「結婚して引っ越してきたばかりの頃は、おとぎ話の国に迷い込んだような感覚でした。久留米絣の作り方も、作るのがどれほど大変かも知らないまま飛び込んだんです」
そう語るのは、
池田絣工房4代目・池田大悟さんの妻、清香さん。
千葉県出身の清香さんは、中学生の頃に父親の地元である福岡市へ転居。社会人になってからは仕事のため他県に移り住むこともあった。そんななか、共通の知人の紹介で大悟さんと出会った。
「同僚が夫の遠い親戚で、私が映画や音楽、本が好きだったので『趣味が合うんじゃない?』と夫を紹介してくれたんです。いきなり結婚などといった話ではなく、気の合う友達ができればいいな、くらいの感覚でした」
やがて結婚を意識するようになった頃、大悟さんの家業が久留米絣の織元であることを知る。当時はどんな印象を受けたのだろうか。
「久留米絣の名前はなんとなく知っていましたが、ネットで調べるうちに重要無形文化財にも指定されていることを知りました。でも、その時は伝統工芸の世界がどれほど奥深いのか分かっていませんでした。未知の世界のため想像するにも限界があり、色々と悩んだ挙句、とにかく『自分にできることで手伝えたらいいな』と、結婚を決めました」
しかし、初めて工房を訪れた際、その規模感に圧倒されたという。
「主人とは外で会うことが多かったので、工房を見るのは初めて。実際に足を踏み入れてみると手織り機や藍染の甕もたくさんあり、想像以上の規模感で、正直どうしようと思いました。やっていけるのかな、と内心は焦りでいっぱいでした」
不安を抱えながらも、清香さんは伝統を受け継ぐ家族の一員としての一歩を踏み出した。