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なぜ老舗ニット工場が自らブランドを作るのか? 三本テキスタイル「amyto」の挑戦

2026.09.30
創業150年を超える新潟県見附市のニットメーカー三本テキスタイルが、初のファクトリーブランド「amyto(アミィト)」を始動した。長年OEMを主軸にものづくりを支えてきた同社が自らブランドを立ち上げた背景には、産地に蓄積された技術や経験の価値を、自分たちの言葉で消費者へ届けたいという思いがある。「amyto」を通して何を伝え、産地の未来をどう描こうとしているのか。プロダクトマネージャーの松浦希実さんに聞いた。

PROFILE

松浦 希実(まつうら のぞみ)

株式会社三本テキスタイル
企画営業部所属/amyto プロダクトマネージャー

2024年3月に大学を卒業し、同年4月に株式会社三本テキスタイル入社。

OEMでは伝えきれないものづくりの価値を、自分たちの言葉で

三本テキスタイルは、これまでOEMとして数々のブランドのニットを手がけてきた。それゆえ、技術力やものづくりへの姿勢には自信があった。ただ、委託製造として黒子に徹している以上、その価値を自分たちの言葉で届けることができないという葛藤もあったという。
「たとえば品質表示をとっても、製造元として三本テキスタイルと載る場合もありますが、まったく載らない場合もあります」
いいものを作っても、名前は表に出ないことがある。そのもどかしさゆえに、「自分たちは何を大切にものづくりをしているのか」という疑問と、「この技術を次世代にどう残していくべきか」という課題が見えてきた。
その答えの一つとして立ち上げたのが、自社ブランド「amyto」だった。企画から製造、販売のすべてを自分たちで担うことで、OEMでは発注元の指定に沿っていた素材やデザインにも、自社が培ってきた技術を反映できる。

理想の風合いは「糸」から作る

PLAID CARDIGANのディテール。チェックの一マスごとに配色と太さを変えている。モヘアの毛足が表面に浮かぶ温かみのある風合い
ブランド名の「amyto」は「編み糸」に由来する。その名の通り、ブランドのものづくりは「糸」を起点にしている。
「糸を単なる素材としてではなく、商品の表情や着心地、耐久性を左右するものづくりの起点と考えています。ニットは同じデザインでも、糸の素材や太さ、撚りなどの組み合わせによって、風合いや落ち感、暖かさが大きく変わってきます」
その姿勢が表れているのが、デビューコレクションの一つとなる「PLAID CARDIGAN」だ。当初は毛足の長い豊かな風合いを求め、モヘア100%を目指していた。ところが、特殊な編機でモヘア100%の生地を編もうとすると、編地に穴が開き、機械が途中で止まってしまうこともあった。
「簡単にモヘアを諦めるのではなく、モヘアの毛足の長さや独特の表現を残しながら、安定して編めるようにするにはどうしたらいいかと考えました。ウールで暖かさを、アクリルやナイロンで強度と安定性を補う。ただ混ぜればいいわけではなく、何回も編み直しをして、糸の状態や機械の動きを見ながら調整を重ねた結果、この混率になりました」
ウール29%、モヘア23%、アクリル23%、ナイロン25%。この細かな数字は、理想と生産条件のあいだで繰り返された試行錯誤の結果だった。
理想の風合いと安定した生産を両立するため、糸の組み合わせや混率を繰り返し調整する。こうした試行錯誤に、糸をものづくりの起点とするamytoの姿勢が表れている。

機械だけでは作れない、熟練技術者の「判断力」

見附の工場での作業風景。糸の状態や気温で編み地の表情は変わり、判断できるのは経験を積んだ技術者だけだという
見附はもともと織物の産地だが、時代とともにニットへと事業転換が進んだ地域だ。そこには長い年月をかけて蓄えられた技術があるが、松浦さんが「産地の価値」と呼ぶものは、設備や工程表からは見えてこない。
「ニットを機械で編む際に別の人が動かすと、まったく違うものができることもあり、糸の状態や編機の特性をしっかり分かっていなければ、製品として仕上がりません」
糸は気温が高ければ膨張し、低ければ縮んで動きにくくなる。同じ商品でさえ、夏に編むか冬に編むかで、機械の設定は変わってくるという。判断できるのは経験を積んだ技術者だけ。松浦さんは、こうした経験に基づく技術者の判断力こそ、見附に蓄積されてきた産地の強みだと考えている。

