
笠原が「相棒」として挙げたのは、刺身を引くための柳刃包丁だった。
「結局、営業中に一番手にしている時間が長いのは、包丁なんですよね」
数ある道具の中でも、包丁は料理人の仕事の中心にある。笠原が長年使い続けているのは、京都・錦市場の包丁店「有次」の柳刃包丁だ。だが、その名前を語る口調に、親しみを込める。
「いろいろな価格帯の包丁を持っている中で、これが一番、自分の手に合っているんです」


包丁選びというと、多くの人が「切れ味」を基準に考える。だが笠原は、少し違う視点を持っている。
「切れ味って、正直、自分で研げばどうにでもなるんですよ」
それよりも大事なのは、重さとバランス。極端に重すぎても、軽すぎても、手は疲れる。
「自分の体にフィットするかどうか。結局、そこが一番なんです」
包丁は、料理人の体の延長になる道具だ。だからこそ、手にした瞬間の違和感は、積み重なって大きな差を生むことになる。