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G-DRAGONが火付け役、NIKE「AIR MORE UP TEMPO(エア モア アップテンポ)」はなぜ熱狂的に愛されるのか

2026.07.31
サイドを大胆に覆う巨大な“AIR”のレタリングで知られるナイキの「エア モア アップテンポ」は、1996年の登場以来、バスケットボールシューズの枠を超え、ストリートファッションの象徴として愛されてきた。
しかし、このモデルを巡っては、日本ではK-POPスターが火付け役となって社会現象的なブームを巻き起こした一方で、その評価は時代と共に大きく揺れ動いてきた。
この記事では、スニーカーショップSKITの代表である鎌本勝茂さんへの取材を通して、同モデル誕生から現在に至るまでの熱狂と変遷の歴史を紐解き、「エア モアアップテンポ」が持つ不変の魅力に迫る。

グラフィティから着想を得た、異端のデザイン

1996年、ナイキのバスケットボールシューズの歴史に、ひときわ異彩を放つ一足が誕生した。「モアテン」の愛称で知られる「AIR MORE UPTEMPO(エア モア アップテンポ)」である。その最大の特徴は、サイドパネルを大胆に横断する「AIR」の巨大なレタリング。この斬新なデザインを手掛けたのは、ナイキ初の黒人デザイナーとされるウィルソン・スミスだ。
モアと名称にある通り、当時もっとも進化したアップテンポシリーズとして、性能、デザインともにその圧倒的なルックスが大きな衝撃を与えた一足だ。今作はジョージタウン大学のアスレチックチーム"HOYAS"のチームカラーを落とし込んだカラーリング。22,000円
「彼は『エア ジョーダン16』や『エア ジョーダン17』、チャールズ・バークレー、セリーナ・ウィリアムズのシグネチャーモデルも担当し、長年『NIKE』に尽力してきたデザイナーの一人です。
デザインの着想源については、街のグラフィティからインスパイアされたという話もあれば、新宿の“LOVEオブジェ”のような巨大なモニュメントから着想を得たと話すインタビューもあります。グラフィティアートの影響は確かでしょうが、そういったデザインモニュメントもイメージソースだったようです。ただ、それと同時に、フルレングスで入った“AIR”という機能を強調するためのデザインという側面もあるんです」
デザインのインパクトだけでなく、機能についても当時最先端を誇っていた。ミッドソールには、その名の通り、当時最大量の「エア」を搭載したフルレングスのマックスエアユニットが採用されていた。「NIKE」の核となるテクノロジーである「AIR」を、まさに視覚と機能の両面で体現した一足だったのである。
最大の魅力は、サイドの“AIR”という大胆なレタリングと、フルレングスで入ったマックスエアユニットの機能性だ
シカゴ・ブルズのスコッティ・ピッペンが着用したことで知られる「モアテン」。しかし鎌本さんは、発売当初の日本のストリートでは、彼の人気が直接的な購買動機につながってはいなかったと振り返る。
アウトソールにもスウッシュを配置する斬新なデザインは、当時としては画期的だった
「ピッペンが好きで履いているという人は、当時はかなり珍しかったと思います。純粋なバスケットファンの間で人気があったというより、最初からファッションアイテムとして流行したんですよね。当初から、バスケットシューズという括りとしてはあまり見られていなかった印象です」
ピッペンが広告塔を務めるなかで、彼の物静かなキャラクターと、「モアテン」の自己主張の強いデザインとのギャップが、かえってシューズの存在感を際立たせるプロモーションとして機能した。
ヒールに配置されたストラップも、シューズを履きやすくするための機能のひとつ
そのボリューム感のある独特のフォルムが90年代のファッションにフィットしたことで、当時のストリートに受け入れられたのだろうと鎌本さんが推測する。「モアテン」は、コートの上でよりもまず、街でその地位を確立した稀有なバスケットボールシューズだったのである。

