書の起点は奈良にあり:伝統工芸士が語る“毛先”の哲学
2025.10.07
書の起点は奈良にあり:伝統工芸士が語る“毛先”の哲学
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奈良筆は、日本最古の筆として1000年以上の歴史を誇る工芸品だ。701年の大宝律令にもその存在が記録され、書の文化とともに発展してきた。今回は株式会社あかしやで、奈良筆の職人であり伝統工芸士でもある松谷さんに話を伺った。
ショールームを訪ねると、動物の毛を選り分ける繊細な作業や、正倉院に伝わる筆の再現品など、筆づくりの深遠な世界が広がっていた。筆を「6本目の指」と語る松谷さんの言葉から、奈良筆の真髄に迫る。
PROFILE|プロフィール
松谷 文夫(まつたに ふみお)

株式会社あかしや 伝統工芸士

奈良筆の起源 —— 日本の書文化の出発点

奈良筆の歴史を辿ると、その起源は飛鳥時代にまでさかのぼる。701年の大宝律令には「中務省」に筆職人と墨職人が配置されたという記録が残っており、これが日本における筆づくりの最初の記録とされている。当時の都であった奈良は、政治と学問の中心地であり、書記文化が芽生える土壌となった。

奈良は、熊野・川尻・豊橋と並び、現在も国から「四大筆産地」として認定されている。その中でも奈良は、日本における筆の発祥地として特別な位置を占めている。奈良筆の伝統は単なる工芸品の枠を超え、日本の書文化の根幹を支える存在として脈々と受け継がれてきた。

奈良に残る古い町並みや社寺を歩くと、筆の歴史と切っても切れない関係にあることを実感する。正倉院に収められた筆や書物は、当時の人々がいかに学問と美を尊んでいたかを今に伝えている。筆は文字を記す道具であると同時に、知識や思想を未来へと残すための象徴でもあったのだ。