

アウトドアやスポーツブランドのPRなどを手がけるピープルショールーム。その一角に、代表を務める山田昭一さんの仕事部屋がある。6畳ほどの空間には、私物のウエアやギア、グッズがひしめき合っている。
「じつは仕事とはあまり関係のないものばかりで……。でも、好きなモノに囲まれていると、アイディアが湧いてくるんです」と山田さんは語る。長年着続けているフリースや、少しずつ集めてきたキャップなど、その一つひとつが、山田さんの愛するアメリカのアウトドアカルチャーにつながっている。
山田さんは、アウトドアウエアやギアに何を求め、何を基準に選んできたのか。長年使い続ける愛用品から見えてくるのは、機能だけでなく、その背景にあるカルチャーや色、実際に使ってわかった頼もしさだ。山田さんの“好き”が詰まったこの部屋から、現在の「アウトドアの新基準」を探る。
PROFILE

山田 昭一(やまだ しょういち)
ピープルショールーム代表
17歳でクライミングを始め、アウトドアの世界へ。セレクトショップやアウトドアブランドでの勤務を経て独立。現在はアウトドアやスポーツブランドのPR、ディレクションを中心に、ライターやスタイリストとしても活動している。アメリカのアウトドアカルチャーに造詣が深く、ヴィンテージウエアやギアを長年収集。現在の趣味はキャンプと釣り。
クライミングから始まったアウトドア人生
山田さんにとって「アウトドア」とは、どのようなものですか?
リフレッシュできる週末のご褒美ですね。自然の中に身を置くと感覚が研ぎ澄まされ、普段の生活からは得られない刺激を受けることができます。ときには、アドレナリンが出るような瞬間もある。そうした体験ができることが、アウトドアの魅力だと思います。
アウトドアに興味を持ったきっかけを教えてください。
埼玉で育ったこともあり、昔から自然や山は身近な存在でした。本格的にアウトドアを始めたのは、高校生だった17歳の頃。クライミングを始めたのがきっかけです。そこから自然と、アウトドアウエアやギアにも興味が広がっていったんです。当時は、どのようにしてウエアやギアを手に入れていたのでしょうか?
今のようにインターネットで何でも調べられる時代ではなかったので、周囲の詳しい先輩に聞いたり、雑誌を読んだりしながら情報を集めていました。その後、クライミングからキャンプへと楽しみ方が広がった理由とは?
クライミングはすごく楽しいのですが、誰もが気軽に参加できる遊びではありません。その点、キャンプなら経験のない人でも一緒に楽しめます。キャンプを軸にすれば、そこから釣りや料理、川遊びなど、さまざまな遊びに派生していく。いろいろな人が参加しやすいところに魅力を感じて、次第にキャンプへ出かける機会が増えていきました。
好きの源流は、アメカジとアメリカのアウトドア
ご自身のアウトドアスタイルに影響を与えたカルチャーは何ですか?
やっぱりアメカジですね。中学生の頃からアメカジが好きで、なかでも大きな影響を受けたのが、映画『リバー・ランズ・スルー・イット』です。フライフィッシングを題材にした作品なのですが、劇中に登場する服や道具の一つひとつが、とにかく格好よかった。それが、釣りに興味を持つきっかけにもなりました。振り返ってみると、僕の中でアメカジとアウトドアが融合した瞬間だったのかもしれません。

アメリカのアウトドアウエアのどこに惹かれるのでしょうか?
無駄のない機能性や丈夫さ、幅広い体形に馴染むゆったりとしたシルエットなど、すべてが合理的なんです。一方で、仕上げやステッチについてはいい意味でキレイに整いすぎていない。そういうところにも、合理主義を彷彿とさせるアメリカらしい味を感じます。アウトドアウエアを選ぶときに重視していることはありますか?
カルチャーを感じられるかどうかですね。特にヴィンテージは、服を見ただけで、「サーファーが海上がりに着ていたものかもしれない」といった景色が頭に浮かぶことがあります。なかには、本当に潮の匂いがするものもありますから(笑)。その服が生まれた土地や、背景にある文化まで想像できる。そういうものは、見ているだけでも楽しいですね。

長年集めてきた、山田さんの「アウトドアの定番」
今日、ラックに掛かっているのは、「パタゴニア」ばかりですね。
この部屋に置いてある服は、自宅にあるコレクションのほんの一部です。ラックに掛ける服は、その季節や、そのときの気分で着たいもの。ときどき入れ替えています。パタゴニアは、20年ほど前にセレクトショップで働いていた頃に買ったものがほとんどです。当時、僕の周囲には「ヴィンテージに詳しくて、たくさん持っているヤツが一番エライ!」というような風潮があったんですよ(笑)。
なかでも、パタゴニアは別格の存在でした。お洒落な先輩たちがこぞって着ていたので、僕も東京中の古着屋を回って買い集めました。給料のほとんどを古着につぎ込むというヤバい生活を送っていましたね……(苦笑)。

