ファッション業界において、これほど衝撃的な衣服を見たことがあるだろうか。ダウンジャケットと称しながら、ダウンを一切使っておらず、そのうえ、すばらしい発熱・保温機能を有しているのに、一切の色を排除したデザインによるダウンジャケット。まるで未来からやってきた衣服のようだ。
この不思議なアイテムの秘密を探るべく、同社機能性材料事業本部で「SOLAMENT® 」のプロジェクトリーダーを務める石橋佳祐さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
石橋 佳祐(いしばし けいすけ)
住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 企画開発部 SOLAMENT® プロジェクトリーダー 1991年生まれ。廃棄物発電プラントの海外営業、工場自動化機器の新規事業開発、デジタルマーケティングプロジェクトの立ち上げを経験。2022年10月より、機能性材料の企画開発に従事。現在は、SOLAMENT® プロジェクトにおけるブランドプロジェクト立ち上げから浸透施策までをリードする。
近赤外線を利用する「SOLAMENT® 」とは まずは、事業内容を教えてください。 弊社は、1590年に銅製錬の事業から始まった会社です。その後、1691年に愛媛県にある別子銅山の開坑を機に、製錬事業から資源事業を合わせて行う形へとシフトしていきます。基本的には鉱山から鉱物を採掘し、それを工場で製錬して加工しやすい形に変えていきます。その過程で、金属をより細かい粉にする技術の開発を進めてきました。この技術は、現在電気自動車やハイブリッド車に欠かせないニッケル系正極材料やインク材料のナノ粒子などに応用されています。
「SOLAMENT® 」を手掛ける機能性材料事業は、こうした金属加工の技術を化学品に応用する部署です。
青色をしているSOLAMENT®の原料
「SOLAMENT® 」とは、どのようなものでしょうか。 こちらは、太陽光に含まれる近赤外線を吸収し、素材自体が発熱する金属化合物です。もともとは「近赤外線吸収材料(CWO)」として販売していましたが、昨年の10月にその特徴を効果的に伝えられるよう「SOLAMENT® 」としてリブランドしました。
どういった機能を持つ素 材なのでしょうか。 いくつか機能を有しているのですが、「SOLAMENT® for HEATING」と「SOLAMENT® for HEAT BLOCKING」があります。たとえば、窓ガラスに「SOLAMENT® 」を塗ったとします。すると、太陽の近赤外線を吸収して、そこで熱が食い止められます。その結果、熱が室内まで届かなくなるので、夏場であれば、エアコンの設定温度をそこまで下げなくてもよく、環境への負荷を軽減できます。
この熱を吸収するという点に注目して、アパレル衣料に用いれば、冬場は非常に暖かく感じる商品を生み出すことができます。従来は人体の体温を保持して体感温度を高めるものが一般的なのですが、「SOLAMENT® 」は熱を太陽から得るので、これまで以上に暖かさを感じられるものができると思います。
使い方次第では、あらゆる業界で活躍しそうな素材ですね。 現在の販売でいうと、車の窓ガラスが最も多いです。また、農業用のビニールハウスへの用途も非常に評価が高いですね。ビニールハウスの内部は非常に高温になるので、農家さんの労働環境は過酷な状況で、夏場は朝10時くらいまでしか働けなかったようです。それが「SOLAMENT® 」の遮熱効果によって、お昼すぎまで働けるようになり、かつ光は通すので、しっかりと作物が育つという環境が得られるようになりました。
太陽光を利用するので、他にも用途がありそうですね。 「SOLAMENT® for SKIN」では、肌老化の原因となる赤外線をブロックする役割があります。一般的に、紫外線が日焼けやシミの原因とされていますが、最近の研究では、近赤外線が肌への直接的な作用が大きいことが判明し、そこに対策できるということで注目されています。さらには、「SOLAMENT® for PRIVACY」があります。水泳やビーチバレーなどのスポーツをされる方は、盗撮に悩まされ、本来の力を十分に発揮できていないケースがあります。そうした方たちのユニフォームに用いることで、その被害から救うことができます。実際に、国際大会などで弊社の素材が使われていると耳にしています。