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【日本未上陸】ウクライナ・キーウ発「Bagllet」が、戦火でもバッグを作り続ける理由
航空管制の訓練を受けたイェヴゲン・ベルノス(Ievgen Bernos)と、エンジニアリング技術を背景に持つティモフィー・ホロスニアク(Tymofii Holosniak)。異なる専門性を持つ2人が、ウクライナ・キーウを拠点に立ち上げたバッグブランド「Bagllet(バグレット)」は、製作と販売を分断しない独自の体制のもとでプロダクトを生み出してきた。
2人にとって製作とは、「変化し続ける環境のなかで判断を重ね、かたちへと落とし込んでいく行為」だという。今回は彼らの言葉を手がかりに、ブランド誕生の経緯から、拠点であるキーウとの関係、そして長期使用を前提としたプロダクト設計の考え方まで、その実践と思考をたどっていく。
異なる専門性の交差から生まれた「Bagllet」
革は、完成を拒む素材である。製品として生まれた瞬間ではなく、使われ、触れられ、摩耗し、変化していく時間のなかでこそ、その本質をあらわにするからだ。キーウを拠点とする「Bagllet」のものづくりは、この時間観を前提に成立している。ブランド名は「Bag(バッグ)」と「Wallet(ウォレット)」の語尾を組み合わせた造語だ。
2013年の設立当初、ブランドの原点となったのは「B105」といったミニマルなバックパックやレザーウォレットの製作だった。そこから徐々に、現代の女性に向けたハンドバッグへとその領域を広げていった歩みが、その名には刻まれている。

「私たちにとって大切なのは、トレンドから独立したフォルムやプロポーション、色彩と向き合うことです」
彼らが語る「タイムレスな美しさ」とは、単なる過去への回帰ではない。流行という短い周期から距離を置き、時間そのものに耐えうる「かたち」だけを残そうとする意思の表れだ。過剰さを削ぎ、正直な素材を選び、抑制された色彩にとどめる。その判断は、表現を減らす行為ではなく、込めた意味を濃縮するための選別である。

現在、イェウゲンはデザインから生産、ビジュアルディレクションまでを担い、ティモフィーは販売と顧客との関係構築を担当している。この分業は、彼らの思想を実装するための構造だ。航空管制官としての訓練を受けたイェウゲンは、プロセスの正確さと規律を重んじる。
「革や素材を扱う基礎は、祖父から受け継ぎました。そこから、クラフトマンシップへの敬意、そして一貫した高品質な仕事が持つ価値を学んだのです」
一方、エンジニアリングを背景に持つティモフィーは、プロダクトが「どのように届き、使われるか」を冷徹に見極める。
「エンドユーザーと直接向き合い、商業的な側面を理解することの重要性を学びました。生産・デザイン・販売を分断しないシステムこそが、私たちの出発点です」
戦火のキーウで更新されるデザイン
ブランドの始動から約10年。拠点であるキーウは激動の渦中にあった。それでも2人はこの街にとどまり、ブランドのアイデンティティとして、都市のリズムをデザインの中核に据え続けている。彼らはキーウを「多層的な文化と抑制された美意識を備えた都市」と捉える。そのなかで「Bagllet」が届けるのは、決して色あせない“エレガンスのシンプルさ”だ。自分自身や周囲の世界に意識的であり、モノの品質と信頼性を大切にする女性のために、本革のベーシックなアクセサリーを提案している。
その代表格が、ベストセラーである「BG101」だ。ブランドを象徴する曲線美が際立つハーフムーン型は、動きの速い都市生活においても身体に優しくフィットし、装いにエレガントなアクセントを添える。

また、無駄を削ぎ落としたスクエアフォルムのクロスボディバッグ「BG127」は、どのような服装にも馴染み、かつ必要なものをスマートに持ち運べる。

「キーウは動きが速く、密度の高い都市です。公共交通機関でも車でも成立する身体へのフィット感や重量バランスは、都市の日常のリズムに対する直接的な応答として磨かれてきました」
さらに、2022年の全面侵攻以降、彼らは「どのような条件で製作が可能なのか」という極限の問いに直面することになった。
「ウクライナ全土は常に脅威の下にあります。この現実は、レジリエンス(回復力)や不確実な状況下でも機能し続ける能力を強化することにつながりました。私たちの生産現場は、現在エネルギー自立型です。それは戦略というより、頻発する停電や暖房停止という現実への必然的な対応なのです」
都市の速度と戦時の過酷な条件。それらが「Bagllet」の要素を最小限に絞り込むという、現実的かつ強靭なデザインを形づくっている。

“時間に委ねる”ことを前提にしたバッグのあり方
この「抑制」の思想は、そのまま品質に対する執着へとつながる。彼らにとっての「デザイン」とは、スケッチから最終的な仕上げに至るまでの全工程を指す、もっとも重要な価値だ。「私たちは最高の素材、耐久性のある金具、丈夫で撥水性のあるレザーを選ぶだけではありません。それらの素材が、私たちの縫製技術と完全に整合しているかを一針ごとに確認しています。このアプローチにより、製品は長年にわたって購入時の美しさを保ち、持ち主をがっかりさせることがありません」
裏地や補強材に至るまで、目に見えるものと見えないものの間に優劣をつけない。すべては時間のなかで使われ続けることを前提に、一つの統合されたシステムとして設計されている。
「私たちのバッグは、新品の状態で完結しません。革が柔らかくなること、パティーナ(経年変化)、かたちのわずかな変化は欠点ではなく、使用の記憶なのです」

バッグは人を定義するための記号ではなく、その人のリズムに静かに寄り添う土台であるべきだ。デザインの魅力は一時的なトレンドとともに消えることはなく、さらに製品の強度がその耐久性を保証する。
時間は、モノの真価を試す。「Bagllet」はその試練を恐れず、変化することを前提にかたちを差し出している。完成を急がず、意味を固定せず、時間に委ねる。その誠実な態度こそが、彼らの考える「タイムレス」の正体なのだ。
PROFILE

イェウゲン・ベルノス(Ievgen Bernos)
Bagllet共同設立者
PROFILE

ティモフィー・ホロスニアク(Tymofii Holosniak)
Bagllet共同設立者
Text by ELIE INOUE