パタゴニアのどこが好きですか?
大胆な配色といい、機能から生まれたデザインといい、どこを取ってもアメリカらしい。それでいて、実際のフィールドで頼りになる機能もしっかり備わっています。現在はヴィンテージの価格が高騰して、昔のようには買えなくなってしまったのが寂しいですが……。
フリースも名品がずらりと並んでいます。この「クラシック・レトロX・ジャケット」は、かなり雰囲気がありますね。
暖かさでいえば、これが一番です。現行モデルは白っぽい色ですが、ヴィンテージは少し茶色がかっていて、毛足もしっかり立っています。
「シンチラ・スナップT」も、色違いでたくさんありますね。
基本的なスペックや形はほとんど同じなのですが、年代によって色が違うんです。気に入った色を買い足しているうちに、どんどん増えていきました。自宅にはまだたくさんあります。
このフリースジャケットは「ブルズアイ」ですか? 珍しいですね。
はい。1994年頃に展開されていた幾何学模様で、通称「ブルズアイ」と呼ばれている柄です。パタゴニアマニアの間では人気が高く、今ではなかなか手に入りません。ただ、妻がキャンプで着ていたとき、うっかり焚き火で穴を開けてしまって……。

なかなか見ない柄のアロハシャツがありますね、これもパタゴニアですか?
はい、昔のパタゴニアのものでして、夏はもっぱらアロハシャツです。かなりの数を持っていますが、今年はこの3枚をよく着ました。なかでも気に入っているのが、赤いアロハシャツです(写真右)。カラビナやロープが描かれた、アウトドア好きにはたまらない珍しい柄なんです。

このタグは、現行のものとは違いますね。かなり古いものなのでしょうか?
パタゴニアの前身にあたる「シュイナード」のタグです。パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナード氏が始めたクライミング用品の会社で、その衣料部門が派生してパタゴニアが誕生しました。


フィールドで使ってわかった、本当に頼れる機能
長年愛用しているなかで、実際のフィールドでも「これは頼れる」と感じているのが、この「スーパー・アルパイン・ジャケット」ですか?
「マンゴー」という色で、今ではあまり見かけません。しかも、これは1990年代初頭に発売された初期モデル。袖下やフラップの裏がパープルに切り替えられた珍しい一着です。今もバリバリの現役で、日常着としてもキャンプ時でもよく着ています。ビビッドカラーのアウトドアウエアには、野山で自分の存在を知らせる役割があります。実際、家族でキャンプへ行ったときも、これを着ているとすぐに僕を見つけてもらえるんです(笑)。

30年以上経った今も着続けられる耐久性は、どんな素材やつくりから生まれているのでしょうか?
アラミド繊維のケブラーを織り込んだリップストップ素材が使われています。今でこそリップストップ生地は珍しくありませんが、パタゴニアは1990年代初頭に、すでにこうした素材使いを採り入れていました。その先進性にも驚かされます。長年着てきたので、生地裏のコーティングがけっこう剥がれてしまっています。それでも普段使いには十分ですし、今もこうして現役で着られる。買ってよかった一着です。

30年以上使っているという「L.L.Bean」のトートも、実際に使うなかで丈夫さを実感しているアイテムの一つですか?
そうですね。もともと氷を運ぶためにつくられたバッグだけあって、とにかく頑丈。日常でもキャンプでも、気兼ねなく使っています。この茶色いシミは、キャンプのときに妻がこぼしたコーヒーです(笑)。


流行に左右されない、変わらないウエア選びの基準
どれも長年着ているとのことですが、好みのサイズ感は変わりませんか?
ジャストサイズが流行ったり、ゆったりとしたサイズが流行ったりしますが、僕はあまり気にしていません。自分の基準は、ジャストサイズより少し大きめ。動きやすく、重ね着もしやすいからです。

ウエアだけでなく、足元にも昔から変わらない定番がありますか?
昔から「コンバース」が好きで、白のハイカットが自分の定番です。これはその中でも珍しい「アナコンダスポーツ」の別注モデル。通常は内側についているアンクルパッチが外側についているところも面白いんです。
好きなモノに囲まれた、6畳の仕事部屋
この部屋は、山田さんにとってどのような場所ですか?
好きなモノに囲まれていると気分転換になりますし、アイディアが浮かぶこともあります。休憩する場所であり、打ち合わせをする場所でもあり、新しいウエアやギアを試すラボでもある。いくつもの役割を持った大切な空間です。

街とフィールドを分けない、アウトドアの新基準
では、山田さんが考える「アウトドアの新基準」とは?
キャンプへ行くからといって、わざわざ特別な服に着替えるような感覚をなるべくなくしたいんです。普段からアウトドアウエアを着ていれば、そのまま自然の中へ出かけられますから。キャンプへ行くときも、パタゴニアのウエアにリーバイスの501という普段と変わらない格好です。色も大切です。最近はモノトーンやベーシックカラーのアウトドアウエアが人気ですが、僕はビビッドな色が好き。そのほうがアメリカを感じられますし、気持ちも明るくなりますから。
10代でアメカジとアウトドアの魅力に目覚め、クライミング、キャンプ、釣りへと楽しみを広げてきた山田さん。30年近く着続けるウエアや使い込んだギアから見えてくるのは、スペックや希少性だけではなく、実際に使って頼れること、そして日常でも自然の中でも快適に使えることを大切にする姿勢だ。
キャンプだからと特別な服に着替えるのではなく、普段から着ている服のまま自然へ向かう。街とフィールドを分けず、その両方で使い続けられるものを選ぶこと。それが、山田さんの考える「アウトドアの新基準」だ。
Photo by Hiroyuki“Lily”Suzuki(StudioLog)
Movie by Hiroto Sawano
Director by Junnosuke Futo
Text by Ryota Osujo(Office Osujo)
Original Movie














