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牛革の常識を変える、軽くしなやかな和牛革「A LEATHER」

2026.08.18
大阪発のレザーブランド「A LEATHER(エー レザー)」が、海外の展示会で注目を集めている。牛革とは思えないほどのしなやかさと軽やかさを備えたプロダクトは、現地のバイヤーたちを驚かせた。
ブランドを手がけるのは、デザイン経験を持たず、アパレルの販売員としてキャリアをスタートした長岡 利和氏。固定観念にとらわれない視点から生まれたものづくりは、国内だけでなく海外からも高い評価を集めている。
今回は株式会社BOND&Co. 代表の長岡氏に、A LEATHER誕生の経緯と、ブランドが大切にするものづくりについて話を聞いた。

アパレル販売のプロから、「残るもの」づくりへ

長岡氏のキャリアの原点はアパレルの販売現場だ。ファッションブランドの販売員として現場責任者を務めた後、31歳でセールスに特化した販売代行会社を設立。あらゆるメーカーの販売に携わり、「物を売る」プロフェッショナルとしてキャリアを積んできた。
しかし、多くの商品が消費されては消えていくサイクルを目の当たりにする中で、次第に心境が変わっていく。他社のブランドを売る仕事は、あくまで「売ること」が目的となり、プロダクトそのものへの深い関与が難しい。自らの仕事が形として残らないことへの葛藤が、新たな挑戦へと駆り立てた。
「自分がやったことが残っていくことがしたいなと思ったんです。売ることだけをしてしまうと、ブランドへの愛というより、売ること自体が目的になってしまう。そこに5、6年前から違和感がずっとありました」
長岡氏はそう振り返る。消費されるだけではない、使い手と共に時を刻み、価値を深めていく「残るもの」。その答えが、彼が元々愛用し、経年変化を楽しめるレザーだったのである。
株式会社BOND&Co. 代表でA LEATHER ディレクターの長岡 利和氏

コロナ禍で出会った姫路の革

ブランド設立の直接的な引き金となったのは、2020年、世界中を混乱に陥れたコロナ禍での出来事だった。
ファッション業界だけとは限らずにさまざまな業種の仕事が止まり窮地に立たされるなか、縫製工場も例外ではなかった。そんな現状を知り長岡氏も行動を起こす。
レザー製品を手がける工場から、どうにかして売れないかと相談を受けたのだ。
「彼らも生活のために必死でしたから、僕らも協力しますと。アウトレットの催事場などを駆け回り、自分たちで売り歩いたんです」
その活動の最中、長岡氏は運命的な出会いを果たす。あるレザーアイテムの圧倒的な質感に心を奪われたのだ。それは、兵庫県の姫路でしかできない特殊な鞣し(なめし)が施された革だった。
「『こんな革が日本にあるんだ』と衝撃を受けました。その時、これを使い、残していくようなブランドをやりたい、と強く思ったのがきっかけです」
それまで知られていなかった日本の革のポテンシャル。そして、その技術を守り、広めたいという使命感。販売のプロとして培った経験と、ものづくりへの熱い想いが交差し、A LEATHERの物語が静かに幕を開けた。

和牛と軟水が生む唯一無二の質感

A LEATHERの根幹を成すのは、徹底的にこだわり抜いたマテリアルだ。原皮は国産の和牛に限定。それを兵庫県たつの市を流れる揖保川の「軟水」で染め上げる。この土地と水こそが、A LEATHERの革の質感を決定づける。
「揖保川の水は軟水で、それで和牛の皮を染めると、非常にソフトで柔らかい革に仕上がります。同じレシピで中国やイタリアで試しても成功例がなく、日本の軟水でしか生まれない風合いなんです」
この製法によって生み出される革は、ただ柔らかいだけではない。牛革本来の強靭さを併せ持つのも大きな特徴だ。例えばラムレザーやシープスキンでは耐久性を保つために1mm以上の厚みが必要とされることもあるが、A LEATHERの革は0.6mm~0.7mmという極限の薄さまで漉いても、十分な強度を維持できるという。
「強い分だけ薄く漉くことができる。だから軽量化も可能です。これはラムレザーやシープスキンでは難しい。長く使える耐久性もこの革の魅力です」
「硬くて重い」という牛革の固定観念を覆す、しなやかさと軽さ、そして耐久性。それは、日本の豊かな自然と職人の技術が融合して初めて実現する、唯一無二のクオリティなのである。
取引のあるタンナーの干場といわれる場所
仕上がったスムースレザー
縫製工場での裁断の様子
縫製の様子

