奇跡の白は、いつまで。波佐見焼の生命線「天草陶石」の恵みと迫りくる危機
会員限定記事2025.11.07
奇跡の白は、いつまで。波佐見焼の生命線「天草陶石」の恵みと迫りくる危機
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先日、波佐見焼の産地で40年にわたり作陶を続ける職人の方に、お話を伺う機会がありました。釉薬について尋ねた際、彼は穏やかに、しかし探求者の目でこう語りました。「40年やってきたけど、まだまだ分からないことの方が多いですよ」。
この言葉に、私はものづくりの根幹にある「素材」という存在の、計り知れない奥深さと真正面から向き合う職人の姿勢を感じ、心を動かされました。一つの器の背景には、素材との長く、そして終わりなき対話があります。本稿では、波佐見焼の生命線ともいえる素材、特に「天草陶石」に焦点を当て、その恵みと、私たちがこれから向き合うべき未来への課題について考えていきたいと思います。

奇跡の白を生む「天草陶石」という生命線

波佐見焼の品質と美しさを語る上で、その主原料である熊本県産の「天草陶石」の存在は欠かすことができません。この陶石は、日本国内で生産される陶石の約8割を占める重要な資源です。

天草陶石が持つ最大の特徴は、不純物である鉄分の含有量が極めて少なく、純度が高い点にあります。このため、約1300℃という高温で焼成すると、濁りのない清らかな白色の磁器が生まれます。この透明感のある白さは、上からかける釉薬の色や絵付けを鮮やかに引き立てる、完璧な素地となります。

また、天草陶石から作られる磁器は、薄く仕上げても非常に硬質で丈夫な性質を持ちます。吸水性がほとんどないため汚れが付きにくく、電子レンジや食器洗浄機といった現代の生活様式にも対応できる実用性を備えているのです。さらに、他の粘土を混ぜ合わせることなく単独で磁器の原料となり得るという特性は、品質の均一性が求められる量産において大きな利点となります。波佐見焼が「丈夫で、使いやすく、手頃な価格の日用食器」として広く受け入れられてきた背景には、この天草陶石という優れた素材の恩恵が深く関わっています。


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