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心拍数でウエアを構成する:ゴールドウインが提示するパフォーマンスウエアの新たな考え方とは
これまで標高や気温といった外的要因を基準に設計されることも多かったトレイルランニングのパフォーマンスウエアにおいて、ゴールドウインは新たな指標を打ち出した。2026Spring/Summerシーズンで同社が提案したのが、心拍数を表す「BPM」を指標にしたアイテム、パフォーマンスラインだ。なぜ心拍数なのか、そしてそれをどのようにプロダクトへと落とし込んだのか。開発担当者の村井絢子さんに話を聞いた。
PROFILE
村井 絢子(むらい あやこ)
株式会社ゴールドウイン
ゴールドウイン事業本部 エキスパート
ランナーにとっては馴染みの深いBPMだが、一般には広く認知されているとは言いがたい指標である。BPMとは「Beat Per Minute」の略で、1分間あたりの心拍数を指し、運動強度が高いほど、BPMは大きくなる。
「2年前に私がパフォーマンス領域の開発を引き継ぐにあたって、社内での共通認識をどう形成するかを考えました。同じ標高の山であっても、さまざまな走り方や歩き方があり、その強度によって身体の状態はまったく異なります。どのレベルの運動を想定して設計するのか、その視点を揃える必要があると感じました」
BPMをウエアに落とし込んだ理由とは
そこで社内の開発チームにおける共通言語として設定されたのがBPMだった。それはやがて単なる内部指標にとどまらず、コレクションのコンセプトを公に示すものとなった。設定されたのは、130BPM、150BPM、170BPMの3タイプ。130BPMはある程度の速度で歩く「ファストハイク」を、150BPMはトレイルランを、そして170BPMはランニングや、トップアスリートレベルの高強度運動を想定している。
なかでも170BPMは、同社のイノベーションを牽引する最先端のラインとして位置付けられている。
「170BPMは最大心拍数の約80%〜90%にあたると言われています。インターバルトレーニングや全力のランニングのように、息が上がって会話ができないレベルまで追い込んだ状態です」
このような高強度トレーニングでは、大量に汗をかき、小さなディテールが快適性を左右する。そこで「Do more with less」という考え方をベースに企画を進めた。
「最小をもって最大を成すという意味ですが、単なる省略や効率化ではなく、構造そのものを変える発想だと捉えています。少ない材料や工程などによって、より大きな価値や機能を生み出すという点において、運動強度による人体の変化に基づいて設計されたウエアは、もっとも構成をミニマイズできる点が利点だと考えています」
運動強度を軸に再構築された設計思想
170BPMラインはアイテム数が絞られて構成されている。だが身体状態にフォーカスした設計によって、シーンを限定せず、運動強度に応じた多様なランニングシーンに対応する汎用性を獲得している。「トレイルランを想定していますが、170BPMという高強度で走る場合、ロードでもトラックでも必要とされる機能性や快適性は本質的に変わりません。外的環境ではなく身体を基準にしたことで、用途の広がりに対する解釈が生まれました。
たとえば標高3,000m対応のウエアと言われると、その環境に行かない人にとっては無関係に感じられるものです。一方で心拍数という指標であれば、誰もが自身の運動状態として想像できます。使用シーンを限定せず、ユーザー自身の応用力を引き出す基準になると思っています」
先端技術を盛り込んだ170BPMライン
『パーテックスシールドプロファストランジャケット』は、防水透湿素材を採用したジャケットとしては、ブランド最軽量の約140g(サイズ3)を実現した。トレイルランではバッグを背負うことが前提となるため、ポケットはあえて排除し、コンパクト性を優先している。

「またバッグの上から羽織れるように背面にはダーツをあしらい、バッグとの摩擦にも耐えられるよう背中部分の裏地には摩擦に対する補強のプリントを施しています」
用途別に最適化されたレイヤー設計
ミドルレイヤーの『ケルライトクルー』は特に高い評価を得ているアイテムだ。「ボディマッピングによる検証の結果、運動時にもっとも発汗量が多い部分が背中だということに着目しました。そこで背面にはポーラテック社のアルファダイレクト60を1枚仕立てで使用しています。起毛素材ですが編み地が大きく、保温性と通気性を両立した素材です」

一方で冷えやすい前身頃や肩、腕の外側には軽量の布帛との2枚構造を採用し、保温性を確保している。さらに脇部分は腕振りに干渉しないよう、布帛を1枚仕立てにした。
「2種類の高機能素材を部位に合わせて3パターンに使い分けることで、運動強度でも着続けられるバランスを目指しました」

また岩場や鎖場を登るシーンも想定し、腕を上げたときに裾がずり上がらず、腹部が露出しないよう設計されている点もありがたい。
「このウエアを発汗量が少ない130BPMで着用すると、シーンによっては十分な保温力を感じられないこともあると思います。ですが、170BPMになる運動強度で走り続けると、0℃近くまで気温が下がったとしても、汗をかくこともあります。その汗を効果的に抜きながら、温めたい部分には保温力を付加するような設計を考えました」

吸汗速乾性のある『ワーフドライティーシャツ』は、襟や袖口、裾といった従来縫製されていた部分を接着に置き換えることで、肌あたりのストレスを軽減した。
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「長時間のランニング時にはわずかな違和感が大きなストレスにつながります。接着加工はデザイナーからのアイデアだったのですが、襟の縫製を変えるだけでこれほど快適に走れるのかと、これまで気づかなかったストレスに気づくことができて、とても驚きました 」
アウトドアユーザーから根強い支持を集めるウールTシャツの機能性を高めたのが『ファストランハイブリッドウールティーシャツ』だ。

「吸水性と吸湿性は似て非なるものです。液体の水分を吸うのが吸水性、気体の水分を吸うのが吸湿性ですが、実は天然繊維の持つ吸湿性を、合成繊維で再現することはできません。これがウールが支持される理由のひとつです。ただしウールには乾きが遅いというデメリットがあり、170BPMのような大量に発汗する状態では不快感につながりやすいのです」
そこでこのTシャツには合成繊維をウールで包み込む特殊な糸を使用し、ウールの吸湿性と、合繊繊維の速乾性や耐久性を両立した。
「また熱がこもりやすい背面はメッシュ構造にして通気性を高めています。シンプルな見た目ですが、ウールのやわらかな手触りと、快適性を両立したアイテムになっています」
ダイナミックな足の動きを妨げないよう設計されたのが『ブリーザブルアクティブショーツ』だ。軽量性、通気性、撥水性のあるリップストップ生地を採用することで、生地の存在感を軽減している。

「さらに両サイドに深いスリットを入れ、立体設計にすることで、鼠蹊部の可動域を邪魔しない設計にしています」
これらのプロダクトは何度もフィールドテストを重ねたという。村井さん自身も超長距離ランナーであり、自らテストに参加している。
「サンプルが上がると週末に100km走って評価することもしました(笑)。1アイテムにつき最低でも200kmは走って検証を重ねています。当初は社内の指標でしたが、BPMという考え方をアイテム設計に取り入れたことで、開発メンバーからさまざまなアイディアが生まれ、プロダクトのアップグレードにつながったと思います。今後は170BPMで培ったイノベーションを、他のカテゴリーにも波及させていきたいと考えています 」
心拍数という身体の状態を起点にウエアを設計するという発想は、これまでの外的環境中心のウエア設計を更新するものだ。今後のウエア選びにおける新たな基準として、その存在感はさらに高まっていくだろう。
Text by Junko Hayashida


















