黒鉄に金銀が息づく——肥後象嵌を“当たり前”として継ぐ、光助の挑戦
2025.11.10
黒鉄に金銀が息づく——肥後象嵌を“当たり前”として継ぐ、光助の挑戦
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熊本に伝わる肥後象嵌は、黒地に金銀が浮かび上がる独特の美を持つ伝統工芸だ。代々続く工房「光助」を継ぎ、現在は肥後象がん振興会会長も務める大住裕司さん。伝統を「当たり前に継ぐ」と語る大住さんは、伝統を守るだけでなく、眼鏡フレームなど新たな領域へ象嵌の可能性を広げ、工芸を次世代へとつなごうとしている。
PROFILE|プロフィール
大住 裕司(おおすみ ゆうじ)

光助4代目
肥後象がん振興会会長

受け継いだ技と「当たり前」の感覚

黒く焼き締めた鉄に、細やかに刻まれた溝を作り、そこに金や銀の線を打ち込んでいく——肥後象嵌の制作は、一見すれば途方もなく繊細で緊張感のある作業だ。だが大住さんにとって、それは幼い頃から日常にある風景だった。

父や祖父が工房で黙々と作業をする姿を見て育った大住さんにとって、家業を継ぐことは特別な決断ではなかった。

「自分がやるのは自然なこと。代々続けてきたものを“当たり前”に受け継ぐ、ただそれだけです」と語る。

工房には、削り出した鉄粉のにおいや、タガネを打つ硬質な音が絶えず響いている。弟子や家族が出入りし、それぞれの作業に集中する姿は、静かだが力強いリズムを生み出す。大住さんにとってそれは日常であり、同時に背筋が伸びる時間でもある。

現在は工房「光助」を率いる立場にありつつ、肥後象がん振興会会長として産地全体を見渡す責任も担う。自らの作品を作るだけでなく、後継者の育成や産地振興の舵取りも、大住さんの日常の一部になっている。