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従来品の2倍以上の通気性、それでも暖かい! 帝人フロンティアの新素材「Nuvolair(ヌヴォレア)」を支える独自技術

2026.09.10
これまで数々の革新的な素材を開発してきた帝人フロンティアが、この度、従来素材の2倍以上の通気性と、優れた保温性を両立した新素材「Nuvolair(ヌヴォレア)」を発表した。
同社には数々の軽量保温素材が存在するにもかかわらず、なぜあえて新たな発想での素材開発に挑んだのか。今回、開発を率いた帝人フロンティアの尾形暢亮さんに、その技術的背景と開発の軌跡を伺った。

PROFILE

尾形 暢亮(おがた のぶあき)

帝人フロンティア株式会社
技術・生産本部衣料テキスタイル・製品開発部長

「テクニカルすぎる」の声から始まった素材開発

従来のアウトドア市場向け軽量保温素材は、機能的にはすごく評価されている一方で、スポーツウエアと日常着の境界が曖昧になっている現代では、「テクニカル」すぎて日常着としては使いにくいという声があったという。
「市場からは機能性のアップデートだけでなく、見た目の新しさや風合いの柔らかさといった、より感性的な価値が求められるようになっています。さらに、最近の気候変動やライフスタイルの変化もまた、素材開発の方向性に大きな影響を与えています」
かつてアウトドアウエアは、インナー、ミドラー、アウターを重ね着するのが常識だった。しかし、トレイルランニングやライトなハイキングが普及し、軽さやコンパクトさが重視されるようになっている。
昨今のレイヤーはどんどん簡素化され、今やインナーとミドラーの役割を1枚でこなす「万能なベースレイヤー」が求められることになった。
暖かさはもちろん、汗をかいても蒸れずに快適で、肌触りも良い。こうした多機能性へのニーズに応えるため、新たな素材開発が始まった。それが「Nuvolair(ヌヴォレア)」である。
遠目ではわかりにくいが、「Nuvolair」は一般的な素材と違った表情を見せてくれる

通気性は倍以上。相反する機能を両立する「複合嵩高立毛構造」

「Nuvolair」の最大の特徴は、その独創的な「複合嵩高立毛構造」にある。保温性と通気性という、本来トレードオフの関係にある2つの機能をいかにして両立させるか。その答えが、この特殊な構造に隠されている。
「ベースとなる部分には低捲縮糸を用い、意図的に網目状のスカスカな構造にしています。これにより、従来の素材と比較して2倍以上という圧倒的な通気性を確保しました。暑すぎず、蒸れ感を徹底的に抑制することが狙いです」
尾形さんがそう説明するように、高い通気性は「Nuvolair」を設計する上での最優先事項だった。しかし、それだけでは保温性が犠牲になってしまう。そこで鍵となったのが、ベースの上に形成された立毛部分の技術だ。
「毛の部分には、長年培った糸加工技術を応用しています。ただ起毛させるのではなく、綿埃のような、ふわふわとした粒状の糸を乗せていくイメージです。この嵩高高捲縮加工糸が多くの空気層を保持するため、高い保温性を発揮します。同時に、肌に触れた瞬間に暖かさを感じる『ウォームタッチ』も実現できました」
粒状の糸が特徴的な「Nuvolair」
「Nuvolair」の表面を見ると、嵩高高捲縮加工糸と低捲縮糸が見事に組み合わさっているのがわかる
網目状のベースと、綿状の立毛構造。この異質な組み合わせが、通気性と保温性という相反する要求をクリアした。さらに、透け感のあるベースと、その上に浮かぶように存在する立毛部分は、これまでにないエアリーな外観を生み出し、デザイン面でも新たな可能性を提示している。

「切れない」を乗り越えた、日本独自の製造技術

革新的な構造を持つ「Nuvolair」だが、その製造は一筋縄ではいかなかった。特に開発チームを悩ませたのが、ダブルラッセル編地を2枚に切り分ける「半裁」という工程だ。均一な品質を保つための、まさに心臓部とも言えるプロセスである。
生地を半裁するには、非常に繊細な切断技術が求められる
「Nuvolair』の立毛部分に使う糸は非常に柔らかくて嵩高で伸びやすく、切るのは困難です」
切断が難しく、均一な厚みに仕上がらないので、2枚の生地はまったく別物になってしまう。安定した品質を実現するため、切断条件や生地設計の工夫など、地道な試行錯誤が繰り返された。
この繊細な工程は、機械の性能だけでなく、人の手に頼る部分もある。まさに職人技の世界と言っていいだろう。
「この独自技術は、日本の工場ならではなので、海外の工場では再現が難しいと思います」
尾形さんがそう語るように、この製造の難しさこそが「Nuvolair」の価値を支える参入障壁となっている。同氏は、AIで簡単に再現できないものづくりこそ、日本のサプライヤーが生きる道のひとつだと考えているのだ。

着心地から環境まで、「Nuvolair」がもたらす多角的な価値

「Nuvolair」の構造がもたらすメリットは、保温性と通気性の両立だけではない。汗処理や耐久性も有している。ベースの編目構造と、立毛部分が肌と点接触することで毛細管現象が促進され、吸い上げた汗を素早く拡散する。肌離れが良く、べたつきの抑制につながる。
また、従来のフリース素材が抱えていた課題にも正面から向き合った。「Nuvolair」は起毛加工ではなく、糸の構造自体で嵩高性を実現しているため、洗濯を繰り返しても毛玉(ピリング)が発生しにくい。
「フリースはピリングが起こると見た目が悪くなるだけでなく、ふわふわ感が失われて保温性も低下します。一方『Nuvolair』は、構造上洗濯しても購入当初の保温性をキープできる。これは、ウエアを長く大切に着ていただく上で非常に重要なポイントです」
「Nuvolair」は肌への点接触と毛細管現象によって汗を素早く吸収および拡散し、べたつきを抑える
この「起毛しない設計」は、近年問題視されているマイクロプラスチック問題にも貢献する。繊維の脱落が極めて少ないため、洗濯時の環境負荷を低減できるのだ。機能性や快適性の追求は、開発当初から意識されていたサステナビリティという現代的な価値にも結びついている。

アウトドアから日常へ。市場を広げる次世代素材の展望

保温性と通気性を両立し、トレランのようなアクティブシーンにも活用できる
すでに海外ブランドでの採用も決まり、本格的な市場投入が始まった「Nuvolair」。帝人フロンティアは2029年度に25万mという意欲的な販売目標を掲げている。その達成に向け、同社は新たな市場の開拓を狙う。
「これまで我々が強みとしてきたアウトドア市場に加え、今後はランニングなどのアスレチック分野や、ファッションカジュアル市場での展開を強化していきます。オクタではアプローチしきれなかったお客様に、『Nuvolair』の新しい価値を届けていきたいと考えています」
特に、透け感を生かしたアスレジャースタイルなど、ファッション性の高いランニングウエアでの需要に期待を寄せる。一方で、目標達成には課題もある。職人技が求められる半裁工程の生産キャパシティ向上がそのひとつだ。
「生地単体での差別化だけでなく、今後はこの生地の特性を最大限に生かす縫製技術なども含め、『製品』として他にないものを作っていくアプローチがより重要になると考えています」
単なる素材メーカーにとどまらず、最終製品の価値までを見据える。「Nuvolair」の開発で得た知見を武器に、帝人フロンティアの挑戦は次のステージへと向かっている。

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