Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2023.10.17

持っているものを分かち合い、少しずつ未来を動かす「SHIFT 80」の取り組み

100万〜200万人が住んでいるケニアのキベラスラムは、「東アフリカで一番大きいスラム街」と言われている。私たちが大変だと感じるような環境下でも、キベラスラムに住む人々は元気で前向き。「その前向きさに助けられた」と話すのは、アパレルブランド『SHIFT 80』を運営する坂田ミギーさんだ。
今回は、キベラスラムの人々とアパレル製作に取り組んでいる坂田さんにインタビューを実施。SHIFT 80を立ち上げたきっかけや現在の取り組み、今後の展望などを伺った。
PROFILE|プロフィール
坂田 ミギー(サカタ ミギー)
坂田 ミギー(サカタ ミギー)

広告制作会社、株式会社博報堂ケトルを経て、株式会社こたつの共同CEO・クリエイティブディレクターに就任。その後、分配可能な利益の80%以上をアフリカに還元するアパレルブランド『SHIFT 80』を立ち上げ、ケニアの人たちとともにアイテム製作に取り組んでいる。
X(旧:Twitter)

心と命を救ってくれたケニアで、恩返しがしたい

SHIFT 80を立ち上げた経緯を教えてください。
私は、もともと広告制作の仕事をしていました。しかし、2013年頃に心身ともに病んでしまって。そのときに、「このまま働き続けても、自分の身が持たない」「今の価値観のままだと幸せになれないのではないか」と思い、一度仕事を離れて世界一周の旅に出ることにしました。
以前から海外旅行は好きで、しんどいなと思ったときにはタイやインドなどアジアの国々を訪れていました。海外に行くと、私とは違う考え方をもって生きている人にたくさん出会えるので、気持ちが楽になったり、新しい一歩を踏み出すきっかけをもらったりして、前に進む糧になるのです。
キベラスラムに出会ったのは、世界一周の旅の途中。ナイロビの宿に泊まりに行こうと、車で走っているときでした。そのときはキベラスラムのことをまったく知らず、「スラムには行ったことないな」と思い、ふらりと立ち寄ってみたのです。
スラムに対しては、「治安がとても悪くてみんな絶望の中で生きている」というイメージをもっていたのですが、実際に訪れるとそのイメージは一変しました。子どもたちが大声で遊んでいたり、大人たちが井戸端会議をしながらいろいろな商売をしていたりと、街は活気に溢れていて。とても驚いたのを覚えています。意外なことに、気の合う友達もたくさんできました。
お金はないし、家がボロボロで寝ているとねずみに顔をかじられるし、キベラスラムでの暮らしはやはり大変なことがたくさんあります。
しかし、そのような環境下でもキベラスラムの人たちは、「生きているだけで幸せ」「明日はもっと良くなるよ」と言っているのです。それを聞くと、「私の悩みなんてとても小さなことだったな」と思うようになりましたね。
キベラスラムで過ごした日々は私の心と命を助けてくれたので、いつか恩返しをしたいと思い、この地で活動することに。2018年から生理用品の支援を開始し、2022年2月にアパレルブランド『SHIFT 80』を立ち上げました。
アパレルブランドとして活動し始めたのには、きっかけがあるのでしょうか。
アパレルを選んだのは、リリアンという女性との出会いがきっかけです。彼女はキベラスラムで寺子屋『マゴソスクール』を運営しています。運営資金は支援を募るだけでなく、自分で洋裁の技術を身に付けて工房を造り、資金調達をしているのです。
また、年に一度、マゴソスクールの校庭でファッションショーを開催していて。自らデザインした洋服を工房で縫い、そのファッションショーで生徒や卒業生に着てもらっています。「新品の洋服を着られてうれしい」「服が才能を引き出してくれた」など、生徒の話を聞いているうちに、私はファッションの持つ力を教わりました。
「個性と自信を引き出すアイテムを作っていけたら」と思い、最初のデザインパートナーとしてリリアンを迎え、アパレルブランドを始めたのです。
ファッションに込めた思いがあるのですね。『SHIFT80』の由来は何ですか?
SHIFTは「世界が少しずつシフトする」、80は「利益(分配可能額)の80%をアフリカに還元する」という意味が込められています。
SHIFT 80では、株主への配当金の80%をケニアに還元しています。私たちのアクションがブランド名になっているほうが、みなさんに伝わりやすいかなと思い、この名前を付けました。
1 / 3 ページ
この記事をシェアする