熱中症警戒アラートの発表がもはや定例と言っていいほどに、日本の夏は年々暑くなっている。
さまざまな酷暑対策があるなかで、以前より日傘を持ち歩く人も増えてきた。大人の女性だけでなく、男性や小学生も日傘をさして、通勤・通学する姿が見られるようになった。
今回、その秘密を探るために、同社スポーツ・衣料資材事業部衣料資材課長の神田達人さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
神田 達人(かん だ たつひと)
スポーツ・衣料資材事業部衣料資材課長
1994年入社。裏地・生活資材・スポーツウエア用表地を担当。上海駐在を経た後、現部署裏地担当に再着任。2021年から現職。
酷暑の夏を乗り切るために
「サマーシールド®︎」の前身となる素材はありましたか。
類似したものとして、防水透湿素材ブランド「
Dermizax®(ダーミザクス)」があります。こちらは、スポーツやアウトドア向けに防水性能と透湿性能をあわせたラミネート加工になります。
それに対して、「サマーシールド®︎」は、主に遮熱と遮光、防水性能を持たせた素材となっています。
いつ頃から「サマーシールド®︎」の開発が始まりましたか。
開発のきっかけは、日本の温暖化です。今では「酷暑」や「猛暑」といった言葉が当たり前に使われていますが、頻繁に用いられるようになったのは2007年頃からです。そこで真夏でも快適に過ごせるものを作れないかと考え、2010年から開発に取り掛かりました。2011年の夏に試験販売として、「サマーシールド®︎」を使った日傘を5,000本ほど百貨店で販売しました。夏のセール真っ只中で、割引もない高価格帯の傘でしたが、それでも1、2週間ほどで完売しました。
この結果を受け、2012年から本格的に開発、販売を進めていきました。
他社の類似品と比較して、大きな違いはどこにありますか。
遮熱性能・遮光性能・高UVカット率という3つの機能を同時に発現させたことです。「サマーシールド®︎」の登場以前は、上記3つの機能から1つ、または2つを組み合わせたものしかありませんでした。今までの日傘の加工は、「コーティング」が一般的でした。生地の上に樹脂を薄く塗るため、折りたたみを繰り返していくと、折り目からコーティングが剥がれてきて、紫外線や日光が入り込んでしまいます。
ですが、我々が打ち出したラミネート加工は、膜を作り、それを傘の内側に貼っていくものになります。これが非常に画期的な技術で、だからこそ各機能を同時に持たせることができたのです。
「特殊3層ラミネート構造」の仕組みを教えてください。
この3層構造は、出来上がった生地の状態を指しています。第1層はポリエステルで、通常の傘の生地に当たります。雨を弾き、日光をある程度遮断することができます。第2層は白色の酸化チタンが含有されている層です。ここでは赤外線を防ぎます。そして第3層は、カーボンブラックが含有された黒い層になります。ここで紫外線を防ぎ、また最後まで浸透してきた赤外線を吸収し、使用者を完全に守ります。
3層にしたことの弊 害はあるのでしょうか。
ただでさえ厚い生地を使う日傘のため、そこに膜を貼ることでさらに重くなって扱いにくくなるのではないかという声は当初からありました。傘メーカーさんと綿密な打ち合わせをし、「サマーシールド®︎」の性能を下げることなく、軽量化に向けて開発をしました。ラミネート加工が傘の内側に施されているため、多少の折りたたみにくさは感じるかもしれませんが、それ以上にメリットを感じてもらえると思います。