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20年履き続けられる靴「chausser(ショセ)」が貫く、長く愛せる一足
画家ノーマン・ロックウェル[1]の作品に描かれた、靴への憧れから生まれたシューズブランド「chausser(ショセ)」。2000年の立ち上げ以来、「愛着を持って長く履ける靴」をコンセプトに、時代に流されない靴づくりを続けてきた。
その原点となったのは、一度は「高価すぎる」とクライアントに却下された一足だった。それでも自らが理想とする靴を形にしたいという想いを貫き、ブランドを立ち上げたのがデザイナーの前田 洋一氏だ。
今回は前田氏に、chausser誕生の背景から、20年先まで履き続けられることを見据えたものづくりについて話を聞いた。
「絶対売れる」から始まったchausser
デザイナーの前田 洋一氏は、靴の小売店での販売からキャリアをスタートし、バイヤー、MD、企画へと着実に歩みを進めてきた。転機が訪れたのは、企画会社に在籍していたときだった。クライアントのブランド向けにあるスニーカーを企画したものの、「少し高い」という理由で見送られてしまう。しかし前田氏には、そのプロダクトが成功する確信があった。
「『これ絶対売れるのにな』という想いがあったんですよ。それがフリーランスとして活動を始めたきっかけでした」
その信念はすぐに周囲を動かした。フリーランス時代に手がけたブランドが売り場の目にとまり、合同展示会への出展を打診されたのだ。そこで前田氏は、当時見送りとなったスニーカーと、新たに作った2型の革靴を展示。これが、のちの「chausser(ショセ)」へと繋がる原点となった。
ロックウェルが描いた理想の靴
展示会をきっかけに自身のブランドをスタートさせ、約2年後となる2000年の秋、レディースラインの立ち上げと共にメンズと統合する形で「chausser」が誕生した。フランス語で「履く」を意味するブランド名には、「愛着を持って長く履ける靴」という哲学が込められている。そのインスピレーションの源泉は、意外なところにあった。1900年代前半から半ばにかけて活躍したアメリカの画家、ノーマン・ロックウェル。彼の作品に描かれるアメリカの日常風景と、そこに登場する人々の足元だった。
「絵の中で彼らが履いている靴にすごく味があって。『ああ、こういう靴を作りたいな』と。一番のイメージソースになったのは、ロックウェルの絵なんです。履き込んだときのシワが入った表情がすごく好きで」
ただ美しいだけでなく、履き続けることで生まれる豊かな表情。その理想の姿を思い描き、そこから逆算して木型や素材、デザインを決めていく。chausserの靴づくりは、未来の経年変化を見据えた設計から始まっている。


長く履くための素材と製法
理想を形にするため、chausserは創業以来、一部スニーカーを除いて日本製にこだわり続けてきた。ブランド設立当初から取引のあったグッドイヤーウェルト製法[2]を得意とする国内工場を中心に、製法に応じて最適な工場とタッグを組み、前田氏の最良のパートナーとして連携をとりアイテムが作られている。さらに、メンズの定番モデルには、堅牢なグッドイヤー製法を中心に採用する一方、ライニングを袋状に縫い上げる「ボロネーゼ製法」も取り入れる。硬い中底を使わないこの製法は、足を包み込むようなフィット感と、驚くほどの返りの良さを生む。アイテムによって製法を使い分け、履き心地への妥協なき探求がchausserの靴を特別なものにしている。
ブランドを象徴するのが、素上げの「ナチュラルコードバン」だ。染色を施さず、オイルだけで仕上げるこの革は、扱える原皮が全体の10分の1ほどしかない希少な素材。驚くべきことに、ブランド開始当初は染色されたものより安価だったという。今では価格が逆転し、高級素材の代名詞となったが、chausserは変わらずこの素材を使い続け、その価値を証明している。

