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「ミタスニーカーズ」国井栄之と「Mizuno」齊藤健史が語る、Mizuno「WAVE PROPHECY」の過去・現在・未来
2011年に「Mizuno(ミズノ)」のランニングカテゴリーにて「WAVE PROPHECY 1」が誕生したことから始まり、国内だけでなく海外でもその人気を確立した「WAVE PROPHECY」シリーズ。
今回は「ミズノ」の「WAVE PROPHECY」シリーズの人気をここまで牽引してきた仕掛け人でもあるスポーツスタイル企画デザイン課の齊藤健史さんと、スニーカー界の重鎮である「ミタスニーカーズ」国井栄之さんによる対談が実現。「WAVE PROPHECY」シリーズの過去・現在・未来についてそれぞれの思いを語ってもらった。
機能美の探求が生んだ、唯一無二のデザイン
2011年6月、「ミズノ」のランニングシューズにおける技術の象徴として、「WAVE PROPHECY」シリーズは誕生した。その目的は、従来のミッドソールの常識を覆すこと。その背景には、「ミズノ」というブランドの出自が深く関わっていると国井さんは指摘する。「『ミズノ』について特筆すべき点は、スポーツシューズメーカーというより、スポーツ“用具”を作る会社としてスタートしたことです。踏み切り板や義足のプレートなど、用具開発で培った発想が、シューズのテクノロジーにも生かされている。プレートの新たな使い方を常に模索し、進化し続けているところに『ミズノ』の肝があります」(国井さん)

その進化の象徴が、ソールに空洞を持つ独自の構造「INFINITY WAVE(インフィニティ ウエーブ)」だ。2枚の波型プレートを重ね合わせることで生まれたこの構造は、ミッドソールのフォーム材を大幅に削減。これにより、クッション性と安定性という相反する機能の両立に加え、ミッドソールのフォーム材のへたりを低減し、シューズの耐久性を向上させた。
齊藤さんは、この独特なデザインは意図されたものではなかったと語る。

「デザインを先に考えたのではなく、クッション性や安定性、走行時のスムーズな体重移動といった機能を極限まで追求した結果として、この独自の形が生まれました。他のランニングシューズとはまったく違うアプローチから生まれたのが、『WAVE PROPHECY』シリーズなんです」(齊藤さん)

元々は北米市場向けに、体格の大きなランナーを支えるために開発された「WAVE PROPHECY」。その主戦場はあくまでもパフォーマンスの領域だった。
しかし2010年代後半、その流れは大きな転換点を迎える。「ミズノ」は2017年にライフスタイルカテゴリー「MIZUNO SPORTSTYLE」を立ち上げ、2019年頃から本格的にパフォーマンスシューズのテクノロジーをストリートへと持ち込み始めた。
「パフォーマンス由来の機能美が、ファッションの文脈で新しい価値として認められるようになったと社内で認識されたことが一番の大きな変化でした」と齊藤さんは振り返る。
潮目を変えるきっかけのひとつが、パリの著名なセレクトショップ「THE BROKEN ARM(ザ ブロークン アーム)」での出来事だ。パフォーマンスモデルとして展開されていた「WAVE PROPHECY」が店頭に並び、それを見た日本のスタイリストが驚きとともに注目したことで、ファッション業界での評価の風向きが変わり始めた。時を同じくして、「ミズノ」が自らの資産と向き合う上で、国井さんという存在が大きな役割を果たしていた。

「『ミズノ』が本腰を入れてスニーカー開発に取り組むにあたり、販売店としてのフィードバックを求められました。そこで『現代まで続くテクノロジーを搭載し、継続しているモデルは何か』を尋ねたところ、返ってきた答えがWAVE PLATEを搭載した『WAVE RIDER』だったのです。
それならば、ファッションの領域でものを作るからといって機能を簡易化して模倣するのではなく、ブランドの財産であるテクノロジーをきちんと踏襲すべきだと伝えました」(国井さん)
見た目を模倣するだけでは意味がない。ブランドの財産であるテクノロジーの忠実に再現することにこそ価値があるという国井さんの言葉は、その後の「ミズノ」がアーカイブと向き合う姿勢を決定づけたのだ。
常識を覆した「WAVE PROPHECY MOC」という転換点
ライフスタイルカテゴリーでの存在感を高めるなか、シリーズにとって最大の転換点となるモデルが誕生する。それが「WAVE PROPHECY MOC(ウエーブ プロフェシー モック)」だ。クラシックなモカシンシューズのアッパーに「WAVE PROPHECY」の近未来的なソールを融合させるというアイデアは、齊藤さんが中心となって進められた。
「コラボレーションではなく自分たちが持つアセットを使い、自社主導で話題作りまでできないか、という挑戦でした。スポーツブランドの発想からは、なかなか出てこない組み合わせだったと思います」(齊藤さん)
この大胆な試みは、当初社内では懐疑的な目で見られていた。しかし、齊藤さんには確信があった。その背中を押したのも、また国井さんだった。かつて「ミズノ」が「マウンテンリサーチ」の小林節正さんと手掛けた「INFINITY MOC(インフィニティモック)」を例に挙げ、「やるなら今しかない」と進言したのだ。

