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観戦にも街歩きにも! 陸上取材の不便から生まれた「9MONTHSジャケット」の工夫
陸上競技の取材現場では、寒暖差や突然の雨への対応に加え、カメラを構える際の動きやすさも求められる。そんな現場での不便を解消しようと、陸上競技メディア「EKIDEN NEWS」が京都のクロージングレーベルと共同開発したのが「9MONTHSジャケット」だ。
大容量のポケットや動きやすさを考慮した袖、気温に応じて調整できる設計など、取材現場の経験が随所に生かされている。スポーツ観戦から街歩きまで活用できる一着には、どのような工夫が施されているのか。EKIDEN NEWSを主宰する西本武司さんに話を聞いた。
理想のアウター探しから始まった共同開発
陸上競技の取材現場では、どのようなアウターを着ていたのでしょうか。
秋冬の現場は寒暖差が大きいので、軽くて動きやすいことが一番です。スポーツブランドのダウンなどを何着か持っていて、防寒だけでいえば十分でした。ただ、機能性だけでなく、デザインも含めて「これを着ていきたい」と思える一着がなく、数年前から理想のアウターを探していました。具体的に、どのようなものを探していたのですか?
スポーツブランドから国内ブランドまで、いろいろとチェックしました。スポーツブランドは機能性が高く、デザインもミニマルでいい。ただ、僕は冬山登山をするわけではないので、少しオーバースペックかなと。他のブランドも、デザインが真っ黒か派手かの両極端で、なかなかしっくりくるものがなかったんです。結局、ダウンは諦めて、ライダースジャケットを買い直そうとアメ横まで行ったのですが、昔と比べて驚くほど値上がりしていて(笑)。理想の一着は結局見つかりませんでした。
そんななか、今回の共同開発につながる京都のレーベルと出会ったのですね。
昨年の12月です。大阪での陸上競技会の帰りに京都へ立ち寄ったとき、ショーウィンドウに飾られた綺麗なブルーのコートに目が釘付けになりました。でも、入り口を見ても看板も店名もロゴも何もない。実際に店に入ってみて、どのような印象を受けましたか。
店主によると、商品にはブランドタグもサイズも値札も一切つけず、まず実際に着てもらうことを大切にしているそうです。僕も勧められるままにダウンを羽織ったら、とにかく軽い。「背中に重さがかかるように設計しているから軽く感じるし、シルエットも綺麗に見えるでしょう?」と。確かに、オーバーサイズなのに着ぶくれして見えないし、顔を包むようなフードの感覚も初めてでした。取材現場の課題が生んだ「EKIDEN NEWS別注」
その出会いが、今回の「9MONTHSジャケット」の開発につながっていくわけですね。
何度か店に通ううちに、僕が駅伝や陸上の取材をするなかで感じている服への課題を話すようになったんです。春先のマラソンではダウンは暑すぎるし、満員電車での移動中は邪魔にもなる。ヨーロッパ取材では、暑い日もあれば、雨が降って急に冷え込む日もある。ただでさえカメラやレンズで荷物が重いので、持ち歩く服はなるべく軽くしたい。雨風をしのげて、軽くて、持ち運びやすいものが欲しい。
そんな話をしていたら、店主がある日、「この前、西本さんが言っていたことをヒントにデザインを描いてみたんですけど、どうですかね?」とデザイン画を見せてくれたんです。
それが原型になったのですね。
最初に目に留まったダウンの特徴的なフードを生かした、ポンチョのようなジャケットでした。「うちのデザインを生かして、撥水性が高くて軽い機能素材のアウターを作る。防寒機能についてはインナーに任せれば、気温に合わせて調整できるし、オーバーサイズだから着ぶくれもしない」と。もう、ぜひ作ってほしいとお願いしました。
なぜ、ご自身のための一着だけでなく、「EKIDEN NEWSの別注」として多くの人に向けて作ろうと考えたのですか?
僕一人のためではなく、同じように週末にレースを応援する人たちにとっても、これは絶対に使い勝手の良いものになるという確信があったからです。だから、「なるべくコストを抑えて多くの知り合いが着られるものを」とお願いしました。ただ、そのためにはある程度の数をまとめて作る必要がありました。僕一人のためなら欲しい機能を好きなように盛り込めますが、今回はそうじゃない。多くの人に届けるための挑戦が始まりました。
「9MONTHSジャケット」の機能を解剖

このジャケットの大きな特徴であるフードについて教えてください。
デザイナーは「『ファイナルファンタジー』のラスボスを見て思いついた」と笑っていましたが(笑)、シルエットには特にこだわっています。襟ぐりを深く下げ、そこからフードを立ち上げることで、背中に垂れず綺麗な形を保てるようにしています。また、顎の下に空間が生まれるため、ファスナーを鼻先まで上げても窮屈になりにくいのが特徴です。中にパーカを着て、その上からジャケットのフードをかぶる「フードonフード」もできますし、大判のマフラーを巻いても首元がもたつきません。
ポケットの配置も印象的です。
ヨーロッパでスリを気にせず歩きたいという思いもあって、僕はいつも手ぶらで歩くようにしているんです。そこで左右のポケットは大きくしました。スマホもバッテリーも、財布も入りますし、500mlのペットボトルも入ります。

