株式会社あかしや 伝統工芸士
奈良筆の歴史を辿ると、その起源は飛鳥時代にまでさかのぼる。701年の大宝律令には「中務省」に筆職人と墨職人が配置されたという記録が残っており、これが日本における筆づくりの最初の記録とされている。当時の都であった奈良は、政治と学問の中心地であり、書記文化が芽生える土壌となった。
奈良は、熊野・川尻・豊橋と並び、現在も国から「四大筆産地」として認定されている。その中でも奈良は、日本における筆の発祥地として特別な位置を占めている。奈良筆の伝統は単なる工芸品の枠を超え、日本の書文化の根幹を支える存在として脈々と受け継がれてきた。
奈良に残る古い町並みや社寺を歩くと、筆の歴史と切っても切れない関係にあることを実感する。正倉院に収められた筆や書物は、当時の人々がいかに学問と美を尊んでいたかを今に伝えている。筆は文字を記す道具であると同時に、知識や思想を未来へと残すための象徴でもあったのだ。