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植物100%素材「EUMIS skin」が目指す、地域で循環するものづくり

2026.11.05
野菜の搾りかすや、摘み取られた青い柿から、縫製できるシート素材が生まれている。EUMIS合同会社の「EUMIS skin」は、石油も動物性原料も使わない、100%植物由来の素材だ。
ただし、代表の爪長季美さんが目指しているのは、素材を提供することだけではない。地域の未利用資源を、その地域の人々が自ら素材に変えられる「循環の仕組み」を構築することだ。その原動力となった考え方を伺った。

「作り続けられない」と思った日

爪長さんが洋服づくりを始めたのは9歳のとき。洋服を作っていた祖母に教わったのがきっかけだった。専門学校で縫製やパターンを学び、衣装制作にも携わるなど、服づくりを始めておよそ30年になる。
「ものづくりが大好きで、おばあちゃんになっても洋服を作っていたい」。一方で、作れば必ず廃棄が出る。作り続けたい気持ちと、廃棄を生む葛藤。そのギャップは長く心に残っていた。
転機はコロナ禍だった。ファッション産業が大量のごみを生み、その背景にある労働環境や生産現場の課題を知ったとき、爪長さんはこう感じたという。
「これからどうやってものづくりを続けていけばいいんだろうと、途方に暮れました。市場がどうこうではなく、今のままでは心からものづくりを続けられない。でも、作ることの幸せまで手放したくない。だから、作る自分を自分で許すための解決策が必要でした。すごく個人的な理由なんです」
当時は植物由来をうたう新しい素材が世界的に出始めていた。関心を持ったものの、調べてみると化石燃料を多く使っているものもあり、納得できる素材には出会えなかった。ならば、日本の技術者や伝統の知恵を組み合わせれば何か生み出せるのではないか。それが最初の一歩となった。

少数民族の村で出会った、ものづくりの原点

爪長さんの思考の根底には、25歳ごろから続けてきた少数民族の村への旅がある。
「ファッションのルーツは民族衣装にある」と考え、バックパックを背負い、中国南部や東南アジアの村を訪ね歩いた。
そこで目にしたのは、土地の資源を生かし、地域の中でものづくりが循環する暮らしだった。
「土地の植物を発酵させて生地を染め、金属が必要なら隣村の得意な人に自分の織った布と物々交換してもらう。作る相手が家族や親戚だからものに込める愛が深いんです。魔よけの刺しゅうや『後ろから襲われないように』といった装飾のすべてに意味がある。その姿を見て、ものづくりの本来のあり方は、こういうことなんじゃないかと思いました」
その土地にある資源を使い、文化を素材に込めること。この旅で得た感覚は、現在のEUMISのものづくりにもつながっている。日本の伝統素材である柿渋を素材の要に据えたことや、近く発表する自社ブランドの鞄を、漆や木工の職人と一緒に作っていることも、その延長線上にある。

キッチンで続けた3年間。手がかりは「3つの軸」だけ

粒感や色むらをあえて残したEUMIS skin(画像提供:EUMIS)
2021年、爪長さんは素材の開発を始めた。テキスタイルデザインの延長でできると思っていたが、実際には専門的な化学の領域だった。化学の知識を持たないまま、個人の挑戦が始まった。
最初の3年ほどは、自宅のキッチンが研究室だった。食品工場などから未利用となる植物原料を譲り受け、試作を重ねた。だが、出来上がるのは柔軟性がなく、パリッと割れてしまうものばかり。たとえ縫えても、ファスナーを開ければ破れてしまう。国内に参考情報はなく、海外の論文を翻訳して探る日々が続いた。
数値基準を設ける前の手探りの開発でも、譲らなかった条件は3つあった。植物由来であることがひと目で伝わる美しい風合い、縫製に耐えられる強度、そして100%植物由来であることだ。
「新しいドレスをどう作ろうか、という感覚で始めた開発でした」
不格好なシートを持って企業を訪ね、「事業にならない」と断られることもあった。行き詰まったときは、「なぜこれをやるのか」を言語化する作業に向かった。このとき整理した考えが、現在のEUMISの哲学やブランドの土台になっている。
試行錯誤の末、柔らかなシートができた。その後、もっとも苦労したのが、天然素材特有のばらつきを抑え、品質を安定させるための「数値化」だった。季節や原料によって状態が変わるなかで、柔らかさと縫製に耐えられる強度を両立し、工業化できる状態へ近づけていった。