「国井さんからも『今このタイミングですよ』と言っていただき強い確信を得て、すぐに社に戻って『逆に今やらないともうこのタイミングはなくなります』と説得しました。それならやってみたら、というところから始まりましたが、得られた成果はとてつもなく大きかったですね」(齊藤さん)

齊藤さんは、この成功の鍵を「プリミティブなものと最新のテクノロジーの掛け合わせ」に見出した。靴の原型ともいえるモカシンと、時代ごとの最新テクノロジー。この組み合わせは、いつの時代においても新鮮な驚きを生むという仮説が、見事に証明された瞬間だった。
発売された「WAVE PROPHECY MOC」は、齊藤さんの予想を上回る反響を呼んだ。発売日にはこれまで「ミズノ」の店舗に並ぶことのなかった人々が行列を作り、午前中には完売。この成功は、社内の空気を劇的に変えた。
「この成功がなければ、『ミズノは普段履きにもアリ』と思ってもらえるチャンスを逃していたかもしれない。それくらいの危機感がありました」(齊藤さん)
積み重ねられた成功体験は、これまでタブー視されていた領域への挑戦をも可能にした。その象徴が、サッカー用スパイクのアイコン「MORELIA(モレリア)」シリーズのアッパーと「WAVE PROPHECY」のソールを融合させたモデルもそのひとつ。「交ぜるな危険」とまで言われた組み合わせが実現した背景には、確かな実績があったのだ。
一方、「ミズノ」の評価は地球の裏側でも独自の熱狂を生んでいた。特にデザイナー空山基さんとのコラボレーションは、ブラジルで爆発的な人気を博す。


「90年代の『エアジョーダン』の熱狂や、ボルチモアでいわゆるワルといった人たちが履いていた、『ニューバランス』の『990』の話を思い出しました。作られたステータスではなく、ストリートから自然発生したシンボル。そこにリアルを感じましたね」(国井さん)
原点への回帰――「WAVE PROPHECY 1」復刻に込めた意味
ストリートでの確固たる地位を築いた「ミズノ」は、満を持して原点である「WAVE PROPHECY 1」を復刻した。特徴的なのは、その再構築のアプローチだ。「極力オリジナルを踏襲することを試みているので、目に見える変化はほとんどありません。スニーカーカルチャーに根付いている人なら共感してくれると思いますが、『当時のものをそのまま出してくれたら、どんなに良いか』という価値観があります。だからこそ、あえて見た目は変えませんでした」(齊藤さん)

見た目は忠実に再現する一方、履き心地といった目に見えない部分は現代の技術でアップデートされている。オリジナルへのリスペクトと、現代のユーザーに向けた配慮。この絶妙なバランス感覚こそ、「ミズノ」が至った現在地を示している。国井さんもこのアプローチを高く評価する。
「オリジナルに思い入れのある人を、悪い意味で裏切るのは良くない。見た目は変えず、しかし製品としてはより良くする。見えない部分での配慮がきちんとなされている、非常にチューニングされた一足です。パリのファッションウィークで開催したイベントやブラジルからの反響の大きさを見ても、『ミズノ』がやったことは間違いじゃなかったと感じました」(国井さん)

ファンを裏切らない誠実なものづくり。その姿勢が、国境を越えて熱狂的な支持を集める理由となっている。
「『WAVE PROPHECY』はまだまだ進化し、多様なバリエーションで広がっていきます」と齊藤さんが語るように、シリーズの挑戦は終わらない。一方、国井さんは「WAVE PROPHECY」を突破口とした、さらなる化学反応に期待を寄せる。
「パフォーマンスシューズにも魅力的なモデルが増えています。それらと違うカルチャーを掛け合わせたハイブリッドも見てみたい。最近欲しい靴がないと思っている人が、『これだったら履いてみたいかも』と思えるものが今の『ミズノ』には多い。『逆にありかも』と思わせるその塩梅が、『ミズノ』の魅力なんです」(国井さん)
愚直なものづくりが生んだ機能美は、社外の視点と情熱によって新たな価値を見出され、世界を駆け巡る。「ミズノ」の快進撃は、まだ始まったばかりだ。
PROFILE

国井栄之 (くにい しげゆき)
ミタスニーカーズ ディレクター
東京の下町である上野から世界へ向けて独自のスニーカースタイルを提案する「mita sneakers」でディレクターを務める。数多くのブランドとのコラボモデルや別注モデルを手掛け、その手腕を発揮。現在は虎ノ門ヒルズにオープンしたショップ「Herringbone Footwear(ヘリンボーン フットウェア)」の外部ディレクターも務める。世界的プロジェクトから国内インラインのディレクションまで多岐にわたり、スニーカープロジェクトに携わるスニーカー業界の最重要人物。
PROFILE

齊藤 健史 (さいとう たけし)
Mizuno スポーツスタイル企画デザイン課 課長
2017年にミズノに入社。ミズノのニューレーベル“rhrn(アールエイチアールエヌ)”を立ち上げるなど実績を積み、現在は「ミズノ スポーツ スタイル」のインラインと、すべてのコラボモデルを手掛ける。「WAVE PROPHECY」シリーズの人気をここまで牽引してきた仕掛け人でもある「Mr. PROPHECY(ミスター プロフェシー)」。
Photo by Hiroyuki “Lily” Suzuki(StudioLog)
Text by Yasuyuki Ushijima(NO-TECH)







