

Articles
元歯科医の兄弟が再定義する、色彩とクラフトの日常ラグジュアリー「MAISON de SABRÉ(メゾン・ド・サブレ)」
日常に寄り添うプロダクトに、上質な素材とクラフトを持ち込むこと。そこに鮮やかな色彩と個の表現を重ね、新しい価値を立ち上げること。オーストラリア発のプレミアムレザーアクセサリーブランド「MAISON de SABRÉ(メゾン・ド・サブレ)」は、そんな明快な発想を起点に成長してきた。
ブランドを手がけるのは、共同創業者であるオマー・サブレとゼイン・サブレ。元歯科医の経歴を持つ兄弟によって誕生し、133以上の市場に展開するこのインターナショナルブランドの物語を、CEO兼クリエイティブディレクター、オマー・サブレの言葉とともに紐解いていく。
PROFILE

オマー・サブレ(Omar Sabré)
MAISON de SABRÉ 創業者
兄弟でブランドを立ち上げ、兄のオマーは現在、プロダクト、クリエイティブディレクション、グローバルマーケティングを率いている
元歯科医の兄弟がレザーの世界へ
「MAISON de SABRÉ」のユニークさを際立たせているのが、創業者であるサブレ兄弟の経歴だ。オマーとゼインはもともと歯科の道を歩んでおり、ブランドは当初、弟ゼインの歯科学校の学費を支えるためのサイドプロジェクトとして始まったという。その後、注文が急増したことを受けて、兄弟は歯科のキャリアを離れ、ブランド運営に本格的に専念することになった。ファッション教育や業界経験を前提としないスタートだったからこそ、既存のラグジュアリーの文脈に縛られない発想が可能になったともいえる。
オマーはその姿勢をこう語る。
「ファッションの正式な教育を受けていないからこそ、アイディアは制限されません。むしろ、誰もやったことのないことに挑戦できるのです。境界のない夢を描き、不可能を実現する、それを体現するのが『MAISON de SABRÉ』なのです」
創設以来ブランドが向き合い続けてきたのは、「ラグジュアリーとは何か」「それは日常の中でどう機能すべきか」という問いだ。従来のラグジュアリーが象徴してきた重厚さや格式に対し、彼らはあえて“毎日使うもの”へと視線を向けた。スマートフォンケースやウォレット、バッグにこそ上質な素材と精緻な設計を持ち込み、ラグジュアリーを生活に引き寄せている。
その代表例が、ブランドのシグネチャーでもあるフルグレインレザーのスマートフォンケースだ。

パーソナライゼーションを前提にした現代的ラグジュアリーの象徴として打ち出され、保護性と洗練を両立する中核アイテムとなっている。カードホルダーやジップウォレットのような小型レザーグッズも、ブランドの定番として継続的に展開されている。
身体感覚から逆算する、精密なデザイン哲学
サブレ兄弟のデザイン哲学の核にあるのは、形と機能の均衡だ。滑らかに開閉するジッパー、手に吸い付くようなレザーの質感、無駄を削ぎ落とした構造、バッグの内側に施されたバイカラーのディテール。そうした要素は、使うたびに小さな驚きと快適さをユーザーにもたらす。使い心地を重視する姿勢には、人の身体構造や精密な手技と向き合ってきた歯科医時代の経験も通底しているように映る。
「デザインとは、まるで生物学と生理学のあいだを踊るかのようなプロセスです。単に美しく見えることではなく、どう使われるか、どのように手に馴染むかといった身体的な体験までを含めて成立するものなのです」
スマートフォンケースのフィット感や操作性、バッグの開閉や収納の動線といった細部までが設計の対象となり、その積み重ねが日常に自然と溶け込む完成度へと導いている。
この思想は素材や構造にも一貫して表れている。ブランドはフルグレインレザーを核に据えながら、装飾的な豪華さに依存しない。重視されるのは、手に取った瞬間に伝わる質感、使い続けることで深まる馴染みの良さ、そして長く愛用できる耐久性だ。

さらに近年は、DriTan™レザー(水の使用量を大幅に削減したサステナブルななめし技術によって生まれるレザー)の採用や端材を活用したチャームの展開など、素材の扱いにも現代的なアップデートが見られる。「SABRÉMOJI™ Fruit Charm」は、シグネチャーキャリーオールのフルグレインレザー端材をアップサイクルしてつくられている。
色と刻印で“自分のもの”に。MAISON de SABRÉの個性のつくり方
鮮やかな色彩の中に生きる「MAISON de SABRÉ」の世界。マンハッタンの夕焼けを映した「マンハッタン・オレンジ」や、渋谷のネオンを思わせる「シブヤ・フューシャ」といったカラーは、都市の記憶や個人の感情をプロダクトへと重ね合わせる試みでもある。設計からデザイン、カラーパレットに至るまで、彼らの創造の源にあるのは、世界そのものへのまなざしだ。
「私たちの中には“オープンスカイ・オプティミズム”という考えがあります。世界には無限のインスピレーションがあり、それが私たちをより良くしてくれるのです」
この“楽観”とは、身の回りの環境に潜むディテールを丁寧に観察し、そこから価値を見出す感性を指す。クラシックカーの塗装の奥行き、ミッドセンチュリー家具の質感、ハイジュエリーのコントラスト。そうした異なる領域の美学を横断的に接続することで、彼らの色彩は独自の深度を獲得していく。
「ブランドとしての最大の強みの一つは、異なる業界のアイディアを横断的に結びつけ、独自の視点やデザイン、ソリューションを生み出せることだと考えています。この制限のない創造性こそが、私たちのアイディアを無限にし、これまで誰もやったことのないことを追求する原動力になっています」
さらに「MAISON de SABRÉ」を象徴する取り組みの一つが、モノグラムサービス「Make Your Mark」だ。スマートフォンケースを含む多くのアイテムでパーソナライゼーションを前提としており、日常的に持ち歩くアイテムにイニシャルや名前を刻むことで、プロダクトは単なる所有物から、個人の軌跡を映す存在へと変わっていく。

「私たちは、すべての人が自分の軌跡を刻む旅の途中にいると考えています。『MAISON de SABRÉ』は、その旅に寄り添う存在なのです」
顧客体験から育つブランドの強さ
日本を含む各国でポップアップを展開し、直接ユーザーと向き合ってきたサブレ兄弟。ブランドの成長の背景には、顧客体験を起点とした明確な哲学がある。「お客様が初めて製品に触れたとき、驚きや喜び、新たな発見といった感情が一気に広がるのを何度も見てきました。それは私たちにとって何よりも報われる瞬間です」
この“驚きと喜び”は、ブランドの成長戦略とも密接に結びついている。彼らは既存のニーズを満たすだけでなく、「まだ自覚されていない欲望」を提示することで、新たな期待を生み出してきた。
「私たちは、お客様がまだ知らない“欲しいもの”を提示することに特化しています。そのサプライズ的なアプローチが、ブランドを予測不可能であり続けさせるのです」
未来について問われたとき、オマーの答えは驚くほど簡潔だった。
「私たちの進化は、揺るぎないクラフトへのこだわりによって導かれます。それが私たちのレガシーです」

鮮やかな色彩の奥に潜む緻密な構造、軽やかな遊び心の背後にある徹底した機能性。「MAISON de SABRÉ」の意義とは、相反する要素を調和させることで生まれる“新しい日常”の提案なのだろう。使い続けることで少しずつ自分の一部のように馴染んでいく。そんな時間の積み重ねまで含めて、このブランドはラグジュアリーを設計している。
それは、特別な日のためではなく、日々を更新していくためのラグジュアリーなのだ。
Text by ELIE INOUE