柿渋が、植物どうしの「手をつなぐ」

柿渋の原料となる青い柿(画像提供:EUMIS)
EUMIS skinの主要な構成要素のひとつが、青い柿を発酵させて作られる柿渋だ。日本のものづくりを支えてきた柿渋を、植物由来の素材づくりに取り入れている(特許出願中)。さまざまな植物由来の原料をひとつのシートにまとめるうえでも、柿渋は重要な役割を担っている。
柿渋は古くから建材や漁網に塗られ、防腐目的で使われてきた。EUMIS skinは天然原料のみで構成するため、カビや虫害への対応も開発上の課題のひとつだ。実際の試作では、柿渋の配合量によってカビや虫害の発生に違いが見られるケースもあり、現在も検証を続けている。
加える原料によって、シートの表情は変わる。桃なら赤みを帯びて甘く香り、三陸のわかめなら黒っぽいシートになる。コーヒーや生姜など、原料によってはその香りが長く残るものもある。ウレタンなどで表面を均一にはせず、粒感や色むらをあえて残すのも、植物由来であることを伝えるためだ。厚みは用途に応じて約0.5〜1.5mmで調整している。しなやかで、縫製できる強度を持つ。

地域ごとの「小さな循環」をつくる

EUMIS skinのライフサイクル。地域の未利用資源などから素材を作り、製品化、再製造、生分解へとめぐる(画像提供:EUMIS)
「私たちが目指しているのは素材会社ではなく、循環の仕組みをつくる会社です」
大工場で大量生産するのではなく、地域ごとに小さな循環型製造をかなえる仕組みを置く。地域の未利用資源を地域の人々がシートに変え、新たな価値を生み出す。現在は福島県いわき市の協力工場で製造を行っており、地域で循環するものづくりに向けた最初の一歩が始まっている。また、より大きなサイズのシート製造に向けた検証も進めている。
EUMISには、ものづくりにおける考え方を整理した「EUMISの哲学ピラミッド」があり、事業やプロジェクトを考える際の判断基準にしている。根底にあるのは「ものづくりへの愛と素材への敬意」。その上に「自然の循環とものづくりの共存」というコンセプトがあり、それを実現するための事業やプロジェクトの仕組み、さらに具体的な手段のひとつとしてEUMIS skinがある。
「EUMIS skinは、循環を実現する選択肢のひとつで、もともとこれ自体がやりたかったわけではありません。生地開発だったかもしれないし、古着屋だったかもしれない」
2025年に制作したEUMIS skinの鞄の試作品(画像提供:EUMIS)
現在のEUMISでは、企業や地域の未利用資源を活用し、素材開発から製品化まで伴走するOEMなど、さまざまな形で企業とのプロジェクトを進めている。11月27日には東京でEUMISのものづくりを紹介するEUMIS Open Houseを開き、素材の魅力を引き出した初の自社ブランドの鞄を発表する。強度や耐久性の課題も正直に伝えながら展開を進めていくという。
示したいのは、既存の否定ではなく新しい選択肢だ。
「たとえば、知っている農家さんの人参が、鞄など身近なものになっていく。それが分かるだけでも、そのものへの愛着は変わると思うんです。見た目や価格だけではなく、何からできて、どこから来たのかを知ることで、ものを選ぶことや、使い続けることがもっと楽しくなる。そんな選択肢を増やしたいと思っています」
いつかブーツからドレス、トレンチコート、帽子、鞄まで、全身をこの素材でそろえることが、爪長さんの個人的な夢だという。その第一歩が、これから発表する鞄になる。
しかし、EUMIS skinを広げること自体がゴールではない。地域で生まれたものを地域の人が素材に変え、それが新たな製品として使われ、再び循環していく。キッチンから始まった小さな実験は、EUMISが思い描く「作り続けられる仕組み」へと少しずつ形を変えている。

PROFILE

爪長 季美(つめなが すえみ)

EUMIS合同会社 代表

9歳から祖母に洋服づくりを学ぶ。ファッションの専門学校で縫製・パターンを学び、衣装制作の仕事などに携わる。2021年に植物由来100%のシート素材の開発を始め、2025年にEUMIS合同会社を設立。

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