江戸切子の歴史は、江戸時代後期に始まったとされています。当時のガラス製品は非常に貴重でした。そこに精緻な彫刻を施した江戸切子は、一部の特権階級や富裕な町人層だけが手にできる、極めて高価な奢侈品だったのです。その主な役割は、日々の暮らしで使う実用的な器としてではなく、宴席などで自らの社会的地位や財力を示すためのステータスシンボルとしての意味合いが強かったと言われます。
この時代の江戸切子は、庶民の生活からはかけ離れた存在でした。人々がその輝きを目にする機会は限られており、まさに「憧れの対象」であったことがうかがえます。使われる場面も、日常的な食事の場ではなく、客をもてなす特別な席や、贈答品として用いられることが中心でした。この段階では、江戸切子は個人の楽しみというよりも、社会的な関係性の中でその価値を発揮する工芸品だったと言えるでしょう。
