日常の美を縫い映す立体刺繍:家長百加が放つエクレクティックな魅力
2025.06.05
日常の美を縫い映す立体刺繍:家長百加が放つエクレクティックな魅力
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17世紀イギリスで流行した立体刺繍「スタンプワーク」と、日本の伝統技法である日本刺繍。2つの刺繍文化を融合し、身近なモチーフに宿る美しさを立体的に表現する刺繍作家・家長百加さん。工業染色を営む家庭で育ち、工芸に魅了された彼女が、糸と針で紡ぐ日常の物語とは──。京都の家長染工業を訪ね、お話を伺った。
PROFILE|プロフィール
家長 百加(いえなが ももか)
家長 百加(いえなが ももか)

1998年生まれ、京都府出身
2022年 金沢美術工芸大学工芸科卒業、2024年同大学院美術工芸研究科染織コース修了
2023年 「2023伊丹国際クラフト展-ジュエリー-」入選
2024年 「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 JAPAN 2024」 MUFG特別賞を受賞

完全に御することのできない魅力

幼い頃から工芸は身近な存在でしたか?
実家が京都で染工場を営んでいます。曽祖父の友禅染め工場を発祥とし、現在は父が洋服のプリントを中心にオートスクリーンやインジェットプリンターを用いた仕事を行っています。祖父母の家でもあったので、小さい頃から工業製品としての布が身近にありました。プリントの染料は自動調液機というコンピューターで調色、調合しますが、気候や湿度に合わせ、必ず職人の手によって最終の微調整が行われます。そうした染めの工程を間近で見て、機械で量産される布も人の手が加わって完成していることを知りました。
工芸を学ぶきっかけや工芸作家となった経緯について教えてください。
高校時代には「手に職をつけたい」と考えるようになり、染色や陶磁など色を使ったものづくりに興味を持ちました。九谷焼など、工芸が根付く静かで落ち着いた環境で学びたいと思い、金沢美術工芸大学に進学しました。1年生のときは専門を選択せずに工芸全般を一通り学び、2年生の専門を選択する際、織りを体験したときの楽しさと、「素材との距離感や素材の硬さで選ぶのも手だ」という漆芸の田中信行教授の言葉にも影響を受け、染織を選びました。私にとって、金属は硬すぎ、土は全身の動きが伝わるため、自分の体や気分までをも反映しすぎたのです。繊維は、表現するのに手触りや力加減などがちょうど良く、繊細な絹糸は、扱いやすさと扱いにくさの間にある素材です。熟練した職人のように完全には繊維をコントロールできませんが、それもまた魅力に感じています。
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