朝倉染布の撥水加工の原点は、1980年代の布製おむつカバーにある。普通の布では汚れが染み出し、ビニールのような防水シートでは湿気がこもって赤ちゃんの肌がかぶれてしまう。求められたのは、汚れを外に漏らさず、かつ蒸れない素材だった。その答えとしてたどり着いたのが、生地の表面を膜で覆う「防水」ではなく、織り目を塞がずに水を弾く「撥水」という技術だった。
紙おむつの普及でおむつカバーの需要が減ると、同社は1990年代前半から競泳水着へと技術を応用していく。「水を吸った水着は数倍の重さになり、重りを背負って泳いでいるも同然です。水を吸わなければ軽いまま泳ぐことができ、水が生地から転がるように離れていくことで、体と水との間に生じる摩擦抵抗も少なくなります」と朝倉さんは説明する。
競泳水着には、「生地の表面をプラスチックやゴムなどの膜で覆ってはいけない」というルールがある。膜を使わずに水を強力に弾く撥水技術は、ここでも同社の大きな強みとなった。
非フッ素撥水の大きな壁、「皮脂」にどう向き合うか

その撥水加工の前提を揺るがしたのが、世界的なPFAS規制だ。PFASの一部は環境中で分解されにくく、人体への蓄積や健康・環境への影響が懸念されており、欧州などで規制強化の動きが進んでいる。「世界的に規制がかかるなかで、反発してもしょうがない。フッ素を使わずに、これまでと同じ撥水機能を作り上げなければならない」と朝倉さんは語る。
だが、非フッ素の撥水剤には致命的ともいえる共通の弱点があった。油を弾く「撥油性」がないことだ。また撥水性においてもその機能を維持するのは難しく、「業界全体がものすごく苦労している」と朝倉さんは語る。同社の開発初期の非フッ素加工でも、手で触れた生地に霧吹きで水をかけて放置すると、手の形がそのままぬれた跡として浮かび上がってしまう状態だった。
同社は国内で手に入る非フッ素撥水剤のメーカー約20社のほぼすべてに聞き取りを行った。目的は他社との比較ではなく、「撥油性のある薬剤がひとつでもないか探すため」だった。しかし、結果はゼロ。ひとつとして見つからなかったのだ。
市販薬剤の組み合わせは数千通り。約3年にも及ぶ執念の実験
朝倉染布は薬剤メーカーではないため、使える薬剤はすべて市販品に限られる。そこで同社は、撥水剤と、撥水剤を生地につなぎ留める「架橋剤」の組み合わせの最適化に活路を求めた。場合によっては撥水剤を2種類ブレンドすることもある。未発売品や開発中の薬剤まで取り寄せ、配合比率を変えては幾度となく試験を繰り返した。試した組み合わせは数千通りを超える。木暮さんとアシスタントがほぼ専属で携わり、研究期間はおよそ3年に及んだ。それでも挫折はなかったという。「目指すものは決まっていました。フッ素と同じ機能を持つものを作る、ということです」と木暮さんの意志は固かった。
皮脂を撥水層に触れさせない「疑似・蓮の葉構造」の発想

朝倉染布が探した範囲では、求める撥油性を備えた非フッ素撥水剤は見つからなかった。ならば、皮脂が撥水剤に直接触れなければいい。たどり着いたのは、加工の工夫によって生地表面に特殊な構造を持たせるアプローチだった。手本にしたのは、自然界の撥水の理想形である「蓮の葉」だ。
「撥水剤は市販のものを使うしかない。だから、皮脂が直接触れないような加工の仕方を、なんとか見出しました」と木暮さんは話す。物理的に表面を引っかいて凹凸をつける方法もあるが、着用時の圧力がかかると凹凸が潰れてしまい、性能を保てない。同社はその方法を採らず、独自の加工プロセスによって構造を再現した。
その効果は数値にも表れている。皮脂を付着させた後でも、「dewelry®0」の生地は接触角151.79°、水滴が転がり落ちる滑落角12.62°という高い水準をキープする。
皮脂への強さは、同社にとって譲れない一線だった。自社製品には手で必ず触れる風呂敷などのアイテムが多く、皮脂の跡が目立ちやすいからだ。「皮脂だけは絶対に防ぎたかった」という強いこだわりが実を結んだ。
目標は「フッ素と同じ」。洗濯100回で撥水度4級をキープ

洗濯耐久性は、クライアントからもっとも重視される指標のひとつだ。同社によると、洗濯30回を超える性能が「耐久撥水」のひとつの目安とされ、50回耐久をうたう製品も多いという。しかし「dewelry®0」は、洗濯100回後でも撥水度4級を維持する。これは、かつて主流だったフッ素系撥水剤(C8タイプ)の性能に匹敵するものであり、開発の当初から目標だった。
「洗濯100回という耐久性をクリアできる会社は非常に少ないため、展示会で説明すると、業界関係者からも『本当ですか?』と驚かれます」と朝倉さんは話す。
スペック数値以上にこだわった「水滴の転がりやすさ」と「風合い」
皮脂をつけていない状態において、「dewelry®0」の接触角は約160°に達する。一般的な撥水生地の約110°を大きく上回る、超撥水と呼ばれる領域だ。しかし、木暮さんが追いかけたのは単なる角度の数値ではなかった。「接触角の数値自体にはあまりこだわっていません。重視したのは、水滴が生地の表面をどう転がるかです」生地を傾けて水滴が転がり始める角度(滑落角)を比較すると、一般的な撥水生地では20〜30°以上傾ける必要があるのに対し、「dewelry®0」は10°前後で転がり始める。水滴が生地にとどまらないため、そもそもぬれたと感じる場面が少ない。接触角160°という数値は、転がりやすさを追い求めた結果の副産物に過ぎなかった。
また、性能だけを追求すると生地が硬くなりやすいという課題もある。開発初期の非フッ素加工の生地は、二つ折りにすると角が立つほど張りが出たが、「dewelry®0」は生地本来のしなやかな風合いを保っている。
もっとも評価基準が厳しいのは自社製品で、撥水度が高くても風合いがよくなければ営業部門から即座に「NG」が出るという。耐久性と柔らかな風合いの両立は、開発スタート時からの必須条件だったのだ。

「dewelry®0」が現在もっとも使われているのはスポーツの分野だ。特に登山用のアンダーウエアでは、肌側のメッシュ生地に本加工を施すことで、かいた汗をメッシュの穴から外側の吸水層へ逃がし、汗による冷えを軽減する設計に生かされている。直接肌に触れ続けるインナーだからこそ、皮脂に強い「dewelry®0」が生きてくる。今後は、ダウンジャケットなどアウトドアの分野への展開も目指しているという。
朝倉さんは、「dewelry®0」を「まだ開発中」と表現する。触れる程度の皮脂には強くなった。次の目標は、食べこぼしや機械油など、暮らしの中でついてしまう油を弾くことだ。「薬剤メーカーは、うちのためだけに薬剤を作ってくれるわけではありません。だからこそ、これまで通り加工の工夫と知見をフルに使い、独自の価値を生み出していきたいと考えています」
薬剤そのものに撥油性を求めるのではなく、加工を工夫することで皮脂の影響を受けにくくする。洗濯100回後の撥水耐久性と、水滴の転がりやすさ、柔らかな風合いまでを同時に実現した「dewelry®0」。食べこぼしや機械油への対応という次の課題に向け、朝倉染布は加工技術から非フッ素撥水の可能性を広げようとしている。