日本での熱狂、火付け役はG-DRAGON

90年代のブームが一段落した後、モアテンが日本で再び脚光を浴びるのは2010年代に入ってからだ。その再燃のきっかけは、NBAのスーパースターではなく、韓国のアーティストだった。
落ち着いた配色にサイドの“AIR”をパイピングしたデザインが映える一足。25,300円
「日本で『モアテン』という愛称で呼ばれその人気が再燃したのは、間違いなくBIGBANGのG-DRAGONが火付け役です。彼が衣装や広告で着用したことで、一気に人気が爆発しました。2012年のオリンピックイヤーに復刻モデルが出たことで、ブームは決定的になりましたね」
このブームは、日本と韓国を中心としたアジア特有の現象だったという。当時、海外への買い付けに頻繁に赴いていた鎌本さんは、その温度差を肌で感じていたという。
“AIR”のパイピングラインの素材が、ふわふわの素材になっているのがポイント。カラーリングもレディス仕様に。8,800円
「ブーム当時は若者にも爆発的な人気を得ていましたが、現在、SKITで購入される方の年齢層は、10代、20代前半の人たちよりも30代の後半から50代までと、発売当時の印象を強く持っている世代が中心ですね」
今作は1996年当時の広告"MAXIMUM VOLUME NIKE AIR"がプリントされた薄葉紙でアッパーが包まれた「AIR MORE UPTEMPO 96 "MAXIMUM VOLUME"」。アッパーと薄葉紙が一緒に縫い込まれ、薄葉紙を破くことによってブラック×グレイシャーブルーカラーの「AIR MORE UPTEMPO」が姿を現すギミックとなっている。19,800円
サンダルやローカットモデルが登場しても、その状況は変わらない。かつてストリートの最先端だった一足は、今や90年代のブームや2010年代の熱狂を知る、特定の世代のノスタルジーを刺激するアイテムへとその立ち位置を変えているのである。

時代が巡りつつもモアテンが持つ不変の魅力

鎌本さん自身、一時期は日本未発売モデルを含め約60色ものモアテンを所有していたほどの愛好家だ。しかし彼もまた、時代の変化とともにモアテンとの距離を感じるようになったという。
現在は斬新なデザインを生かしたサンダルも登場し人気を博している 出典:mitasneakers
「現在のスニーカー市場では、『サロモン』や『オン』に代表される、ストイックかつ機能的で洗練されたデザインが主流となっています。モアテンの持つ大胆で主張の強いデザインは、現代のトレンドとは対極にあるのかもしれないですね。
2023年10月に発売された「AIR MORE UPTEMPO LOW SP "AMBUSH"」。ミュージシャンのVERBAL氏と妻のYOON氏が手掛けるブランド"AMBUSH"とのコラボレーションモデル。36,300円
しかし、そのデザインの革新性が色褪せたわけではありません。元がバスケットボールシューズで、ここまで愛されているモデルは滅多になく、モアテンには変わることのない魅力があるといえます。時代が移り変わり、評価の軸が変わっても、モアテンがスニーカー史に刻んだインパクトは不変です」
G-DRAGONに代わる新たなファッションアイコンが、その価値を再発見する日がまたいつか来るかもしれない。時代との幸福な再会を果たすまで、「エア モア アップテンポ」は、その唯一無二の存在感を放ちながら、静かに次の出番を待っている。

PROFILE

鎌本 勝茂(かまもと かつしげ)

スニーカーショップSKIT 代表

1978年青森県生まれ。高校卒業と同時に上京し、スニーカーショップでの販売経験を積み、2001年にSKIT1号店を吉祥寺にオープン。スニーカーに関する豊富な知識と業界屈指の目利き力で、ショップには多くのスニーカーファンが訪れる。さらに映画『スニーカーヘッズ』にも出演するなど、その動向は海外のスニーカーヘッズからも注目されている。現在は吉祥寺の他、大阪、仙台、福岡にも出店する。

スニーカーショップSKIT 東京・吉祥寺店

東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F TEL:0422-47-6671 営業時間:11:00~19:00 https://www.k-skit.com/

Photo by Hiroyuki“Lily”Suzuki(StudioLog)

Text by Yasuyuki Ushijima(NO-TECH)

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