光助4代目
肥後象がん振興会会長
黒く焼き締めた鉄に、細やかに刻まれた溝を作り、そこに金や銀の線を打ち込んでいく——肥後象嵌の 制作は、一見すれば途方もなく繊細で緊張感のある作業だ。だが大住さんにとって、それは幼い頃から日常にある風景だった。
父や祖父が工房で黙々と作業をする姿を見て育った大住さんにとって、家業を継ぐことは特別な決断ではなかった。
「自分がやるのは自然なこと。代々続けてきたものを“当たり前”に受け継ぐ、ただそれだけです」と語る。
工房には、削り出した鉄粉のにおいや、タガネを打つ硬質な音が絶えず響いている。弟子や家族が出入りし、それぞれの作業に集中する姿は、静かだが力強いリズムを生み出す。大住さんにとってそれは日常であり、同時に背筋が伸びる時間でもある。
現在は工房「光助」を率いる立場にありつつ、肥後象がん振興会会長として産地全体を見渡す責任も担う。自らの作品を作るだけでなく、後継者の育成や産地振興の舵取りも、大住さんの日常の一部になっている。