20年以上続く定番と新たな顔
chausserの歴史は、ナチュラルコードバンを使った「LACE-UP BOOTS(レースアップ ブーツ)」と共に始まった。ブランドの誕生から20年以上、基本デザインを変えずに作り続けられているこのブーツは、まさにブランドの原点そのものだ。同じくナチュラルコードバンを使用した「CHUKKA BOOTS (チャッカ ブーツ)」も、長年愛される代名詞的存在である。


そして近年、これらの定番と並ぶ新たなアイコンとして存在感を放っているのが「BUTTON BOOTS(ボタン ブーツ)」だ。19世紀後半のヨーロッパで履かれていたクラシックなブーツをベースに、chausserならではの木型とバランスで再構築した一足だ。もともとはレディースで展開していたデザインをメンズに落とし込んだもので、ブランドの進化を象徴している。
「このボタンブーツが、ナチュラルコードバン製品と肩を並べるようになってきている状況です」
長年の定番であったコードバン製品に比肩する、新たなブランドの顔となりつつあるのだ。レースアップブーツは税込みで192,500円、ボタンブーツは92,400円と、どちらも決して安価ではないが、その価格には、厳選された素材、手間を惜しまない製法、そして時代を超えて愛されるデザインのすべてが凝縮されている。


レザーズ デーで広がったファン層
かつてはパリやイタリアで海外展示会を行っていたchausserだが、来場するバイヤーの多くがアジア系である状況を見て、それであれば東京に来てもらったほうがいいと考え、現在は国内での展開に軸足を置いている。その決断が、新たな顧客層との出会いをもたらした。「Leathers Day(レザーズ デー)」という、革ジャンやブーツといったレザー製品を愛する人々が集うイベントへの出展が、ブランドに変化をもたらす。
「そこに出展してから、潮目が変わってきたかな、というのがあります。もともとのトラッド好きな方に加え、アメカジやバイクが好きな方々にも認知が広がってきているので、メンズの需要がだいぶ上がってきているのを感じています」
この出会いをきっかけに、それまでの「レディース7:メンズ3」だった売上比率は「6:4」にまで変化。伝統的な靴好きだけでなく、より幅広い層にchausserの魅力が浸透し始めているのだ。ブランドのルーツを守りながらも、新たなファンと共に進化を続ける歩みはこれからも止まらない。
前田氏の「絶対売れる」という確信から始まったものづくりの物語。その揺るぎない信念は、20年近く履き続ける顧客の存在によって、見事に証明されている。ブランドはオールソール交換をはじめとするすべての修理に対応しており、一足の靴と長く付き合う文化そのものを育んできた。
9月末には五反田TOCで開催される「Leathers Day」への出展、その後は直営店でのオーダー会も控えている。chausserが描く、未来の「履き込まれた靴」の物語は、これからも多くの人々を魅了していくだろう。


[1]ノーマン・ロックウェル(1894年~1978年)
アメリカの国民的画家・イラストレーター。
ユーモアと温かみあふれるタッチでアメリカ市民の日常生活を描き、雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』の表紙などを通じて、多くの人々に愛されたことで知られている。
[2]グッドイヤーウェルト製法
底付けの製法のひとつで、リブというパーツに、アッパー、中底、ウェルトを一緒に縫い付け、本底はウェルトと縫い合わせる製法。中底部分にクッション性を出すために入れたコルクが、履き込むにつれ自分の足裏の形にフィットし、履き心地のよさが生まれる。アッパーと本底を直接縫い付けない構造であるため、アウトソールの交換が複数回可能。
PROFILE

前田 洋一(まえだ よういち)
chausser デザイナー
父親がオーダーメードの靴を手がける職人であったこともあり、靴業界へ進む。販売からスタートし、バイヤー、MDと経験を積み、企画に携わりながら靴づくりを学ぶ。1998年春、靴企画会社を退職し、フリーランスとしてアパレル企業の靴企画に従事するかたわら、オリジナルブランドを展開。2000~2001AWよりchausserを展開。














