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アイナ・ジ・エンドやアオイヤマダの衣装を手掛けるコスチュームアーティスト・ひびのこづえが考える「本当の服」

2025.01.20
コスチュームアーティストとして、長年にわたり数々の作品を生み出してきたひびのこづえさん。彼女は2018年に開催した、当時の自身の年齢をタイトルに冠した展覧会「60」で、「60代直前で、やりたいことを見つけた。それは人に本当の服を着せる事だった」と記している。
ひびのさんの考える「本当の服」とは何なのだろうか。今もなおコスチューム業界の第一線で活躍し続けているひびのさんのこれまでの道のりや、コスチュームに対する考え方からその答えを探った。

PROFILE

ひびの こづえ

静岡県生まれ 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
コスチューム・アーティストとして広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなどその発表の場は、多岐にわたる。毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞、紀伊國屋演劇賞個人賞受賞ほか展覧会多数。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のセット衣装を担当中。歌舞伎「野田版 研ぎ辰の討たれ」、「野田版 桜の森の満開の下」 現代劇の野田秀樹作・演出の「兎、波を走る」、「フェイクスピア」、「正三角関係」 森山開次ダンス「サーカス」新国立劇場、「不思議の国のアリス」、「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙-」KAATなど衣装担当。ダンスパフォーマンス「WONDER WATER」、「FLY、FLY、FLY」、「Rinne」、「Piece to Peace」「MAMMOTH」、「RYU」、「ROOT:根」、「UP AND DOWN」「二人のアリス」「アリとキリギリスと」を企画展開中。2018年個展「60(rokujuu)」市原湖畔美術館、2019年個展「ダンス・ザ・イフク/太ンス宰府ク」太宰府天満宮文書館・九州国立博物館、2021年個展「森に棲む服」そごう美術館、2022年個展「不思議の森に棲む服 ひびのこづえ×熊本展 Wonder Forest Closet」熊本市現代美術館にて開催。
奥能登国際芸術祭、大地の芸術祭、瀬戸内国際芸術祭に参加。
能登地震・珠洲応援ダンスプロジェクト発足活動中。
オフィシャルサイト

「大きな服」と「小さな服」

はじめに、ファッションに関わる仕事をしようと考えたきっかけを教えてください。
もともとは東京藝術大学のデザイン科出身だったこともあり、ファッション関連の仕事をしようとは考えていませんでした。
でも大学を卒業して間もない頃に、展示作品としてシャツを作ってみたところ、友人たちがそれを着て撮影をしようとなって。自分の中からだけで作ったものには限界があると感じていたのですが、服は人が着ることでさらに発展するということに気づきました。そこからいろいろな人に声をかけていただき、服らしきものを作るようになっていきました。
ファッションの中でもコスチュームの仕事をされるようになったのには、何か理由があるのでしょうか?
コスチュームという道を選んだ、というよりは、私が作るものは最初からコスチュームだったという表現の方が正しいかもしれません。大学ではグラフィックデザインを学んでいたので、ファッションの勉強は一度もしたことがなく、パターンも自分で引けないし、服に対する理論も知りませんでした。
だから服を作っている、というよりも、自分の表現を人に着せている、といった感覚に近いです。
これまでの活動の中で、転機となった仕事があれば教えてください。
NHK Eテレの「にほんごであそぼ」での仕事ですね。20年以上前に依頼をいただいてから今も続いているのですが、コスチュームだけでなく、スタジオセットも含めた仕事で、演出的な側面を考えながら空間を作る、というアプローチができました。
それまでは衣装で自分を主張しないといけないと考え、衣装を作ることに一生懸命になりすぎていました。でも「にほんごであそぼ」の仕事を通じて、服というものには空間自体も含めた「大きな服」が存在していて、私が今まで作ってきたのは「小さな服」だったんだな、と思うようになりました。
NHK Eテレ「にほんごであそぼ」

