土が器に変わるまで──制作工程の軌跡と炎が宿す生命力の源泉
会員限定記事2025.10.06
土が器に変わるまで──制作工程の軌跡と炎が宿す生命力の源泉
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手にした1つの器が、どこから来て、どのようにしてこの形になったのか。その温かい土肌や、1つとして同じではない炎の跡を見ていると、その背景にある物語に思いを馳せたくなることがあります。信楽焼の器が持つ独特の存在感は、一朝一夕に生まれるものではありません。それは、はるか昔の地層から掘り起こされた一塊の土が、職人の手に渡り、そして灼熱の炎と対話する、長く緻密な工程を経て初めて私たちの元に届けられるものです。
この記事では、信楽焼が「素材」から「作品」へと姿を変えるまでの軌跡を、一歩ずつたどっていきます。それぞれの工程に込められた知恵や技術、そして工程の違いが最終的にどのような表情を生み出すのか。少し専門的な言葉も出てくるかもしれませんが、一つひとつを理解することで、器の生命力の源泉が見えてくるはずです。

すべての始まりは、信楽の土地に眠る“土”にある

信楽焼のものづくりの出発点は、原料となる粘土にあります。信楽焼の生命線とも言える良質な粘土は、約400万年前に信楽の地が巨大な湖の底だった時代に堆積した「古琵琶湖層群(こびわこそうぐん)」と呼ばれる地層から掘り出されます。

しかし、掘り出された土をそのまま使うわけではありません。興味深いのは、性質の異なる複数の土を、作るものに応じて職人が絶妙に配合する「ブレンド」の工程があることです。

主となるのは、植物の化石などを多く含み、非常に高い粘り気を持つ「木節粘土(きぶしねんど、有機物を多く含み成形しやすい粘土)」と、石英や長石の粗い粒子を含み、火に強い「蛙目粘土(がいろめねんど、耐火性が高く作品の骨格となる粘土)」です。これらの土を混ぜ合わせ、土練機(どれんき)という機械で中の空気を抜きながら、均一な硬さになるまで繰り返し練り上げていきます。この「土練り(つちねり)」と呼ばれる作業が、後のすべての工程の質を左右し、極めて重要です。まさにこのブレンド技術こそが、大きな作品にも耐えうる生地の強さと、細やかな成形を可能にするしなやかさを両立させる、信楽焼の懐の深さを生み出しているのです。

土をブレンド・練り合わせるための「土練機(どれんき)」<br>画像協力:卯山窯(株)卯山製陶
土をブレンド・練り合わせるための「土練機(どれんき)」
画像協力:卯山窯(株)卯山製陶

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