株式会社田中帽子店 代表取締役。大学卒業後、数年間フリーターとして将来を模索。東京の帽子問屋で3年間修業後、2016年に田中帽子店に入社し、6代目に就任。オンライン販売やオリジナルブランドの展開、直営店の立ち上げ、ポップアップストア出店など、精力的に活動し続けている。
麦わら帽子は、昔から農家さんが夏の農作業時にかぶっていた帽子で、紫外線をカットすると言われてきました。これまでは科学的証拠がなかったのですが、あるメディアの取材で紫外線の遮蔽率を検査してみたら、なんと100%。「UVカット99%」と謳っているのは、人の動きで多少は紫外線を浴びるから。でも、実際の遮蔽率は100%です。
麦わら帽子は、紫外線を通さないのに通気性がある。その秘密は麦わらにあり、中のストロー状の空洞が、蒸れや湿った風を逃がしてくれます。ふんわりと柔らかく頭を包み込んで、暑い日でも涼しい。素材を生かし、理にかなった素晴らしい帽子なんです。
当社の創業は1880年、最初は麦農家でした。この辺り一帯は麦畑だったんです。川の下流で、土が栄養を豊富に含んでいて、麦がよく育つ土地でした。
麦の穂はビールになり麦わらは捨てていたんですが、それではもったいないと、明治時代に真田紐(さなだひも)という麦わら帽子の原料に加工して、ヨーロッパへ輸出するようになりました。大正ロマンで帽子文化が広まり、人々がカンカン帽をかぶって外出する頃、ドイツからミシンを輸入して、帽子づくりが始まりました。
帽子ブームの後押しもあり、手がける会社が10軒ほどに増え、春日部は麦わら帽子の一大産地になりました。しかし、後継者問題や帽子の需要低下とともに減っていき、現在は当社のみになってしまいました。