紙から生まれ、人の願いを運ぶ:高崎だるま職人の手仕事
2026.01.06
紙から生まれ、人の願いを運ぶ:高崎だるま職人の手仕事
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冬の乾いた空気に包まれた群馬・高崎。全国の「縁起だるま」の8割を生産するこの街で、紙に祈りを宿し、願いの形をつくる職人がいる。群馬ダルマ製造卸販売の5代目・清水紀和さんは、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける職人だ。材料へのこだわり、手仕事の精度、そして「だるま」に込める思い。ものづくりの原点がこの工房にはある。
PROFILE|プロフィール
清水 紀和(しみず のりかず)
清水 紀和(しみず のりかず)

群馬ダルマ製造卸販売 5代目

紙に命を宿す、再生素材から生まれるだるま

工房の入り口にあったのは、まだ色をつける前の大きなだるまだった。白く乾いたその姿は、これから命を吹き込まれる前の“器”のようにも見える。

「この紙、もともとはマヨネーズ工場で使われていたトレー紙なんです」

清水さんはそう話しながら、素材を手に取る。十数年前、鳥インフルエンザの流行をきっかけに、食品工場で使われた紙は一度きりで廃棄されるようになった。衛生上の理由で行き場を失った紙を、だるま職人たちは新たな素材として再利用し始めたのだ。

かつては饅頭の箱やお菓子のパッケージなど、国内の古紙が主な材料だった。しかし、海外への資源流出が進み、国産古紙が手に入りにくくなった時期にこの素材と出会ったという。

「ありがたいことに、ちょうど紙が足りなくなっていた頃でした。紙質がなめらかで、だるまの成形に向いていたんです」

ただし、そのまま使うには紙の繊維少し弱い。清水さんは、従来の古紙とブレンドして使うことで理想的な質感を生み出している。

「強い紙だけだと表面がざらつくし、弱い紙だけだと形が崩れてしまう。そこで両方をうまく混ぜることで、いいところを引き出すんです」

紙を手でちぎり、水を含ませ、指先で繊維の感触を確かめる。わずかな違いが仕上がりに影響するため、ブレンド比率はその日の気温や湿度によって変える。数値では計れない感覚の世界――それこそが職人の領域だ。

マヨネーズ工場で使われていた卵のトレー
マヨネーズ工場で使われていた卵のトレー