和紙という矛盾の美 ── 強さと繊細さのあいだで(サラ・ブレイヤー)
2025.11.28
和紙という矛盾の美 ── 強さと繊細さのあいだで(サラ・ブレイヤー)
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PROFILE|プロフィール
サラ・ブレイヤー
サラ・ブレイヤー

京都を拠点に活動する国際的に高く評価されているアメリカ人アーティスト。独創的な「流し込み和紙」作品やアクアチント版画で知られ、日本の木版画家・吉田遠志に師事し、和紙を用いた独自の版画技法を確立した。

日本の伝統的な和紙の里・越前で継続的に制作を行う唯一の西洋人アーティストでもあり、日本文化庁からその革新的な和紙作品に対して表彰を受けている。作品は大英博物館、スミソニアン博物館、そして京都の光明院など、世界の主要な美術館や寺院に所蔵されている。

Website:https://sarahbrayer.com/

流し込み和紙作品 「From the Sea to the Stars」
流し込み和紙作品 「From the Sea to the Stars」

和紙との出会い 、一枚の紙が変えた世界

私は、一枚の紙が自分の「アートの見方」や「空間の捉え方」、そして「静けさ」への感じ方までを変えてしまうとは思ってもみませんでした。けれど、まさにそれが起こったのです。私が初めて「和紙」という存在に出会ったときに。

それまでの私にとって紙とは、ただ「描くためのキャンバス」でしかありませんでした。確かに美しい素材ではありましたが、受け身で、その存在を意識することはほとんどありませんでした。けれど、和紙は違いました。そこには「存在感」があります。内側から光を放ち、空気や質感、そして軽やかさを内包しています。和紙を通じて、私は瞑想や自分自身の創作過程との深いつながりを見出すことができたのです。

ニューヨークでの気づき、呼吸のように生まれる和紙

大学で美術を学び、卒業後すぐに日本へ渡った私ですが、最初に和紙と出会ったのは1986年、ニューヨークのある紙工房を訪れたときでした。職人たちが水の中から繊細な繊維をすくい上げ、静かな確かさでスクリーンの上に重ねていく様子を見ました。その作業のリズムは、まるで呼吸のようにゆっくりと、意図的で、落ち着いていました。繊維はスクリーンの上で踊り、紙が乾くと、それは柔らかくも強靭で、ほのかに光を放つものへと変化しました。

和紙は単なる紙ではなく、静けさの中から深く探求できる「芸術」そのものでした。その工房で私は心の中で思いました──「これを日本でやりたい!」と。紙で作品を作るための場所を日本で探そうと、胸が高鳴ったことを今でも覚えています。