なぜ「紙の紐」がアートになるのか? 水引の強さとしなやかさの秘密
会員限定記事2025.11.04
なぜ「紙の紐」がアートになるのか? 水引の強さとしなやかさの秘密
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私は仕事柄、さまざまな布や糸に触れます。デザイナーとして、素材が持つ質感、強度、色彩、そして歴史が、最終的なプロダクトの印象をいかに大きく左右するかを日々実感しています。だからこそ、伝統工芸品に出会うと、その美しい造形を支える「素材」そのものに強い興味を引かれます。
今回、水引という工芸品を深く知るなかで私の心を捉えたのは、その根幹を成す「和紙」という素材の持つ、驚くべき可能性と、それが直面する未来への課題でした。一本の紙の紐が、なぜあれほどまでに多彩で力強い表現を生み出すことができるのか。その秘密は、素材と向き合い続けてきた作り手の知恵と哲学の中に隠されているように感じます。この素材が持つ奥深さと、私たちがこれからどう向き合うべきか、考えていきたいと思います。

凛とした強さの秘密。すべては一本の「和紙のこより」から

水引の造形を初めて目にしたとき、多くの人がその繊細な曲線と、同時に存在する凛とした張りに驚くかもしれません。細い紐でありながら、まるで意思があるかのように自立し、空間に美しい線を描きます。この独特の性質の源泉は、水引の基本的な構造にあります。

水引の芯となっているのは、和紙を細長く裁断し、強く縒り(より)をかけて作られた「こより」です。特に、繊維が長く強靭な楮(こうぞ)を原料とした和紙が用いられることが多く、これが素材としての強さの基盤となります。この和紙のこよりがあるからこそ、水引は他の紐にはない強度と張りを持つことができるのです。単なる紙テープではなく、縒りをかけるという工程を経ることで、素材は驚くほどの引張強度と弾力性を備えた、まったく新しい性質のものへと変化します。

そして、この和紙のこよりを芯として、その周りに染めを施したり、色鮮やかなテトロンフィルムやレーヨン糸、ポリエステルフィルムなどを螺旋状に巻きつけたりすることで、私たちが目にする多様な水引が完成します。光沢のあるもの、マットな質感のもの、金属的な輝きを放つものなど、その多彩な表情は、芯となる和紙の強さと外側を覆う加飾技術の組み合わせによって生まれています。素材の成り立ちを理解すると、その一本一本に、伝統的な知恵と技術が凝縮されていることが分かります。

画像提供:株式会社有高扇山堂
画像提供:株式会社有高扇山堂

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