「無言の対話」で切り拓く、伝統と現代をつなぐ鎌倉彫の新たな境地
2026.01.26
「無言の対話」で切り拓く、伝統と現代をつなぐ鎌倉彫の新たな境地
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鎌倉彫後藤久慶ギャラリーの当主であり、仏師・運慶の29世孫にあたる後藤久慶さん。20歳という若さで先代である父を亡くし、師を失った後藤さんが、いかにして独自の境地を切り拓き、現代の暮らしに調和する作品を生み出すに至ったのか。そこには、先代、先々代が遺した作品との無言の対話があった。伝統の継承者としての責任を胸に、次の世代を見据えて歩み続ける職人の軌跡を追う。
PROFILE|プロフィール
後藤 久慶(ごとう きゅうけい)
後藤 久慶(ごとう きゅうけい)

1972年鎌倉生まれ。彫刻家・小畠廣志氏に師事し、1998年に三代鎌倉彫 後藤久慶を継承。2002年より美術家として本名の後藤慶大で活動を開始する。2005年、漆芸や彫刻を軸に、工芸作家ユニット「雪乃福」やアーティストユニット「eventum」を結成。

2024年「刻のむこう側」2025年「鎌倉祭アート&スペース」ほか、ギャラリーや美術館での展覧会を多数開催。また、円覚寺をはじめ鎌倉の寺院で仏具制作・位牌修復も手がける。

「特別でない日も特別な鎌倉彫で特別な暮らしを愉しむ」を掲げ、鎌倉彫の受注制作をするほか、ライフワークとして各地の小中学校で授業やワークショップを通じて鎌倉彫の普及にも努めている。

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宿命との対峙、あるいは冒険の始まり

鎌倉・鶴岡八幡宮のほど近く、静謐な空気が流れる場所に後藤久慶さんの工房はある。明治期に曾祖父がこの地を求めて以来、代々鎌倉彫の歴史を刻んできた場所だ。後藤さんは幼い頃から周囲に「跡取り」と呼ばれ、漠然とその宿命を感じながら育ったという。

中学卒業を控えた春、先代である父に呼び出された後藤さんは、進路について問いかけられる。「鎌倉彫をやるんだったら、もういくらなんでも始めないと遅い」。先代はわずか4歳で父(後藤さんの祖父)を亡くし、6歳から修業を始めている。

幼くして多くの職人を抱える家の長となるべく、「早く一人前になれ」という重圧の中で育った先代は、息子には同じ苦しみを味わわせたくないと思いながらも、伝統を絶やすわけにはいかないという葛藤の中にいたのだろう。沈黙を破るように発せられた父の言葉に、後藤さんは「よろしくお願いします」と答え、職人への道を歩み始めた。

ギャラリー内には後藤さんの作品のほか、歴代の作品が展示されている
ギャラリー内には後藤さんの作品のほか、歴代の作品が展示されている