経糸を通すのに、半日から2日

「LAPIS インターシャ経糸挿入型ハイブリッド横編機」。
日本に数台しかないとされるLAPIS。社内でこの機械を扱えるのは一人しかいない
この編機の要である経糸をセットするだけで半日から2日もかかる
「amyto」の柄表現を支えているのが、日本に数台しかないとされる「LAPIS インターシャ経糸挿入型ハイブリッド横編機」である。横編機は本来、横方向に糸を動かして編む。この機械はそこに経糸を同時に挿入できるため、通常の横編機では出せない薄さとフラットな編地が表現できるのだ。
ただし、それを得るためには相当な時間と労力が必要とされる。経糸をセットするだけで、熟練の技術者でも半日から2日を要するほど。しかも社内でこの機械を扱えるのは、たった一人しかいない。その担当者が休めば、生産も止まってしまう。生産効率だけを考えれば、決して効率的な方法とはいえない。
「私たちは、単純な生産スピードだけを追い求めているわけではありません。時間を短縮するのではなく、むしろ時間をかける意味がある商品を作ることが、『amyto』の考え方の一つであり、こだわりなのです」
とはいえ効率化そのものを否定しているのではない、と松浦さんは念を押す。
「時間をかけるべきところにはしっかりかけて、効率化できるところはなるべく効率化する。そのメリハリが、これからのものづくりには必要です」
だからこそ、これからは技術の継承、生産体制の安定性や互換性を高めるため、他の技術者にもこの機械の操作技術を習得してもらう計画を進めるという。

産地の技術を、今の時代に生かす

「amyto」のプロダクトマネージャーを務めるのは、2024年4月に入社した松浦さんだ。大学ではデザインを学んでいたものの、ニットの生産知識はゼロからのスタートだった。ブランドを任された当初は驚いたという。
「長年、現場にいる技術者にとっては当たり前になっていることでも、実は価値のある技術や判断であることが多いです。まずはそれを自分の目で見て、理解することを大切にしています。
その上で、現在のデザインやライフスタイル、現代の消費者の価値観を、その技術とどう接続できるのかを考えることが自分の役割だと思っています」
技術者にとっては日常になっている技術や判断を、産地がもたらす価値として現代のデザインやライフスタイルと結びつける。松浦さんがamytoで担うのは、見附に蓄積されてきた技術を、今の時代のものづくりに生かしていく役割だ。

時間と技術の積み重ねを、一着の価値に

アーガイルのVネックセーター。ウール100%で、ジャガード組織の厚みを抑えるためエクストラファインの糸を用いている
「amyto」のコンセプトは「モダン・ヘリテージ」。受け継がれてきた技術やものづくりを、現代の感覚で読み替えて届けるという考え方だ。では、そうした技術や時間を積み重ねた一着を、amytoはどのように捉えているのか。そこには、価格や素材の希少性だけでは測らない、独自のラグジュアリー観がある。
「単に高価な素材を使うことや、価格が高ければいいということではなくて、時間や技術、素材や人の知恵といったものが、一着の中に価値として積み重なるのだと考えています」
そして、その価値は手にした瞬間が頂点ではなく、着るほどに感じられるものだという。amytoが目指しているのは、自社ブランドの価値を高めることだけではない。産地の工場が自らブランドを持ち、蓄積してきた技術を消費者へ届けられることを示そうとしている。
「一つは、産地が主体となってブランドを作ることもできるという事例を提示することです。日本のものづくりには、高い技術を持った工場や職人さんがたくさんいます。でも、その価値が消費者まで届いていないケースがほとんどです」
その先に見据えているのが、ブランドだけでなく産地全体の未来だ。
「最終的には、若い人がものづくりを仕事にしたいとか、見附でニットを作りたいと思えるような産地にしていきたいです。『amyto』だけが成功するのではなく、ブランドの成長が地域と産地の成長につながる環境を作ることが、私たちの目指しているところです」
経糸を通すだけで半日から2日。糸の状態や気温に合わせて機械を調整し、その判断を担えるのは経験を積んだ技術者だけ。見附という産地には、数字や生産効率だけでは測れない技術や経験が長い年月をかけて蓄積されている。
その価値を工場の中だけにとどめず、自分たちの言葉で消費者へ届ける。そのために三本テキスタイルが立ち上げたのが「amyto」だ。自社ブランドを通して産地の技術を伝え、次の世代へつないでいくこと。それが、老舗ニット工場である同社が、自らブランドを作る理由なのだ。

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