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驚くほど軽いシルバージュエリー:パリ発「Camille Surault(カミーユ・シュロー)」が宿すフォルムの哲学
ジュエリーがひとつの“かたち”として呼吸を始める瞬間。それは素材でも技法でもなく、眼差しの深さから立ち上がる。パリを拠点とするジュエリーデザイナー、Camille Surault(カミーユ・シュロー)の作品は、光の気配や空間の温度といった、言葉にならない感覚をそっとかたちにしたものだ。
驚くほど軽く、身に寄り添い、日常に静かに溶け込むシルバーの造形。アクセサリーという概念を超え、彫刻にも近い存在としての美しさがそこにはある。彼女のジュエリーがどのように生まれ、どんな未来を描こうとしているのか──その軌跡を辿り、創造の根に宿る哲学を探っていく。
PROFILE

カミーユ・シュロー(Camille Surault)
Camille Surault デザイナー
Silver 925でつくる“軽さ”のフォルム
Camille Suraultは、2023年にパリでローンチされたスターリングシルバー(Silver 925)のジュエリーブランドだ。核にあるのは、「軽さ」と「耐久性」、そして“空間に浮かぶオブジェ”のようなフォルムを成立させるための独自の製法。ブランドの核を支えるのが、ワックス原型に銀を堆積させる電鋳(エレクトロフォーミング)技術だ。ボリューム感を保ちながら、驚くほど軽く、日常に耐える強度を両立させている。公式サイトのラインナップは、リング、イヤーカフ、イヤリング、ブレスレット、ネックレス、そしてベルトまでと幅広い。「PIPPA」「DOWDOW」「BLOWBLOW」「YOWYOW」「LOOP」「BOWB」「GRIGRIS」といったシリーズ名が並び、どのピースも“曲線の張り”や“量感の置き方”で、肌の上に静かな存在感をつくり出す。
と感性のあいだに生まれる永続性を、現代のジュエリーへと翻訳するブランドだ。身につける人が重ねる時間とともに呼吸する、まったく新しい光の“かたち”である。


特に、ピアスホールがなくても着用できるNO-PIERCING EARCUFF(ノンピアス・イヤーカフ)の展開は、プロダクトとしての間口の広さと、日常性への意志を象徴している。
アトリエで育った眼差し
パリの朝の光が差し込むアトリエでは、金属のにおいと削られたワックスがわずかに香り、ドローイングの線が白い紙の上を静かに走る。その空間こそが、ジュエリーデザイナーであるカミーユ・シュローが育った原風景だ。そこには常に、彼女にとってもっとも身近なアーティストである父・Philippe Audibert(フィリップ・オーディベール)の存在があった。ジュエリーを彫り、磨き、かたちを与える父の背中は、幼い彼女にとって「世界とは創造することでかたちづくられる」と教えてくれる、生きた教科書だった。
「幼い頃から、父がアトリエで仕事をし、描き、彫刻をする姿を見て育ちました。彼は私をアーティストとして最初に導いてくれた存在です」
彼女がこう振り返るとき、その言葉には父への敬意と、創造という行為の根源への深い理解が宿る。
10代になるとカミーユは写真の世界に没入した。両親に与えられたインスタントカメラを片手に、光がかたちを変え、感情を映し出す瞬間を探し続けた。美が立ち上がる“その一瞬”を捉えるために。写真家として鍛えられた光への直観は、後にジュエリーデザインの中核となる“フォルムの気配”を読み取る力へと変わっていく。
空間を彫刻するジュエリー
そして2019年、父の病をきっかけにジュエリーブランド「Philippe Audibert」のクリエイションに関わるようになったことで、彼女の中に長く潜んでいた本能が静かに目を覚ます。父のアトリエを引き継いだことは、ブランドを“そのまま継承する”という意味ではない。むしろ、そこで培った技術と感覚を足場に、自らの言語を組み立てていくための自由な土壌を得たということだった。ジュエリー制作という道は、生涯のどこかで「選ぶ」ものではなく、すでに身体の奥で育っていた宿命だった。それはやがて2023年、スターリングシルバーを用いた自身のブランド「Camille Surault」として結晶する。

彼女の創造プロセスの中心にあるのは、まず“かたち”が生まれることだ。それはアクセサリーとしての機能以前に、“空間に置かれた造形”のようなフォルム。その構想をジュエリーへと変換する鍵となるのが、電鋳技術である。
ワックスで成形したモデルに銀を電気的に堆積させていくこの手法によって、軽やかでありながら耐久性に優れたシルバーの造形が生まれる。何よりこの技術は、「かたちから始まる」カミーユの思想を、そのまま物質化する装置でもある。
造形は大胆でボリュームがありながら、身につけた瞬間に軽さが際立ち、肌に溶け込み、身体のリズムを妨げない。彼女が追求するのは、存在の心地よさだ。ピュアなラインと柔らかなカーブで構成されたピースは、昼夜を問わず纏える普遍性を宿す。
「ジュエリーが重かったり、つけ心地が不快だったりすると、その人の動きや態度さえ変えてしまう」。だからこそ彼女の作品は、装飾ではなく“伴走する存在”であることを目指している。
リングやネックレスといった基本形に加え、ノンピアスのイヤーカフやベルトまで展開する点にも、身体と装いの関係を「面」で捉え直そうとする姿勢が表れている。
装いの一部でありながら、持ち主の内面の静けさをすくい上げるように寄り添う。まるで、光を写しとる写真がその人の輪郭を静かに明らかにするように──。

誠実さを軸に未来をつくる
未来について語るとき、カミーユは夢想家であり、同時に現実を鋭く見据える観察者でもある。「父がブランドを創設した40年前とは、時代も環境も異なるため同じようにはいきません。でも、自分たちの本質に合ったモデルをつくることはできると考えています」
その言葉には、父のアトリエで培われた誠実さへの信仰と、現代に生きるブランドとしての責任感が交錯している。
彼女にとって、ブランドの拡大は目的ではない。大切なのは、作品が語る言葉がぶれないこと。光、かたち、素材、そして“身につける人の経験”という4つのレイヤーが調和し続けること。そのうえで、長年敬愛してきたブランドに並ぶ存在へと成長したいという意志も、自然な欲求として内に秘めているようだ。
そして特筆すべきは、日本との深い結びつきである。「フランスの次に自分らしくいられる国は日本」と語るように、日本のアート、映画、ファッション、建築、そして静けさを尊ぶ美意識は、カミーユの哲学と濃密に共鳴する。小売店での展開が始まったばかりの彼女のジュエリーは、日本という文化圏の中で、より鮮やかにその存在感を発揮していくだろう。
光がかたちを生み、かたちが身体に寄り添い、身体の記憶がまた次の創造へとつながっていく。Camille Suraultとは、物質と感性のあいだに生まれる永続性を、現代のジュエリーへと翻訳するブランドだ。身につける人が重ねる時間とともに呼吸する、まったく新しい光の“かたち”である。
Text by ELIE INOUE











