

1961年生まれ。東京・深川の老舗結桶工房「桶栄」4代目の結桶師(職人)。江東区無形文化財保持者。立教大学卒業後、一般企業勤務を経て父に師事し、2007年に代表を継承。江戸櫃(えどびつ)など伝統の木桶を手作業で制作し、国内外で作品が評価されている。
川又さんの工房は、ものづくりが残る江東区の下町深川にある。創業は1887年。初代川又新右衛門は明治維新を経て、材木町として名高い木場が近く、良質な木材の調達がしやすいこの地で結桶師をはじめた。
風呂桶、寿司桶、飯櫃など、当時はあらゆるものに木桶が使われていた。桶栄が得意としてきたのは、飯櫃の上に一回り大きな丸い蓋を持つ江戸櫃。数ある木桶のなかで、もっとも技術を必要とされる。
「桶は、外側板の溝に丸い底板をはめ込み、箍(たが)で力をかけ固定するので多少形がゆがんでいても水が漏れません。しかし江戸櫃は蓋をかぶせる構造のため、ゆがみがあると蓋がはまらないので、蓋と本体が隙間なく合わさるよう真円に作る技術が求められます」
桶栄の江戸櫃は、料亭から家庭まで広く愛されてきた。ヒノキ科のサワラを原料とする江戸櫃は、入れておくことでご飯が美味しくなるという。
「炊き立てのご飯を江戸櫃に移すと、水分が調製され、温度も落ちつき、美味しく仕上がる上に、時間が経っても美味しい。抗菌や防カビなど、鮮度を保つ自然の力もあるんです」
かつては通貨の代わりに流通するなど、日本人にとってお米は欠かせないもの。そのお米の旨味を引き出す江戸櫃の誉れ高き職人として、技術を受け継ぎ続けてきた。
「江戸時代から変わらぬ素材と技法を続けているので、今では古語となった江戸結桶と呼んでいます。さらに結という漢字には、古事記にも書かれている“ものを生み出し造り成すという産霊(ムスヒ)”という意味もある。結桶師としての誇りが込められています」
