信楽焼のもの づくりの出発点は、原料となる粘土にあります。信楽焼の生命線とも言える良質な粘土は、約400万年前に信楽の地が巨大な湖の底だった時代に堆積した「古琵琶湖層群(こびわこそうぐん)」と呼ばれる地層から掘り出されます。
しかし、掘り出された土をそのまま使うわけではありません。興味深いのは、性質の異なる複数の土を、作るものに応じて職人が絶妙に配合する「ブレンド」の工程があることです。
主となるのは、植物の化石などを多く含み、非常に高い粘り気を持つ「木節粘土(きぶしねんど、有機物を多く含み成形しやすい粘土)」と、石英や長石の粗い粒子を含み、火に強い「蛙目粘土(がいろめねんど、耐火性が高く作品の骨格となる粘土)」です。これらの土を混ぜ合わせ、土練機(どれんき)という機械で中の空気を抜きながら、均一な硬さになるまで繰り返し練り上げていきます。この「土練り(つちねり)」と呼ばれる作業が、後のすべての工程の質を左右し、極めて重要です。まさにこのブレンド技術こそが、大きな作品にも耐えうる生地の強さと、細やかな成形を可能にするしなやかさを両立させる、信楽焼の懐の深さを生み出しているのです。