静けさの中の感覚──日本の美に触れて(トゥリース・デ・ミッツ)
2025.12.26
静けさの中の感覚──日本の美に触れて(トゥリース・デ・ミッツ)
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PROFILE|プロフィール
トゥリース・デ・ミッツ
トゥリース・デ・ミッツ

ベルギー在住。1989年より国際的に活動するアーティスト。

1985〜1989年、ルカ美術大学(LUCA School of Arts/シント・ルーカス校)で美術を学ぶ。同大学美術学科(陶芸・ガラス専攻)で1989〜2009年まで教鞭をとり、ガラス、陶芸、テキスタイルを含む「マター&イメージ」クラスターの代表を務めた。また、同学科の修士課程学生の指導にもあたる。第5回展『A PRO POT』は、2026年10月14日〜19日に島根県立美術館(松江市)で開催予定。

菊練り(小島 修さん)
菊練り(小島 修さん)

日本・信楽陶芸の森でのアーティスト・イン・レジデンス

アーティストとして、私は「親密さ」と「感覚的なもの」を自らの制作の中心に置くことに魅力を感じています。現代アートが主にコンセプチュアル(概念的)な方向に進むこの時代において、あえてそのような感覚的な領域に立ち返ることは、私にとって挑戦でもあります。

滋賀県・信楽陶芸の森で3ヶ月間、アーティスト・イン・レジデンスとして滞在したとき、私はすぐに、素材へのアプローチの違い──東洋と西洋の間にある大きな隔たり──を肌で感じました。

私の周囲には主に日本人のアーティストたちがいて、彼らは粘土という素材を、自らの思考に形を与えるためのものとして扱っていました。彼らがどのような作品をつくるのかを見ることも興味深かったのですが、私にとってより重要で、より心を動かされたのは、「どうやって」つくるのか、というその過程でした。

滞在初日、私は日本のアーティストたちが粘土をこねる様子を見て、その熟練した職人のような手つきに感嘆しました。彼らは「菊練り(きくねり)」と呼ばれる独特の練り方をしていたのです。この方法は、新しい作品づくりを始める前に、粘土の中の空気を完全に追い出すためのものでした。

ヨーロッパでは「ox-head technique(牛頭練り)」という、パン生地をこねるような方法で空気を抜きます。一方、菊練りでは粘土を中心に巻き込みながら、手の動きによって円を描くように折り目の模様をつくっていきます。その結果できる形は、まるで「へそ」を思わせるものでした。

この日本の練り方によって生まれる「しわのある形」は、私の記憶に深く残りました。

そして数年後、その印象は「NAVEL(へそ)」「BODY(身体)」「SKIN(皮膚)」という独自プロジェクトを、同じ滋賀の地で始めるきっかけとなったのです。

菊練りによる折り重なる粘土の回転運動──本来は新しい陶芸作品の始まりであるその動き――を、私はあえて「静止」させました。こうして生まれた無定形のオブジェを、私は「NAVEL-KNOT(へその結び目)」と名づけました。

乾燥の過程で、この“へその結び目”はほどけ始め、形に大きな緊張がかかって亀裂が入りました。そこで石山哲也さんから「金継ぎ(きんつぎ)」の手法を学び、ひび割れを金で修復しました。その金の線は、傷跡を輝かせ、私にとって初めて「傷や誤りの痕跡を受け入れる」ことを学ぶ経験でもありました。