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「毛糸の先にある笑いと癒やし」——アイパー滝沢さんが語る、編み物の魅力
舞台の上では独特の任侠キャラクターとテンポのいい芸で笑いを巻き起こす、お笑い芸人・アイパー滝沢さん。そんな彼が今、“癒やしの時間”として向き合っているのが「編み物」だ。毛糸と針を手に、静かにひと目ひと目を編み進めるその姿は、芸人としての顔とはまた違った魅力にあふれている。
なぜアイパー滝沢さんは、編み物という一見地味な趣味に惹かれたのか。そこには、日々の喧騒から離れて自分と向き合う時間、誰かのために何かを作る喜び、そして思いがけない笑いや癒やしがあった。
今回は、アイパー滝沢さんに、毛糸の先に広がるそのユニークな世界について、じっくりと語ってもらった。
PROFILE
きっかけは刑務作業!? どっぷりハマった編み物の世界
任侠キャラにはおよそ似つかわしくない、「編み物」という趣味。YouTubeやSNSに並ぶ多彩な作品に目を奪われるが、アイパー滝沢さんと編み物の出会いは、想像をはるかに超えるものだった。「きっかけは、昔いた刑務所の作業でやったこと。…まあ、これは任侠芸人としてのキャラクター設定も半分入ってるんだけど(笑)、作業で編み物に触れたのは本当なんです。でも、本格的にハマったのはシャバに出てきてからですね」
その言葉通り、まず向かったのは100円ショップだったという。
「とにかく何か一つ形にしてみようと決心してね。毛糸や編み棒、レシピ本を買い揃えて、無我夢中で最初の作品に挑戦したんです。この『とにかく完成させる!』とやりきった経験が、『俺でもできるじゃん!』って大きな自信になって。そこからどっぷりハマりました。なんだかんだ、編み物を始めてもう10年以上は経ちますね」
意外な場所での出会いを、自らの力でライフワークへと変えたのだった。
しかも驚くべきことに、彼が最初に手を出したのは、初心者にはハードルが高いとされる「棒針編み」だった。
「最初に作ったのはマフラーです。編み物といえば2本の棒を使うイメージがあったから、最初からずっと棒針編みで(笑)。100円ショップの編み図を見ながらその通りにやったんだけど、全然うまくいかなくて。何時間やってもほんのちょっとしか進まないし、正直、めちゃくちゃ大変でした。結局、完成前に挫折しちゃったんですけどね(笑)」

悪戦苦闘の末に手にした達成感。その後、彼は「かぎ針編み」の世界にも足を踏み入れる。
「いろいろ調べたら、かぎ針編みは針1本でできるって知って。それなら気軽に始められるし、小物もたくさん作れるって聞いて、まずはコースターから作り始めました。
もちろん大きな作品も作るんですけど、小物は短時間で仕上がるから自信にもつながるし、何より作っていて楽しいんですよね」
モチベーションの源泉は「笑い」と「根性」
始めることは誰にでもできる。でも、続けるのが一番難しい。それは編み物も同じだ。テクニック以上に大切なことは何か。アイパー滝沢さんは「根性」だと断言する。
「器用かどうかじゃなくて、本当に大事なのは『根性』、つまり『根気』があるかどうか。もちろん上手に越したことはないけど、最初は下手でもいい。ぐちゃぐちゃになっても、変な形になっても、とにかく『作り上げること』。それが一番大事なんですよ。多くの人が、教科書通りにやろうとして嫌になっちゃう。でも、そんなの気にしなくていいんです!」
そして、彼のモチベーションの根底にあるのは、やはり「笑い」だ。
「自分は任侠っぽいキャラだから、逆に思いっきり違う方向に振り切った方が、みんなが『なんなん、あいつ』って面白がってくれる。それがうれしくて、『もっとやってみよう』って。続ける大きなモチベーションになりましたね。芸人仲間も、お客さんも笑ってくれる。それが何よりです」

「アイパー滝沢と編み物」という強烈なギャップが、面白い化学反応を起こす。周りからは「こんなの作ったら?」とアイディアが寄せられるようにもなった。
もう1つの魅力は、「没頭できること」だという。
「集中して“無”になれる感覚はありますね。余計なことを考えずに済むし、同じ動作の繰り返しだから、ちょっとしたトランス状態に近いかもしれない。それがストレス発散にもなっています」
ディープに広がる、アイパー滝沢の“編み物ワールド”
アイパー滝沢さんの“編み物ワールド”は、さらにディープに広がっていく。ドーナツモチーフのポシェットもあれば、短刀ケース、チャカバー(チャカ=拳銃)、加熱式たばこケースなど、任侠キャラを貫いた作品が並ぶ。
「加熱式たばこケースは、『これ絶対バズる!』と思って量産したんですよ。……でも、全然バズらなかった(笑)。ちなみに僕、タバコは吸わないんですけどね(笑)」

彼の作品は、単なる手芸品ではない。任侠キャラというフィルターを通すことで、ユーモアとアートが共存する唯一無二の表現へと昇華されている。その最たる例が、釘バット専用の釘カバーだろう。
「釘バットの釘1本ずつに毛糸のカバーを被せているんですよ。そのまま持ってたら怖いけど、こうすると可愛いじゃないですか。可愛いけど、なんか“威力はある”感じが残っているっていう。でも、殴るときは汚れちゃうから、ちゃんと外してくださいね」

活動は作品作りだけにとどまらない。ワークショップを通じて、編み物の楽しさを直接伝えることにも力を入れている。
「もっといろんな子どもたちに教えたいし、あとは刑務所への慰問や、老人ホームでもワークショップをやりたいですね。自分で言うのもなんですけど、すごく子どもに好かれるんですよ。みんなニコニコしながら編んでくれるのが、本当にうれしくて。
子どもたちには指だけで編める『指編み』を教えているんですけど、それでもヘアバンドとかが作れて、すごく楽しんでくれます」
「面白いから」と始めた編み物は、今、次なるステージへ向かっている。
「最初は、みんなが笑ってくれるからって始めたけど、やっていくうちに一から真剣に勉強したくなってきたんですよね。学校に通おうかなって本気で考えるくらい。今までは『飽きたらやめればいい』って感覚だったけど、最近はちゃんと基礎から習得したいって思いがどんどん強くなっています」

最後に編み物の魅力を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「編み物って時間がかかるけど、言い換えると、時間がかかるからこそ楽しいんです。やっぱり編んでいるときが一番楽しい。終わりが見えてくると少し寂しくなるくらい。だから、皆さんにももっとその時間を楽しんでチャレンジしてほしいですね」
アイパー滝沢さんの話を聞いていると、編み物に必要なのは特別な器用さではないことがわかる。必要なのは、笑いと癒やし、そしてほんの少しの根性だ。
今日もまた、毛糸を手にした彼は、新しい“面白さ”と“優しさ”を編み続けている。
Text by Tajimax







