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和牛を革ジャンに! タンジェネットが生み出す レザージャケットの奥深い味わいとは?

2025.11.05
人と革のつき合いは200万年前の旧石器時代にまでさかのぼる。獲物の肉を食べた後に残った皮を鞣し、衣服や道具として使う。そんな古代から続くアップサイクルの精神に、日本のデザイナーズブランド、tangenet(タンジェネット)は注目した。食肉の副産物である和牛の原皮から作られた革を使って、レザージャケットを仕立てたのだ。
上質にしてサステナブル──。その名もWagyu Leather(和牛レザー)が使われたジャケットは、日常にどんな心地よさや高揚感をもたらすのか? デザイナーの吉屋 充さんに聞いた。

PROFILE

吉屋 充(よしや みつる)

tangenet デザイナー

2003年にオンワード樫山に入社。メンズブランドのデザイナーとして活動後、2021年に独立し、タンジェネットをスタート。ほかにも、日本のものづくりの魅力を発信するために多彩なデザイン活動を行う。

食卓から生まれたアイディア。和牛の原皮を衣料用レザーへ

「私は肉が好きで、その中でも特に和牛が大好物でして、週に1回はサシのたっぷり入ったステーキを食べています。ある時、こんな美味しい牛の革を服にできたら、と考えたのが始まりでした」
今回紹介するWagyu Leatherのジャケットは、そんな食卓でのひらめきから生まれたという。使用されている和牛レザーは、鹿児島県産黒毛和牛の原皮を兵庫県たつの市のタンナーが丁寧に仕上げたものだ。
この素材づくりを支えたのが、革づくりの町として知られる同市に拠点を置く老舗タンナーだ。
「TRACKER/Leather Jacket」 176,000円(税込)

開発のキーマンとなったのは、‟革の町‟の名門タンナー

全国の革生産の約7割を担う革産業の町・たつの市にあるごとう製革所は、塗料や顔料によるコーティングを施さない素上げ革を得意とするタンナーだ。
和牛の素上げ革はプロ野球選手用のグローブに使われている。海外産よりも繊維質が細かく密で、摩擦に強く、型崩れもしにくいため、メジャーリーガーのグラブメーカーにも採用されているという。
「表面がしっとりとして柔らかく、肌へのなじみがいい。それでいてしっかりとした反発力が残っていました。しかし、衣料品に転用するにはその厚みと硬さが問題でした」
写真左:1966年に創業したごとう製革所は、革本来の風合いや香りを生かした素上げ革の名手として知られる。写真右:工場内にはタイコと呼ばれるドラムマシンがずらりと並ぶ。革の染色もこのマシンで行う

使用するレザーの厚みはたった1mm。グローブレザーの限界へ挑戦

「牛革は硬く重量があるため、約1mmの薄さを目指しました。そのために、レザーの裏面を機械で少しずつ削り、厚みを均一に整える工程を繰り返し、さらに『タイコ』と呼ばれるドラムマシンでオイルを加えながら長時間回転させ、革の内部から繊維をほぐしていきます。
仕上げには『バッタ』と呼ばれる工程を加え、革を大型のクリップで固定し、激しく振動させてコシを抜きます。こうして厚さ1mmの、しなやかなWagyu Leatherを完成させました」
牛革の持つ重量の問題も、薄く仕上げることで和らげられている

Wagyu Leatherを使った新定番レザージャケット

「TARCKER(トラッカー)は、いかにこの革の魅力を引き出すか、を考えてデザインした一着です」
2022年秋冬にリリースされた「JOHNNY(ジョニー)」に続く第2弾のレザージャケットは、アメリカ軍のフライトジャケットを思わせるクラシカルな空気をまといつつ、現代的なスポーツジャケットとしてアップデートされている。
「襟はA-2を意識した大ぶりのシャツ襟にしています。ポケットはフラップポケットからジップポケットに、袖もリブニットからシャツ風のデザインに変更しました」
フロントはダブルジップを採用した。下部を開けることでスタイルにニュアンスをつけることができる。また、ハンドウォーマーにもジップをあしらい、デザイン的なアクセントに加え、中に収めた物の落下を防ぐ役割も果たしてくれる。
ベストセラーの「CHAMP T-SHIRTS(チャンプ Tシャツ)」と同様、ゆったりとしたシルエットがタンジェネットのスタイルだ
レザージャケットはタイトなフィットが主流だが、このモデルでは身幅、アームホールにゆとりを設けつつ、肩もドロップさせることで、現代的なシルエットを実現した。
ゆったりとしたシルエットによって、Wagyu Leather特有のしなやかなドレープ感も引き立てられる。
「ジャケットのような立体的なパターンを使っているので、腕も動かしやすくなっています。また、裏地には高級スーツなどに使われるキュプラ生地を採用しているので、袖通りもとても滑らかです」
アームホールは大きく、かつアーム幅もたっぷりととられている
縫製はタンナーと同じたつの市にある有限会社リヴェールが担当している。半世紀以上の歴史を持ち、多数の熟練職人を擁するファクトリーは、レザーウエアの縫製において定評があるのだ。
「和牛の革は強靭で、針が通りにくい。さらに革は一度穴が開くと修正もできず繊細な作業を要します。革専用の設備と技術を持つ工場だからこそ、たしかな仕上がりが可能になります」
有限会社リヴェールは国内外のさまざまなアパレルメーカーの仕事を請け負う実力派
通常のレザー製品では、バットと呼ばれる大きな一枚革から、キズの少ない部分だけを選んで使用するのが一般的だ。しかしWagyu Leatherの場合、250×160cmほどのバットから取れるのは、わずか1〜2着分だけだという……。
限られた革を無駄にしたくないという考えから、あえて選別を行わず、キズも魅力の一部と捉えている。キズのある箇所は、見返しなど目立ちにくい部分に巧みに配置されている。
革本来の自然なシボは、“すっぴんレザー”とも呼ばれる素上げ革ならでは
レザーづくりに深いこだわりを注ぎ、最高級のジャケットを完成させた吉屋さん。彼は長年追い求めてきた理想の革についてこう語る。
「革選びでもっとも重視するのは、柔らかさとコシのバランスです。そういった革なら、仕立てたときに見栄えが良く、着心地も快適になります。たとえるなら、柔らかさの中に芯の強さが残ったアルデンテのパスタのようなイメージです。Wagyu Leatherは、まさに私が探し求めてきた理想のレザーです」
袖を通した瞬間から体になじみ、時間とともに味わいを深めていく──。タンジェネットのWagyu Leatherは、まるで“食べるように味わう”レザーだ。

Text by Ryota Osujo

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