腕時計はもともと時刻を知るための道具だった。ところが、時代が移り変わるとともに、機能が次々に追加され、アクセサリーやステータスシンボル、はては投資の対象にもなっている。
その点、「
CAMPANOLA(カンパノラ)」の「
コスモサイン」は、そういった腕時計とは異なる地平に立っている。実用重視でもなければ、自己主張の手段でもない。持ち主は腕時計の中に再現された“宇宙”を鑑賞し、愉悦に浸るのだ。
2001年の誕生以来、腕時計愛好家を魅了し続けてきたCAMPANOLAのシンボルというべきタイムピース。腕元に宿る小宇宙はどのように生み出されたのだろうか?
PROFILE|プロフィール
市川 貴之(いちかわ たかゆき)
シチズン時計株式会社 CAMPANOLA商品企画担当
コラボ商品の開発やデパート・専門店への営業などを経験し、現在は商品企画を担当。高校生のときに出合ったCAMPANOLAの美しさに魅了され、時計の道を志した。
「シチズン時計が展開するCAMPANOLAは、『時を愉しむこと』を提案する時計ブランドです。多数のパーツを組み合わせた多層構造をはじめ、サークル形状の五徳リング、建築物のような立体的な文字板、ドームの天井を思わせるラウンドフォルムによって、デザインコンセプトである『宙空の美』を表現します」
「南イタリアのカンパニア地方にノラという町があります。CAMPANOLAのブランド名は、この町の教会にある、人類史上初めて共同体に時刻を知らせたといわれる鐘に由来します」
ブランドの立ち上げとともにリリースされたファーストモデルは世の時計愛好家を驚かせた。立体的な多層構造や精妙な装飾もさることながら、パーペチュアル・カレンダー(永久カレンダー)が搭載されたクオーツムーブメントも話題となった。
クオーツ時計に複雑機構を搭載することで、このモデルはより多くの時計愛好家に複雑時計の愉しみを提供したのだ。
目指したのは、手の届きやすい天文表示時計
ブランドがスタートした翌2001年、「CAMPANOLA」コスモサインの初代モデルがデビューした。「CAMPANOLAには、複雑機構のコンプリケーションや機械式のメカニカル、太陽光で駆動するエコ・ドライブなどさまざまなコレクションがあり、そのうち宇宙の表現を追求したのがコスモサインです。開発コンセプトは『今まさに自分の頭上にある宇宙を時計に閉じ込めること』。この趣向は“天文表示時計(天文時計)”に通じるものです」
天文表示時計とは、太陽や月、星座、惑星の位置を示すための装置や文字板をそなえた時計のこと。そもそも時計とは宇宙の運行を時間に変換して可視化するものだから、時計の起源ともいえるだろう。
「昔から熱心な愛好家がいるジャンルですが、本格的な機械式の天文表示時計となると、価格や流通量、取り扱いの難しさといった点から、手に取るのは簡単ではありません。そこで日常で使用しやすい天文表示時計を開発することにしたんです」
北緯35度の全天星座を表示する精緻な星座盤
「AO4010-18M」はそんなコスモサイン コレクションの顔ともいうべきモデルだ。宇宙の表現には、シチズン時計の技術の粋を見ることができる。「このモデルの星座盤は、北緯35度の全天星座を表示します。実視等級4.8等星以上の明るさを持つ1,027個の恒星に加え、アンドロメダ銀河やオリオン大星雲など166個の星雲・星団も正確にレイアウトしています。この星座盤が時刻に合わせて時計と逆回りに回転することで、星の位置をリアルタイムで正確に表示します」
「北緯35度」という点もCAMPANOLAならではの特徴だ。
「海外製の天文表示時計は、その国の緯度に設定されていますから、星の位置も日本とは異なります。そこでこのモデルでは日本列島のほぼ中心の緯度に設定しました。この点も時計愛好家の方々に評価していただいています」