コスチュームは「人」にもっとも近い存在

コスチュームは演劇やダンスパフォーマンスなどの作品において、どのような役割を担っていると思われますか?
私が目指しているところでもありますが、言葉ではなくビジュアルで物事を表現し、作品の世界を広げることではないでしょうか。
たとえば舞台で特定の役があるとして、その役をセリフだけでお客さんが理解するのはすごく難しいです。「にほんごであそぼ」でも、詩人の方の作品を単に朗読しただけでは分かりづらいと思います。
でも、演者の方がコスチュームを着ていれば、その人が何者であるのかの説明が視覚的にできるだけでなく、発せられた言葉や動きを増幅することもできます。
演劇やダンスパフォーマンスなどの総合芸術を作る上で中心となるのは「人」ですが、その「人」にもっとも近いところに存在しているコスチュームも、重要な役割を担っていると思います。
NHK Eテレ「にほんごであそぼ」
コスチュームと、人々が普段着るような衣服にはどのような違いがあると思いますか?
普段着はコスチュームほど明確なテーマや役割があるわけではないものの、日常の中にもドラマはいっぱいあるので、根本的な役割は一緒だと思っています。舞台上でも必要に応じて日常の服を使う、といったケースもあります。
あえて違いを挙げるとすると、コスチュームは1着ずつ作るのに対して、普段着は量産ができるといった側面があると思います。量産だからこそできる加工や機能を持った生地は、私ひとりではなかなか作ることができません。
時間をかければ手作業である程度できることもありますが、場合によっては1ヶ月で100着近く作るなど、ひとつの作品に長い時間をかけるのが難しいケースも多々あるので、普段着に対して羨ましいな、と思うこともありますね。

人との関わりから生まれる面白さ

2018年に開催した展覧会「60」内では、ご自身のやりたいこととして「人に本当の服を着せる事」といった文章を書かれていましたが、ひびのさんの考える「本当の服」とはどういったものなのでしょうか?
20代の頃から服を作り続け、人と関わってきたなかで60歳を迎えて思ったのは、私は服を作りたいわけではない、ということでした。
そもそも子どもの頃は、人とコミュニケーションを取ることがあまり好きではありませんでした。日常で人と話すのも大変なのに、人に服を着せるこの仕事には必ずコミュニケーションが付いてまわります。そのなかで、演者さんたちと話したり、時には「気に入らない」と言われたりすることがとても辛い時期もありました。
でも、仕事を続けていくうちに、だんだんとコミュニケーションが心地よくなっていって。会話によって新しい発見が生まれたり、お互いに感動を味わえたりすることに繋がっているな、と60歳のときに気づきました。
今もその考えは変わっておらず、私の仕事は服を作ることというよりは、人を探している感覚に近いです。
FLY,FLY,FLY 島地保武×ひびのこづえ×川瀬浩介 Photo by 出口智之
そのような気づきを得たきっかけは何かあったのでしょうか?
石川県の珠洲で開かれている奥能登国際芸術祭が契機になったように思います。2017年からスタートした仕事で、自分でゼロからやってみたいことを企画する、という機会をいただきました。
それ以降、依頼を受けて作品を作る仕事以外にも、服から発想してパフォーマンスを組み立てていく、といった活動を本格的に始めました。
より多くの人と関わるなかで、コミュニケーションから生まれるものの大切さを感じ取っていったんだと思います。
WONDER WATER ×ホワイトアスパラガス×ひびのこづえ×川瀬浩介 Photo by 出口敏行
今後、作ってみたい服があれば教えてください。
先ほども話したように、服というよりは一緒に作品を作っていきたいと思える人を探しています。直近では、2024年の「二人のアリス」という作品に出演していただいた、アオイヤマダさんとアイナ・ジ・エンドさんがそう感じた方々でした。
作品名でもある「二人のアリス」というテーマをもとに、アオイさんに衣装のデザイン画を見せて、「もう1人誰かと一緒に踊ってほしい」と伝えたところ、アオイさんが提案してくれたのがアイナさんでした。
当初は元アイドルでもあるアイナさんがパフォーマンスをしてくれるのか、という驚きや、直接お会いしたことがなかったことによる不安もあったのですが、稽古をしていくうちに、ダンスや音楽で、私が想像していたものとは異なるアプローチをとってくれて。
単なるダンスや歌ではなく、2人が今この時代、この年齢で考えている「アリス」を紡ぎ出してくれたんだな、と感じました。
東京芸術劇場TACTフェスティバル
「二人のアリス」は今後もまた、別のところで上演したいなと思っています。一回作ったものでも、時間を経ることで彼女たちのもっている瑞々しい感性のもと、新しい要素が加わった作品として披露できるはずです。
お二人のように、私が作った服や仕掛けに対して、想像している以上の面白い反応を返してくれて、どんなところでも一緒に踊ってくれる人に今後も出会えるといいな、と思っています。

ひびのさんは、服そのものではなく、人が服を着ることによって生まれる空気感や世界観をデザインしている。そのスタイルの根幹は活動初期から今に至るまで変わっていない。今も新しいことに挑戦し続けているひびのさんが作る「本当の服」がどのようになっていくのか、今後も目が離せない。

ヘッダーキャプション:東京芸術劇場TACTフェスティバル

Text by 石塚 振

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