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学生靴から世界へ、日本製ローファー「HARUTA」のものづくり
学生靴の国内トップシェアを誇り、多くの日本人にとって「初めての革靴」の記憶と結び付いているブランド、「HARUTA(ハルタ)」。その一方で近年は、ファッション感度の高い大人や海外のファンからも支持を集めるなど、新たな広がりを見せている。
1917年の創業以来、100年以上にわたり受け継がれてきたものづくりは、時代の変化に寄り添いながらも、変わらぬ価値を守り続けてきた。
今回は、株式会社ハルタ 代表取締役社長 春田 勲氏に、ブランドの歩みと、長く愛され続けるものづくりについて話を聞いた。
ローファーが学生靴になった時代
日本のシューズブランドHARUTAの代名詞といえば、ローファーだ。学生時代に誰もが一度は足を入れたであろうこの靴が、日本で広く認知されるようになったのは1970年代。ファッションブランド「VAN(ヴァン)」などが牽引したアイビールックの流行がきっかけとも言われている。しかし、HARUTAの名が広く知られる決定的な転機となったのは、1980年代から1990年代にかけて起きた教育現場の変化である。それまでのセーラー服や詰襟といった学生服から、ブレザータイプの制服へと移行する学校が全国的に増加。それに伴い、足元にはローファーが選ばれるようになったのだ。
株式会社ハルタ 代表の春田 勲氏は、当時をこう振り返る。
「1980年代から1990年代にかけて、制服がブレザータイプのものにどんどん移行してきました。巷では1970年代にアイビールックが流行しましたが、それに類似したスタイルが制服にも取り入れられていったことが、HARUTAが広く認知され始めた要因だと思います」
この大きな波に乗り、HARUTAのローファーは単なる流行のアイテムから、学生生活に欠かせない定番アイテムとしての地位を築いていった。

日本製を手頃な価格で届ける仕組み
驚くべきは、その価格だ。メイドインジャパンの革靴でありながら、学生にとって少しでも手が届きやすいようにと設定されている。この価格はどのようにして実現されたのだろうか。その答えは「選択と集中」という経営戦略にあった。「手に取りやすい価格の実現について一言で言えば選択と集中で、ローファーに特化した靴の生産ラインを構築していたということです」
春田氏が語るように、HARUTAはあえてローファーに特化した生産ラインを構築した。これにより、徹底したコスト管理と安定供給が可能となり、高品質かつ手頃な価格での提供が実現したのだ。このシンプルかつ徹底した戦略があったからこそ、HARUTAは全国の学生の足元を支える存在となり得たのである。

国内一貫生産が支える品質
HARUTAの品質と安定供給を支える根幹が、創業以来こだわり続ける国内での一貫生産体制だ。春田氏が「日本国内に4つ」と語る主要工場は、創業の地である東京・足立区千住宮元町の工場と、同じく足立区内の共和工業、山形県寒河江市の工場、そして宮城県涌谷町の宮城ハルタシューズである。さらに、靴の顔となるアッパー(甲革)部分は北海道北見市で、中敷きなどの部材も足立区のグループ会社で製造。徹底した分業体制を築いている。
「ごく一部の特殊な製品を除き、ほぼ100%に近い状態でグループ企業で内製化し、靴づくりにあたっています」
需要の急増に応じて一部外注を活用することはあっても、100年以上の歴史の大部分を自社グループでの一貫生産で支えてきた。この徹底した「メイドインジャパン」へのこだわりが、HARUTAの品質の礎となっているのだ。


70年愛される「スポックシューズ」
HARUTAの歴史を語る上で、ローファーと並んで欠かせないのが「スポックシューズ」である。意外なことに、その歴史はローファーよりも古い。1955年、春田氏の祖父にあたる創業者がアメリカ視察で得た着想からこのユニークな靴は生まれた。「スポッと履けて、スポッと脱げるクツ」。靴紐がなく、脱ぎ履きが容易なスリッポンデザインは、靴を脱ぐ習慣のある日本の生活様式に最適だと考えられたのだ。春田氏によると、この靴は当初ファッションアイテムとしてではなく、特定の仕事を支える「職業履き」として開発されたという。
たとえば、医師が院内で履くドクターシューズ、学校の教員が使う室内履き、あるいはタクシードライバーの運転用シューズといった用途だ。それが発売当初のコンセプトだった。
その発売から約70年。かつての職業履きは、今やファッション感度の高い層から支持されるアイコンへと姿を変えた。医師や美容師などが描かれたレトロなデザインの靴箱は、当時のコンセプトを今に伝え、発売当初から変わらず使用され続けている。




端材から生まれる新たな価値
学生靴のイメージが強いHARUTAだが、2011年からは直営店事業を開始するなど、“大人のためのHARUTA”という新たな提案にも力を入れている。そうしたなかで生まれた遊び心あふれる試みが、手持ちのコインローファーを気軽にカスタマイズできる「HARUTAG(ハルタグ)」というアクセサリーパーツだ。別売りのビットやタッセルを取り付けることで、一足のコインローファーがまったく異なる表情を見せる。この試みには、ものづくり企業ゆえの狙いがあった。
「生産時に出てしまう端材の革を、捨てずにタッセルなどのアクセサリーとして活用しています。廃棄されるはずだったものに新たな価値を生み出すという狙いがあり、それがお客様に受け入れられているのは非常に喜ばしいことです」
この取り組みは、ユーザーに新たな楽しみを提供するだけでなく、資源を無駄にしないサステナブルな視点をあわせ持つ。100年企業の新たな挑戦は、現代の価値観とも深く共鳴している。

左:ビット #HT005 2,750円(税込)
右:スモールタッセル #HT004 1,320円(税込)

世界へ広がる日本製ローファー
HARUTAの魅力は、今や国境を越えて広がりを見せている。直営店には海外からの客足が絶えず、昨年は50ヶ国以上のインバウンド客が購入した実績があるという。特に日本人に体型が近い東アジアの人々からの支持は厚い。このグローバルな需要を支えているのが、学生靴で培った圧倒的なサイズ展開だ。「誰にでも公平に商品を提供しなければいけない、というのが学生靴を提供する企業としての使命の使命です。そのため、婦人靴は21.5cmから、紳士靴は30cmまで、オーダーメイドではなく既製靴で幅広く揃えているのが我々の強みです」
全国の学生に靴を届けるという使命感から生まれた幅広いサイズ展開は、結果として多様な国の人々の足にフィットする基盤となった。長年日本の学生に寄り添ってきたからこその強みが、今、世界市場で大きなアドバンテージとなっているのだ。





長年、学生市場を主戦場としてきたHARUTAが次に見据えるのは、さらなる海外市場の獲得だ。その鍵の一つが、日本のポップカルチャーだという。
「海外のお客様の中には、日本のアニメがきっかけでHARUTAを知っていただく方が多くいらっしゃいます。制服姿の主人公が履いているローファーを見て、『あれはHARUTAの靴なのか』と興味を持ってくれるのです」
100年以上の歴史で培った「メイドインジャパン」の品質を土台としながら、アニメという現代的な文化をフックに新たなファン層を開拓していくHARUTAの伝統あるものづくりの姿勢は、今後さらなる展開を見せてくれそうだ。

PROFILE

春田 勲(ハルタ イサオ)
株式会社ハルタ 代表取締役社長
1992年 株式会社ハルタ入社後、営業部長、取締役営業部長などを経て、2021年9月より現職。














