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ショルダーバッグをヒップシートに──親子のお出かけをもっと自由にするHugooの開発思想
バッグとヒップシートの機能を一つにしたプロダクト「Hugoo(ハグー)」の「Hugoo Dual HipSeat(ハグー デュアル ヒップシート)」が、育児に励む親たちの間で静かな支持を広げている。しかし、このユニークな製品を生み出したのは、アパレルやバッグ製造の経験がまったくない異分野のチームだった。
株式会社GRIT代表の山本恭裕氏は、なぜ既存の育児用品に疑問を抱き、新たなプロダクト開発に乗り出したのか。この記事ではその開発背景と、「安全性」と「デザイン」の双方をかなえる設計思想を伺った。
PROFILE
山本 恭裕(やまもと やすひろ)
株式会社GRIT 代表取締役
広告会社での経験を経て、株式会社GRITを創業。ブランドやサービスの企画・制作を手がけるクリエイティブスタジオを運営し、プロダクト開発からブランディング、デザイン、マーケティングまで一貫して携わっている。代表ブランド「Hugoo」をはじめ、生活者に寄り添いながら、機能性とデザイン性を両立したプロダクト・サービスを展開。国内外で高い評価を受け、Good Design Award(日本)、iF Design Award(ドイツ)、Kids Design Award(日本)、MUSE Design Award(アメリカ)、London Design Award(イギリス)など、国内外のデザイン賞を受賞している。
「マザーズバッグ」への違和感から始まった、ユニセックスな育児用品への挑戦
2022年、山本さんは第1子の誕生を控え、育児用品を探すなかで大きな違和感を覚えていた。市場に並んでいたのは、女性的で可愛らしいデザインのものばかり。自身が父親として「持ちたい」と思えるものが、ほとんど見当たらなかったのだ。特に「マザーズバッグ」という名称は、「育児は女性が担うもの」という社会の凝り固まった概念を象徴しているように感じられたという。
「根っこのところに女性が持って当たり前という考え方がある気がしたので、それ自体から変えたいなという思いがありましたね」
そう語る山本さん。性別を問わず誰もが当たり前に使える育児用品を作りたい。その思いが、後のブランド「Hugoo(ハグー)」の原点となる。
転機は偶然訪れた。ある日、パパ仲間でもある前職の後輩が、アウトドアブランドのショルダーバッグに子どもをちょこんと乗せて歩いているのを目撃する。抱っこを補助するものとして腰につけるタイプのヒップシートは存在していたものの、彼はさっと子どもを乗せられるショルダーバッグを愛用していた。
「その光景を見て、『じゃあこういうのがあったらいいね』と。本当にふわっとした会話が開発のきっかけになりました」
この何気ない日常の一コマが、既存のヒップシートの常識を覆す、新たなプロダクト開発へとつながっていく。それは、ごついウエストポーチ型という概念からの脱却であり、「さっと便利に抱っこできる何か」を求める、親たちの切実なニーズへのアンサーだった。

安全性とデザインの交差点。アパレル未経験だからできた「常識破り」の設計
アイディアは生まれたが、製品化への道のりは平坦ではなかった。ショルダーバッグとヒップシートという異なる役割を一つに融合させる上で、最大の壁となったのが「安全性」と「デザイン性」の両立だった。子どもを乗せる以上、安全性は最優先。しかし、安全性を追求すればするほど、製品は無骨でごつい見た目になってしまう。スマートなデザインと、子どもの体重を支える頑丈さ。双方をいかにして共存させるか。そこが開発の肝となった。
「デザイン的な部分と機能的な部分、その交差点の真ん中に立てるようなプロダクトを作りたいと思っていました。機能だけでも、デザインだけでもない。それを両立するところが一番難しかったですね」

この難題に挑んだのは、山本さんを含め、アパレルやバッグの製造経験がまったくないチームだった。彼らのバックグラウンドは広告会社。だからこそ、業界の常識に縛られることはなかった。
「もし僕らがアパレルの会社だったら、そもそもショルダーバッグをヒップシートにしようとはまったく思わなかったでしょうね。専門知識がなかったことが、今思えばあえて良かったのかもしれません」
彼らは徹底して「使う側」の視点に立ち、試行錯誤を重ねた。納得のいくものができるまでサンプルを何度も作り直し、開発には約1〜2年を要した。荷重がかかる部分の縫製、バックルの強度、ベルトの太さ。ユーザーテストを繰り返しながら、デザインと安全性の最適なバランスを探り続けたのだ。



“作って終わり”にしない。ユーザーの声と建築思想が育むプロダクト
Hugooのものづくりは、一度製品を発売したら終わりではない。むしろ、そこからが本当のスタートだ。この思想は、Webサービスのようにリリース後も改善を続ける、彼らのバックグラウンドに根差している。プロダクトを成長させる最大の原動力は、ユーザーの声だ。山本さんは、ECサイトに寄せられる数千件ものレビューすべてに目を通し、さらに月10名ほどのユーザーに自らインタビューを行っている。そこから得られたフィードバックをもとに、肩パッドの形状改良や滑り止めの追加など、継続的なアップデートが繰り返されてきた。
安全性と耐久性を担保するため、素材にはコストがかかってもアウトドア製品で実績のある「コーデュラ®ナイロン」を採用。バッグの中身が見えやすいよう裏地を明るい色にしたり、抱っこしたままでも開閉しやすいようファスナーの引き手を長くしたりと、細部にまで使う人への配慮が光る。

「見た目ということではなく、使っていくうちに気分が上がるとか、お出かけのハードルが下がったとか。お客様の気持ちや行動に変化をもたらせるものこそが、良いデザインなのだと考えています」
その思いは、思わぬ広がりも見せている。当初想定していなかった祖父母世代が、孫を抱っこするために購入するケースが増えているのだ。第1子で使っていたものを数年後、第2子でも使うという声も多い。Hugooは、世代や性別を超えて長く使えるプロダクトとして、多くの家族に寄り添っている。
目指すは「育児の三種の神器」。Hugooが描く子育ての未来
山本さんは、ヒップシートが今後、子育てにおける必需品になると予測する。「ベビーカー、抱っこひもに次ぐ3つ目の選択肢として、ヒップシートが入ってくるような気がしています。この3つがあると、3歳、4歳くらいまでのお出かけは格段に楽になるんじゃないでしょうか」
歩き始めた子どもが「抱っこ」と「イヤイヤ」を繰り返す時期。ベビーカーでも従来の抱っこひもでも対応しきれない、そんな「間のニーズ」にヒップシートは機能的かつスタイリッシュに応える。荷物を入れるバッグはどのみち必要なのだから、それが抱っこをサポートする機能を持っていれば、親の負担は物理的にも心理的にも大きく軽減される。
Hugooが目指すのは、一過性のブームで終わる製品ではない。建築やインテリアから着想を得た「引き算のデザイン」を取り入れ、長く愛される普遍的なプロダクトを志向する。「育児は女性が担うもの」というかつての社会通念を解き放ち、子育てに関わるすべての人の暮らしをより豊かにするためのデザイン思考の実践だ。
ユーザーとの対話を重ね、異分野の知見をインストールしながら、プロダクトはこれからも社会と共に“成長”を続けていくだろう。