素材を引き立てるソリッドなデザイン

A LEATHERのデザインは、この特別な革のポテンシャルを最大限に引き出すために設計されている。大判で採れるという和牛革の利点を活かし、パンツのような大きなアイテムでも切り返しを排した一枚革で仕立てる。それにより、美しく流れるようなドレープが生まれ、プロダクトの表情を豊かにする。
ブランドのアイコン的存在である「TRUCKER JACKET(トラッカー ジャケット)」。立ち上げ当初から展開しているこの一着は、ユーザーからの支持が広がるにつれ、いつしかブランドの代名詞となっていた。
もう一つの定番「ROADSTER JACKET(ロードスター ジャケット)」は、襟付きライダースを現代的に解釈したモデル。少し大きめで野暮ったさを残した襟と、シャープで美しいシルエットのコントラストが絶妙なバランスを生み出している。
「僕らは、従来の無骨なイメージのレザーブランドではなく、トレンドを追いすぎず、5年後も着られるシルエットをもっとも重視しています。だから、デザインはソリッド(純粋・無垢)であることを心がけています」と長岡氏は語る。その根底には、特定のファン層だけでなく、これまでレザーに馴染みのなかった人にも届けたいという想いがある。
「レザーを買ったことのない人にこそ、買ってほしい。そういうブランドになりたいんです」
TRUCKER JACKET 242,000円(税込)
ROADSTER JACKET 143,000円(税込)

パリで評価された日本のレザー

ブランド設立から約1年半が経ち、品質や生産体制が安定してきた頃、長岡氏は卸販売の開始を決意。その最初の舞台として選んだのは、国内ではなくフランス・パリだった。準備期間を経て、2024年1月、A LEATHERはパリの合同展示会で初のコレクションを発表した。
その反応は、想像以上にポジティブなものだった。特に、レザーの本場であるイタリアのバイヤーたちも、その品質に驚きを隠さなかったという。
「『これが牛革なのか』と、まず驚かれます。僕らの世界観とアプローチ、そして日本の革の品質を高く評価してもらっています」
牛革のイメージを覆すしなやかさと、それを実現する日本の技術力。A LEATHERの挑戦は、海外市場において「日本の革」の新たな価値証明となりつつある。ブランドの歩みは、まだ始まったばかりだ。
A LEATHERの探求は止まらない。24年秋冬シーズンには、白芯の革に黒い塗料を乗せ、ひび割れ加工を施した「クラックレザー」など、新たな表現にも挑む。ウェットブルーと呼ばれる革の原初的な段階からタンナーと議論を重ね、常に新しい革の開発に取り組んでいるという。
クラックレザー素材のBIG COLLAR RIDERS JACKET 330,000円(税込)
大きめの襟とシルエットでトレンチコートのようなエレガントさが特徴だ
皮から革へと変わる初期段階がこのウェットブルーだ。
奥に映る装置は通称“太鼓”と呼ばれ革に薬剤を浸透させるものになっている
その視線は、自社の成長だけには向いていない。長岡氏は、A LEATHERをきっかけに日本の革が世界に広まることを心から願っている。
「この革をもっと世に広めたい。だから、僕ら以外の人にも使ってもらって構わないんです。むしろ、そうなってくれたら嬉しい。僕らはまた常に新しいことを作り出せばいいだけなので」
ひとりの男の「残るものを作りたい」という純粋な想いから始まった物語は、今、日本のものづくりの可能性を世界に問いかける、大きなうねりとなろうとしている。

PROFILE

長岡 利和(ながおか としかず)

A LEATHER ディレクター

1979年生まれ。株式会社BOND&Co.を立ち上げ。2022年、これまでの様々な視点からの感覚を生かしたブランドとして、パタンナーの山岡氏とタッグを組み、レザープロダクトブランド「A LEATHER」を立ち上げ。

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