ほかにも、ポケット周りに工夫があるそうですね。
特にこだわったのが「貫通ポケット口」と「サイドファスナー」です。貫通ポケット口は、ジャケットの内側に直接手を入れられる仕組みで、中に着たパーカのポケットに入れたカイロや貴重品にアクセスできます。サイドファスナーは、閉めれば防寒に役立ち、開ければ衣服内の蒸れを逃がすベンチレーションとして機能します。また、パンツのポケットにも手を入れやすくなっています。
取材時の撮影などに動きやすい工夫もされているそうですね。
僕は写真を撮るので、立ち膝になることが多い。一方で雨にぬれた路面に座ることもある。だから前は短く、後ろは長くしました。前が短いとスタジアムの階段を上るときに足さばきがいいですし、後ろが長いのはベンチに座るときに都合が良さそうです。
あとはカメラを構えるとき、特に縦に構えようとすると普通のジャケットは肩や肘が突っ張るんです。肘の後ろ側にタックを入れることで、腕を曲げるための“余白”を持たせています。そのため、袖周りには十分なゆとりがあります。さらに、肩に縫い目のないラグラン袖を採用し、動きやすさにも配慮しました。雨水が肩にたまりにくく、肩幅を問わず着用しやすいのも特徴です。


雨が降っても、ということは撥水素材を使用しているのでしょうか。
ブリザテックの3レイヤーリサイクルナイロンタフタという、撥水性と内側の湿気を外へ逃がす透湿性を持つ高機能素材を使っています。多少の雨風であればしのげますし、衣服内の蒸れも逃がせるようになっています。ただ、コストカットのため止水テープも省いていますし、レインウエアではないので、しっかりと雨が降るような日は向いていません。多くの人に届けるための価格戦略
コストカットの話が出ましたが、税込み43,780円という価格にも驚きました。
まさにそこが一番の挑戦でした。デザイナーが従来品のように作れば、それなりの値段になってしまう。でも今回はEKIDEN NEWSのフォロワーにも着てほしかった。そこで、まずサイズをM・L・XLの3種類に絞りました。このジャケットは肩幅を定めない構造なので、3サイズでも幅広い体型をカバーできるんです。色も1色に絞り、同じ生地を大量に仕入れることでコストを下げました。確保した生地は1km。これで約300着分です。個人としてはとんでもない量ですが、アパレル業界ではごく小ロットなので、手間がかかる加工は見送り、既存のコートの型紙をベースにすることで、パタンナー費用も抑えました。こうした工夫を積み重ねて、この価格を実現できたんです。
ファストファッションと比べれば、もちろん高い。それでも、普通のスポーツブランドやアパレルの価格帯と比べて、少し割安と思ってもらえるところまで持っていけたのではないかと思っています。
約1ヶ月半のヨーロッパ取材で確かめた使い勝手
完成したサンプルを、実際に海外の長期取材で試されたそうですね。
約1ヶ月半、ヨーロッパ7都市をこの一着と回りました。肌寒い朝に羽織り、空港では畳んでバッグに入れ、雨が降れば傘もささずに街を歩く。かなりタフに使いましたが、結論から言うと欠点は何も見つかりませんでした。カメラ機材で荷物が重いなか、かさばらずに持ち運べる軽さは本当に助かりましたし、生地についた雨粒をバサッと払えば水滴が落ちる撥水性も実感できました。もちろん、一日中どしゃ降りといったときは本格的なレインウエアを使いますが、多少の雨風ならこれで十分です。

最後に、「9MONTHSジャケット」というユニークな名前の由来を教えてください。
サンプルを受け取ったとき、デザイナーに「これなら日本では、真夏の7月から9月以外の9ヶ月は出番がありそうですね」と話したんです。それがそのまま商品名になりました。デザイナーは常々、「春物、夏物と分けるのは売る側の都合。本来はお客さんの都合に合わせるべき」と話していました。そうした考え方も、この名前に込められています。Tシャツやスウェット、インナーダウンなど、中に着るものを自由に変えながら、長いシーズン着用できる一着です。
陸上競技の取材現場で感じた不便を、フードやポケット、袖の構造などに反映した「9MONTHSジャケット」。動きやすさや収納力、インナーとの組み合わせであらゆる気温に対応できる設計は、スポーツ観戦だけでなく、街歩きや日常の移動にも生かせるものだ。現場での経験をもとに、幅広いシーンでの使いやすさを追求した一着だ。
PROFILE
西本 武司(にしもと たけし)
EKIDEN NEWS主宰。
国内外を大会の取材で飛び回り、駅伝、マラソン、陸上競技の情報を発信するウェブメディアを運営。
Text by Junko Hayashida








