まず、基本となる素材そのものについて理解を深めていきましょう。若狭めのう細工の主原料は、瑪瑙(めのう)と呼ばれる鉱物です。瑪瑙は石英(せきえい、クォーツとも呼ばれる)の非常に細か い結晶が網目状に集まってできた鉱物の一種です。化学的には二酸化ケイ素(SiO₂)から成り、美しい縞模様を持つことが特徴です。
工芸の素材として見たとき、瑪瑙には2つの重要な物理的特性があります。一つは、その「硬さ」です。鉱物の硬さを示す指標であるモース硬度において、瑪瑙は7を記録します。これは鋼鉄のナイフ(硬度5.5)よりも硬い数値であり、加工が非常に難しいことを意味します。しかし、その硬さゆえに、一度完璧に磨き上げられると、永続的な深い光沢を放つのです。
もう一つの重要な特性は、肉眼では見えない微細な孔が無数に開いている「多孔質(たこうしつ)」であるという点です。この性質があるからこそ、若狭めのう細工の代名詞とも言える「焼き入れ」の工程で、熱が内部まで伝わり、石の色を劇的に変化させることが可能になります。硬質でありながら、変化を受け入れる余地を内に秘めている。この二面性が、瑪瑙という素材の面白さであり、工芸の可能性を広げる土台となっているのです。