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パリで着物の需要はどこまであるのか? やまとがフランスで目指す次のステージ

2026.05.20
パリで着物は今どれくらいの需要があるのか。それを最前線で感じているのが東京に本社を構える着物専門店「株式会社やまと」だ。
昨年2025年4月に、同社が展開する女性向けブランド「KIMONO ARCH(キモノ・アーチ)」と、男性向け「Y. & SONS(ワイ・アンド・サンズ)」を同一店舗に置いた直営店をパリに開店。1年を経た現在、同店にパリでの着物の立ち位置を聞いた。

PROFILE

平松 元(ひらまつ げん)

KIMONO ARCH / Y. & SONS in Paris
店舗マネージャー

パリで日本国内の店舗と同様のサービスを展開

パリ市内、マレ地区。ここは大小さまざまなブランドのブティックがひしめき合う、パリの中でも流行への感度が高いエリアだ。今から1年前、このマレ地区の一角に、やまとは初の海外店舗を出した。
着物は以前から、パリで一定の存在感はあった。古着を販売する店が点在し、着物や和雑貨を洋装のアクセントとしてコーディネートしているフランス人を見かけることもある。イヴ・サンローランなどのデザイナーが着物からインスピレーションを受けたり、KENZOやイッセイ・ミヤケ、ヨージ・ヤマモトも、着物の要素をコレクションに取り込んだ。
しかしながら着物は、パリの人々にとって未知の世界でもあった。そこをもう一段押し上げようとしているのが、やまとのブティックである。
「一番よく出るのは羽織。カーディガンやコート代わりに着てもらう形で提案しています。アンティークの着物は知っているけど、そうではない着物を求めていた方が手に取ってくださっています。日本に関心があり、日本の『染め』や『織り』にも興味があるような方々です」
作務衣もよく売れる商品の一つ
そう答えるのはパリ店の店舗マネージャーを務める平松元さん。平松さんは、やまとの現地法人立ち上げから現在まで、パリでの業務を任されてきた。
同店がパリで開店した意義は2つ。一つは、扱い方が分かりにくい着物を日常の中でカジュアルに着てもらう提案をすること。
もう一つは、今までパリでは見つけることが難しかった、着物を新調できる店であるということ。仕立てからクリーニングまで、日本の着物屋が日本で行うのと同様のサービスをパリで実現した。
価格は羽織単体で500〜1,000ユーロ。一式で3,000ユーロ前後に設定されている。
「私たちはパリではまだ無名のブランド。そしてパリで流通している着物は主にアンティークで、1枚100ユーロくらいから買えるものです。そういったところから、実際に需要がどう出てくるかなとは開店前に思いましたが、蓋を開けてみたら非常に手応えがあった。受け入れられていると感じています」
購入者の半数以上はフランス人。残りはファッションウィークなどのビジネス、もしくは旅行でパリを訪れた外国人である。

必要とされていないからこそ選んでもらう

着物という、とてもドメスティックな業界にいるやまとが、なぜ海外展開を選んだのか。それはコロナ禍前あたりから変わってきた、日本のKIMONO ARCHおよびY. & SONSの客層にあるという。
「日本国内における海外のお客様のご利用が非常に多くなってきました。フランス・パリという土地はファッションの都ですし、世界に発信する源となる場所です。そのパリでチャレンジしたいという思いもありました」
あわせてパリは、最終的に人が集まる場所でもあった。
「たとえば、イタリアのフィレンツェでピッティ・ウォモというメンズのファッション見本市があり、私もよく足を運んでいたのですが、面白いのが結局みんな、『またパリで会おう』という話になるんです。フィレンツェではショーをやって、その後にパリに移って買い付けをしたりする。そこで『君たちはパリに拠点があるのか?』というような会話がなされる。パリに拠点を置くと、世界の人々と繋がれる構造になっているんです」
結果、やまとは2023年10月にフランスの現地法人を設立。1年間、現店舗があるのと同じマレ地区でポップアップ出店しながら実証を重ね、2025年4月に現在の店舗をオープンさせた。
「世界で、KIMONO=『やまと』だと即認識されることがゴールです。それがKIMONO ARCHやY. & SONSの存在意義だったりするんですけど、各国で私たちやまとのブランドの商品を着ている方がいること。それが私たちの目指す先です」
着物が海外で大きく受け入れられる日は来るのだろうか。その問いかけに対して平松さんは、「着物はそもそも必要とされていない」と前置きしながら、「だからこそ、着る着ないをお客様に選んでもらわないといけない」と力説する。
「当然商売なので、ご支持をいただかないといけない。着物に求められているのは、日本が培ってきた精神性やディテールへのこだわり、生地の質の良さといったイメージ。それらを求める人たちに、いかにアプローチできるかにかかっています。私の実感としてあるのは、これらを求めている方は一定数いる。伸びしろはすごくあります」
着物だけでなく、伝統工芸の小物も取り揃えている。こけしも人気商品の一つなのだという
一方で、顧客側には「日本人ではないのに日本の民族衣装である着物を着てもいいのか」という不安を持つ人もいるという。それに対して平松さんは、「着ていただきたい」と肯定する。
「国籍問わず、互いに尊重し合って文化を築いていきたい。人種の多様性であったり、個性の尊重、肌の色など、いろいろな方がいます。このパリという土地で着物を着ていただくというのは、そういう多様さを互いに認め合うことに繋がると思うんです」
取材後に店の外観を撮影していると、タクシーで乗りつけた2人組のフランス人と思しき客が店内に吸い込まれていき、興味深そうに品定めをしていた。
パリの消費者にとって着物という選択肢が増えることは、着物への解像度がより高まることになる。彼らの着物に対する目も肥えるだろう。パリで着物の輪郭は今、たしかに濃くなりつつある。

Text by 守隨 亨延

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